怒涛のようだった奪取作戦が無事(?)終了し、とりあえず仕事のなかったパイロット諸君は、搬送された同僚の見舞いに医務室を訪れた。

「ラスティ、生きて、る…か……」

 静かな電子音を上げて扉がスライドし、白い衝立の向こうにいるはずの同僚に向けてかけた言葉が不自然に途切れ、踏み出したままの姿で体も止まった。

「っと!何ですか、アスラン!?」
「いきなり止まるなっ!」
「おいおい〜…」

 と、アスランにぶつかり掛けたことを抗議し(かけ)た三人は、アスランの視線を追って揃って固まった。

「あれ?君達も来たんだ」
「君達にそんな殊勝な所があったとはな」

 彼等を迎えたのは、先ほど分かれたばかりの仮面の上司と謎の美少女、そして、そんな二人に挟まれたベットの上で意識を取り戻したものの、怪我のせいだけでは無く顔色を悪くした同僚の姿だった。












 その場に突っ立っていることも出来ないし、怪我人である同僚の無言で訴える瞳に抗えず、彼等はとりあえず病室内に入った。

「あの〜…隊長達は、どうしてここに…」

 恐る恐る進言したのは、最年少のニコル・アマルフィー。
 残りの三人はその言葉にはっとしたような顔をしている…その様子に、どちらの脳裏にも『減点3』という言葉が浮かんだ。

「ん?君達と同じ、ラスティの見舞いだよ」
「実際は僕の付き添いだけどね♪まだ艦内不案内だからv」
「…隊長が、案内…ですか…?」
「そ。パシリv」
「「「………パ…………」」」

 にっこり言い切ったキラに紅を着た四人とベット上の苦労人は絶句し、恐る恐る隊長に視線を向けるが、彼自身は仮面の下を苦笑に刻むだけで特に気分を害した様子は見受けられない。
 そうなると、二人の関係の疑問がますます膨れ上がるし、病室に足を踏み入れてか降下の一途を辿っている様だったエースパイロットの機嫌がますます落ち込んでいるのが肌で感じられ、はっきり言って鬱陶しい。

 それを形ばかりで宥めつつ、再びニコルが代表を務める。
 こほん、と一つ咳払いをし、ラスティの向かいに立って姿勢を正した。

「ずばり聞かせ頂きます。お二人はどういったご関係なのでしょう?」
「「知り合い(だな)」」

 ぴったり合った言葉に一瞬鼻白むが、ここで退くようではクルーゼ隊の最年少などやっていられない。

「えーと、どういったお知り合いかとお聞きしてよろしいですか?」
「どーいった?ん〜と……」
「キラは…」

 ニコルの質問に答えようとキラが思案し始めたその時、先ほどまで沈黙を守っていたアスランが口を開いた。
 重々しい口調ながらも、真っ直ぐに少女を見詰める…というよりは睨みつけるようなアスランの様子に、そういえばこっちも知り合いらしかったな…と思い出す。
 だが、やっと答えてもらえそうだったのだから、突然口を挿んで来た彼に後にしてくれてもいいのに…とちょっと憂鬱な気分になった。
 そんな弟分のことなど気にもせず、アスランは一歩進んで真っ直ぐにキラを見ていた。

「…キラは、ザフトに入っていたのか?」
「うん」

 弾劾するような雰囲気のアスランとは対照的に、キラはまるで『今日の朝ご飯お米が切れていたからパンでいい?』と聞かれたことに了承するかのような軽さで頷く。
 その二人のあまりの違いに他の者達は居心地の悪さを感じるが、またしてもアスランはそんなことなど気にも留めずにキラに向かう。

「何故だっ!?どうしてオレに黙っていたっ!?」
「君にわざわざ言う必要性あるのかどうか甚だ疑問なんだけど?」
「なっ!?」
「じゃあ聞くけど、君はいつ軍に入ったの?」
「えっ…」
「僕に報告してくれた?言わなくちゃって思ってた?」
「…………」
「言ってくれてないよね?相談も無かったよね?報告も無かったよね?で、僕にだけはそれをしろって、君が言うわけ?」
「……………」
「筋違いでしょ、君がそんな風に怒るのは」

