「離せっ!私は行かなくちゃならないんだ!」 「…そんなこと言って…カガリ場所分かってんの?」 正直者のスパイ ☆第三話☆ キラのきょとんとした言葉に、カガリは見事に時を止めたが、やっぱりねという少し呆れを混ぜた声音と共に引かれた腕に意識を取り戻す。 「私は戻らない!」 「うん、だからこっち。MSが置いてあるトコ行きたいんでしょ?」 「えっ…」 こっち、と言って走り出したキラの後を呆然としつつも着いて来るカガリを確認し、キラは小さく苦笑した。 「全く…少しは信用してくれてもいいのに…」 「別に、私はキラを信用していないわけじゃ…」 激しくなる爆音や振動に足を取られそうになるカガリを庇いつつ進むキラに、カガリは少しバツが悪そうに視線を逸らす。 「何言ってんの。そんなつもりなくたった、カガリの態度がそう言ってれば同じことじゃない」 「どうゆうことだよ!?」 むっとして言い返せば、キラは仕方ないなぁとでも言いたげな瞳で肩を竦める。 「カガリ、自分の立場分かってる?」 「当たり前だ!だから私はここに、地球軍の兵器が造られてるっていうヘリオポリスに来たんだ!」 「ほら、そんなこといばって言うことが間違ってるんだよ」 「なっ!?」 目を見開き、次いで睨みつけてくるカガリを視界の隅に置き、キラは周りを確認しつつ比較的安全な道を選ぶ。 「君はオーブの代表首長ウズミ・ナラ・アスハの一人娘で、獅子を継ぐ者でしょ?そんな君がこんな危ない所に来てどーすんのさ」 「獅子を継ぐ者だからこそだ!民が危ないかもしれないのに、私だけ安全な所にいられるかっ!」 声を荒げるカガリにため息をつく。 「君は、安全な所にいなくちゃいけないんだよ」 「だからそんなことはっ」 「それが君の役目なんだ」 「え?」 静かな声音に、響く銃声が遠く感じられた。 「人の上に立つ者は全体を見なくちゃいけない。そして全ての声を聞かなくちゃいけない。その声を聞かなくちゃいけない人があっちこっち動いてたら、どうやって声を届けたらいいの?」 「……っ」 「皆がちゃんと声を届けられるように居場所をはっきりしておかなくちゃならない。でもそのせいで命を脅かされることもある。だから護衛や兵がつく。声を聞く人がいなくなったら大変だから。だからじっとしていなくちゃならない。窮屈でも、苦しくても。ウズミ様がそうしていらっしゃるように」 「……お父様、が…」 「そう。カガリは自分一人が安全な所で護られているのは嫌だって言うけど、それは意味も無く護られているんじゃないんだよ?必要だからそうしてるんだ。君は人に命をかけて護られるだけの何かを求められているんだ。…ねぇ、君がそうして抜け出す度に、危険に飛び込む度に、君を護る役目の人達がどうなるか、その評価がどうなるか、考えたことは無い?」 「え?」 「護るべき対象の君が消えて、危険な所に行って怪我したり、万が一死んでしまったりしたら…その人達はどうなると思う?」 「そんなの、考えたこと…」 「君はまずそれを考えなくちゃ。キサカさんや他の護衛の人達、きっと今頃必死に君を探してる。そして見つけられないことを酷く怒られているかもね。もしかしたら、君やウズミ様に好意的じゃ無い人達に知れて、ここぞとばかりに攻撃されているかもしれない」 「……っ」 「責任を取らされたり、罰を受けたり、職を失ったり、家族が路頭に迷ったり…まあそれは極端な例だけど、でもカガリの行動如何によってはあり得ないことじゃないでしょ?それ、全部分かっててここに来たの?」 返す言葉の無いカガリの手を引き、そっと促してキャットウォークに出る。 硝煙と舞い上がる埃の向こうに、巨大な灰色のMSがあった。 呆然とフェンスに縋りつくように近寄るカガリに、キラは周囲を警戒しながら続ける。 「…これを、自分の目で見たかったんでしょう?」 「……こんな、こんな物を…っ!!」 「カガリっ!?」 項垂れて叫ぶカガリを勢い良く引っぱって倒し、その上に覆い被さる。 下からは絶え間なく銃声が響き、ついさっきまで自分達がいた所に撃たれたマシンガンの弾が壁に大きな穴を開けた。 その様子に顔色を失くすカガリを立たせ、今来た道を戻って駆け出す。 「もぉ〜だから早く帰れって言ったのに!」 「…あ…」 「カガリ戦場なんて来たこと無いでしょ?それなのに一人で確かめに来るなんて無謀だよ、無茶だよ、考え無しだよっ」 「だ、だって私は…っ」 「いい?こういう情報の裏づけってか、確認をする人は、ちゃんと専用の訓練を受けたそーいう役目の人がいるの!カガリはホントはそーいう人の報告を聞くのが仕事でしょ!?そんないろはも知らない素人のカガリが来たって足引っぱるだけじゃんか!」 「私は足を引っぱってなんかっ!」 「今現に引っぱってるじゃない、僕の。僕がここまで護って案内してあげてなかったらカガリ何回死んでたと思うのさ。そんで、一体何人のカガリ付きの人達が処分されると思ってんの?自分の役目放っぽり出して、自己満足のためだけに出来もしない人の仕事奪って、挙句死んじゃいましたじゃ、キサカさんが気の毒だよ…」 「そこまで言うか!?」 「言うよ、言いますよ〜。ちゃんと聞くべき人がせっかく調べた事を聞きもせず、信用もせず、自分の目で見たことしか信じらんないなんて言ってとんずらしてたら、現場で命張ってる人間は堪ったもんじゃないの!分かる?」 