用意されていた料理を綺麗に平らげ、太一と空は箸を置いて満足気に手を合わせた。 「「ごちそう様でした♪」」 片付けようと席を立った太一を光子郎が慌てて止める。 「太一さん、僕等がやっておきますから少し休んで下さい!あまり寝てないんでしょう?」 ヤマトが横からさっと二人の食器を持って再び台所へ向かった。ついて行こうとした光子郎を笑って止め、丈がその後について行く。 「太一さん、空さん、そうしたら?『何が起こるか分かんない時は、食べれる時に食べて、休める時に休んどけ』でしょ?」 ミミがタネモンを抱えながらにっこり笑った。 「そーさせてもらうか?」 二人の言葉ににっこり頷き、ミミが布団を直してくると光子郎の部屋に向かった。 「…写真撮らなくて、良かったわね」 光子郎の視線が外れた隙に、こっそりと二人だけで話し合う。 「どうかしました?」 不思議そうな光子郎に、二人はさっと誤魔化し笑いを浮かべるのだった。 「じゃあ光子郎。今の所リアルワールド内で暗黒デジモンの気配は感知されてないんだな?」 空が太一を見れば、彼もそうだなと頷いた。 「何だ、太一達まだこんなトコにいたのか?」 話している内にヤマトと丈が戻って来たので軽く礼を言い、休む前に気になっていたことを光子郎に確認することにした。 「暗黒のデジモンであるデーモンが『暗黒の海』に押し込まれて、その後音沙汰が無い…て言ってもまだ一晩だけどな。この状況をどうみる?」 その場に集まっている者全員を見回し、太一が真剣な瞳を向けた。 「そうですね…デーモンはゲートを己の力で開けられるそうですから、本来ならいつ来てもおかしく無いのに沈黙を守っているということは…」 光子郎に続いて丈・ヤマト・空が意見を出す。 「そんな所じゃないですか?」 太一がふむ、と状況を整理した。 「仕方ねえ…やっぱ寝るわ。今はそれが最善みたいだしな」 そうして全員で光子郎の部屋に戻り、ミミが整えてくれた布団の中に太一と空は揃ってもぐりこんだ。 「…寝る準備をして直ぐ寝られるのは、まあ、オレ等皆の特技みたいなもんだけど…二人とも寝付きよかったな…」 ヤマトが寝たことを確認してそっと光子郎達の側に戻って来る。 「…少し位、手を抜いたっていいのに…」 やれやれとタネモンが言うのをミミがくすりと笑って同意した。 ピコ―――ン♪ 「!?」 突然の受信音に、その場にいた全員がびくりと反応した。 「げ…はゲンナイのゲ♪」 蛙を踏み潰したような顔をしたヤマトに、握り拳を飲み込んだような丈が裏拳で突っ込めば、げんなりとヤマトが呟いた。 「と、とりあえず開けて見ますね」 ピコンっという電子音と共に、音声によるメールが開いた。 『光子郎、太一に連絡して直ぐにデジタルワールドに来るよう手配して欲しい。ブラックウォーグレイモンの起こす次元の歪みが、とうとうリアルワールドにまで及んでしまった。止められるのは太一とウォーグレイモンしかいない。アグモンの進化の力はチンロンモンが用意してくれる…頼む、急いでくれ一刻を争う事態になってしまった』 「……………」 メールが終わり、一同は何とも言えない表情で顔を見合わせると一斉に溜め息をついた。 「………じじぃめ…」 突然聞こえた声に驚いて振り返れば、不機嫌そうな顔をした太一が頭を掻きながら上半身を起こす所だった。 「…じじぃの声で起きた。ご指名が下ったからな、行って来る」 ふんっと鼻で笑った太一の言葉に、それもそうかと彼を庇うことを早々に放棄した。 「…太一、どーやって行くの?」 それでもやはり眠いのか、大きな欠伸を噛み殺して空も起き上がった。 「ま、とりあえずヒカリに連絡とってみる。流石に一乗寺の親父さんの会社にはいないだろうけど、あいつらもまだどっかで集まってるだろ…」 言いながら素早くメールを打ち、妹のD−ターミナルに向けて送信した。 「…あんま、寝れなかったな…」 ヤマトが気の毒そうに太一を見る。 「ふん。こんな事は三年前ならよくあったことだぜ。寝入った途端敵襲とか、挟み撃ちとか、倒したと思ったらお次の方〜とか…」 太一がばさりと布団をめくり、すっくと立ち上がって握り拳に力を込めた。 「首洗って待ってやがれよ、オイカワモンっ!!」 100%マジな太一の言葉にがくりと力が抜ける。 「オ…『オイカワモン』っ!!??」 おいおいおいと思いつつ声をかければ、太一は何食わぬ顔であっさり言い放つ。 「そ、それにしても『オイカワモン』は…」 間違ってはいない…間違ってはいないが…ここまで来ると、もう笑うしかない。 「お、ヒカリだな。……おい、今全員タケルん家に集まってるみたいだぞ。大輔達の話も聞きたいし、一緒に行くか?」 丈の言葉に頷いて立ち上がり、それぞれ出かける準備をする。 「さーて、まず序盤戦ってトコだな…参謀!デーモンは動くと思うか?」 太一が不敵に笑い、パソコンと周辺機器をごそごそと用意している光子郎を振り向く。 「…いえ、今現在沈黙を守っているんです。奴等が動くとしたら、こちらか『オイカワモン(仮)』に何かがあってからでしょう。序盤の小競り合い程度は静観してるでしょうね」 光子郎の考えに、太一は自分の中でも考えを整理して頷いた。 「…つまり、この戦いに奴等は出て来ない。チンロンモンがくれるって力を使い切っても問題ないな?」 ここにいる誰もが、アグモンとブラックウォーグレイモンの邂逅の話を知っている。 戦いとは命の奪い合い。 ましてや命と存在意義を架けた戦いに、心と体双方に痛みが伴うことはもはや必然。 そして、今始まる戦いに先陣を切ることになったのは、やはり八神太一とそのパートナー。 力が無いことがもどかしい。 だから、今はただ、見守るだけ。 「…行こう」 戦いが、始まる。
つづく |