彼は七つ、私は五つになったばかりだった…。
「へぇ、蒼の君お酒強いんですねぇ」 少し呆れた様にワタルが言った。 「…あれ?新月は寝てしまったの?」 まるで、アルコール等一滴も入っていないかの様な涼しげな顔のまま、蒼の君は優雅な手つきで酒瓶を手元に引き寄せた。 「蒼の君が次から次へと注がれるから、とうに限界超えて、酔いつぶれてしまわれましたよ」 ふぅ…とため息をつきながら、ワタルは目の前といわず、床にまでゴロゴロと転がる空き瓶たちを盗み見た。 「仕方ないだろう?ワタルは私の酒が飲めないと言うのだから、その分新月に薦めてしまうのは自然の成り行きというものだ。それに、この酒は新月の好物だし」 語尾にハートマークがついてもおかしくないような物言いで手近な瓶を抱きしめる姿は、見るものが見ればそれなりに愛らしいのかもしれないが、ワタルにしてみれば己によく似た姿の男が酒瓶抱えて微笑む姿など、ただただ目眩を誘われるばかりだった。 「…すみませんね。お酒は天敵なもんで」 一見素面に見えるが、実は相当酔っているのかもしれない。頬に赤み一つささないその顔を横目に見ながら、ワタルはそっと、本日何度目かになるため息をこぼした。 「…お前もそのうち、嫌でも飲めるようになるさ…」 ささやかれたその言葉にこめられた苦い思いに、ワタルは不意に引き寄せられた。 「誉められた逃げ道ではないが、そうでなくては耐えられぬことも、ある…」 魔界の海よりも蒼く澄んだ瞳に、悠久の時を刻んで来た者だけが持つ言い知れぬ深さをたたえ、溢れる程の悲しみと愛しさにその双眸を細めた。 「…酒が入っていなければ、こんなこと、口が裂けたって話せるものではない…」 ワタルは、蒼の君のその様子に冗談で誤魔化せる事でも、茶化して済ませられる事でもないのを感じ取った。
「…彼はね、神様の世界で、それも皇族に生まれるには…とても、とても優しすぎたんだ…」 |
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