「そ、それは…っ」 「人のこと信用出来ずに自分の目しかいらないなら、『アスハ』の名前捨てて家出たら?どーせ血は繋がって無いんだし、簡単でしょ」 「キラっ!!」 「それが嫌ならっ」 容赦の無いキラの言葉に悲痛な声を上げたカガリを遮る様に、キラはバンっと壁を叩く。 「信じなきゃ、ウズミ様を」 微笑を浮かべて告げられた言葉に、カガリは一瞬何のことか分からずぽかんとする。 「ウズミ様が信頼して任せている人達が持ってくる報告を聞かなきゃ。君の目で見たものじゃ無いけれど、君の目の変わりになって働いている人の目を信じなきゃ、ダメだ。じっとして待ってるのは苦しいだろうし、誰かが傷ついた報告を聞くのは辛いだろうけれど、それでも君はそれを聞かなきゃ。カガリはオーブの獅子の娘、なんだから」 「…………」 「たった一人の、お父さんなんだからさ」 神妙な顔つきで頷いた少女に、キラは笑みを深めて促す。 「さ、早く乗って。オーブに無事に帰ってね。ウズミ様やキサカさんにヨロシク」 「へ?」 そこには、いつの間にかシェルターの入り口がぽっかり穴を開けている。 良く見ると、キラが先程叩いた壁には非常用のシェルターのボタンがあった。 「あの、キラ…」 「お父さんをあんまり困らせないで、ちゃんとオーブを護ってね?退役したら、オーブで楽しい老後を過ごすって決めてるんだから頑張ってくれないと」 「は?」 「じゃあ、カガリ。ほどほどに元気でね」 「キラ…っ!」 何かを言いかけたカガリを押し込むと無情にも扉が閉まっていく。 その向こうでにこやかに手を振り、端末に繋いでシェルターが正常に作動したことを確認してほっとする。 そして、爆音と銃声に重なるように響いてくる振動をものともせず、キラはコキコキっと首を回して駆け出した。 「さーて、おっしごとおっしごと〜」 戦場に向かう者の言葉では、無い。 強制では無いはずなのに、パイロットスーツを着て軍に志願して訓練もちゃんと受けて、作戦にまで参加していたらしい幼馴染とばったり会うはずの無い場所で会ってしまったせいで、流石のキラの優秀なおつむも少々オーバーヒートしてしまっていたらしい。 気がつくと地球軍の女性仕官と狭いコックピットの中に居て、ふと映った視界にはさっき別れたはずの友人達の姿を見つけてしまった。 ―――― なんでそこにいんの??? そんなキラの疑問に答えてくれる者がいるはずも無く、目の前で交戦しているジンが彼等を踏み潰しそうなほど際どい位置にいることにぎょっとする。 慌てて状況を確認して、短いやりとりの後MSのコントロールを奪ってジンに相対した。 中にいるのは、とりあえず同胞。 同じ軍に所属する、一応仲間。 けれど、顔も名前も知らず、向こうもこれに乗っている自分が同胞だとは思ってもいないだろう…誤魔化せばいっか、とキラはあっさり決めた。 訓練受けたコーディネーターなんだからちゃんと脱出してねvと、願いつつ攻撃に転じる。 ―――― 南無三っ! コックピットと直ぐに爆発するような急所を外して斬り付けた割には脳裏に浮かんだ言葉は成仏を願う物だったが、今はそれを思い直す暇も無い。 都合よく気絶してくれた地球軍の女性を一先ず放っておいて、キラはコックピットからひょいっと顔を出した。 呆然と機体を見上げていたサイ達と目が合うが、あんなに風に別れてからまだ一時間経っていないことを考えると妙に気恥ずかしい。 「やあ…」 「…あ………キラじゃん………」 「キラだ…」 「キラだな…」 「キラね…」 「はは、無事で何より」 ちょっと間抜けな再会だった。 「手伝うか〜?」 「うん、お願い〜」 見慣れた顔を見て気が抜けたのか、トールがいつもの調子で声をかけて女性を下に降ろすのを手伝う。 そして、平和な国の子供らしい好奇心からか、それともキラといるせいでついてしまった妙な度胸とズレた感覚のせいか、MSを興味深気に弄り出す。 もしくは将来を嘱望されている工業カレッジの生徒としての向上心からだったのかもしれない…が、キラとしては女性が気づかない内に、早く彼等を避難させたかったのだが、名残惜しさのせいで嗜める口調に押しの強さが足り無かったかもしれない。 「早く避難した方がいいって〜」 「ん〜もーちょっとだけ♪」 「すっごいな〜キラがこれ動かしてたのか」 「トール〜…シェルター探さなきゃなんでしょ?」 どうしようかなぁ、と流石に頭を悩ませ始めた頃、泡を食ったような悲鳴が上がった。 「あなた達何をしているの!?離れなさいっ!」 さっきまで気を失っていたはずの女性が顔色を変えて立ち上がり、キラ達に向かって銃を構えていた。 その殺気だった様を確認し、キラは今までに無い深〜いため息を吐く。 「ほぉ〜らぁ〜……」 「……ごめん」 言わんこっちゃ無いと言外に含めたキラに、トール達も流石に気まずそうに小さくなって目を逸らした。 それでも、悲壮感、というものは、キラを含め、何処にもありはしなかった。 |
つづくv |
正直者のスパイ、第三話でしたv
実は前回と今回の話の前半部分はは全く入れる予定に
無かった話でした…(汗)
種デスのカガリの考え無しさ加減に種一話を思い出したら
書かずにはいられませんでした…(苦笑)
代表ならもうちょっとでいいから自覚を持ってくれ!
贅沢は言わん!ラクスの10分の一でいい!(苦笑)
…というわけで、予定外が二話入ったので次では絶対
終わりません…てか、終われません(汗)