 小首を傾げて静かに微笑まれ、そこでアスランはやっと気づいた。
 キラが怒っていることを…。

 目が笑っていない。
 口調が穏やか過ぎるほどに静かだった。
 いつもは喜怒哀楽をはっきりと表に出す彼女が、本気で怒っている時の状態だった。

「いいけどね。君はいつだって自分勝手で、棚上げで、唯我独尊的で、人のこと所有物と思ってるような節があったから。この程度のことは分かり切ってたことだもん」

 ぷいっと顔を逸らすキラの様子に、アスランはさっきのまでの激高状態は何だったのだと言いたくなるほどずーんと落ち込む。

 冷静沈着、母親の腹の中に感情を落として来たんじゃないか?と噂されていた同僚の常に無い姿に動揺しつつ、頭を二・三度振ったり、自分で小突いてみたりして正気を取り戻し、そうして漸くディアッカが挙手をした。

「え〜と、すみません、姫さん。姫さんとアスランの方はどうゆう関係で?」
「幼馴染です。三年前からぷっつり音信が途絶えてそれっきりになってました」
「で、再会したのがついさっき…ちゅー訳?でいいんかな?」
「その通りです」

 自分を呼ぶ名前が少し気になったが、本来あまり細かいことは気にしない性質なためそのまま頷いた…が、ここで彼女がスルーしてしまったため、キラはこの先ずっとディアッカに『姫さん』と呼ばれることになるのだが、今は知る由も無い。

「…つまり、お前は今回の作戦要員では無いが、隊長の知り合いで、れっきとしたザフトの一員だということだな?」

 あっさり『アスランと幼馴染』という事実に目を瞑り、イザークが総まとめの確認とばかりに口を開いた。
 一応まだ上司の前であるため腕組みでふんぞり返ることはしなかったが、雰囲気としてはそうしていてもおかしくない口調だった。
 が、その態度に驚くわけでも気を悪くしたわけでないキラは、きょとんとしてベット越しに突っ立ったままのクルーゼ(キラが椅子に座り、自分を挟んで隊長が立っていた状態のため、目覚めたばかりで状況を理解出来ないラスティは居た堪れない思いだった)を見た。
 それにクルーゼは小さく笑って頷く。
 キラはすっと立ち上がって踵を合わせ、正式なザフトの敬礼をとった。

「改めまして、ザフト軍開発部・ソフトウェア部門副主任兼、システムエンジニア部門副主任を務めますキラ・ヤマトです!以後お見知りおきを」

「「「副主任っ!?」」」

 ぎょっとして揃った紅達の言葉に何でも無いことのように微笑み、敬礼を崩して、そう、と続ける。

「ホントはどっちも主任にされそうになったんだけどねぇ〜主任って給料はいいんだけど色々制限されるし煩いじゃない。何かあった時に責任取らされるのも鬱陶しいし、そんなもんは年寄り連中に押し付けて僕は平でのんびりやりたかったんだけどさ、いい年したおじさん達に泣いて縋られちゃって仕方ないから、ま、ある程度権力は身に付けておいた方が身動きとり易いのも事実だしそれに…」
「コホン」

 ぺらぺらぺら〜と話し出したキラの言葉をクルーゼが咳払いをして止め、二人の視線が徐に重なり合う。

「…………」
「…………」

 時間にすればほんの数秒…二人の間を良く言えば『アイコンタクト』、悪く言えば『電波』が飛び交う。

「…実は、主任にって大抜擢して頂いたんだけど、僕の様な若輩者が諸先輩方を押し退けてそんな重要な役目を任されるなんて恐れ多いし身に余るでしょう?それで丁寧に固辞申し上げたんだけど、是非にと薦められてしまって…僕なんかに勤まるのかどうか不安だったんだけど、沢山の方の善意に支えて頂けることになったから、次席ならということで副主任の肩書きを任せて頂いているんだよ」

 言い直したキラの言葉に、クルーゼはOKを出すようにゆっくりと頷く。

「でも結局は僕は僕の好きにさせてもらってるけどね。その程度の功績は上げてるし、本部は結構抜けてるし、一分野のみに優れた勉強馬鹿を出し抜くなんて簡単だし。おじさん達は泣いて止められたけど、ずっとあんな薄暗いトコに閉じこもってらんないからそこは舌先三寸丸め込んで…」
「オホンっ」

 先ほどと同じように、クルーゼの咳払いがキラの言葉を止める…が、今度は目を合わせることも無く、そのままの姿勢でまたしても数秒の沈黙が降りた。

「……ありがたいことに僕なんかの力を過大評価して下さって、本部に専用の研究施設まで用意して下さったんだけど僕には過ぎた施設だし、何より経験が足りないひよっこな自分自身が恥ずかしいから色々な所に視察に行かせて頂いてるんだ。我侭を聞いて下さって、本国の皆様には本当に感謝していますv」

 そう言って締めくくったキラに、やはりクルーゼが「ん。」と頷いた。

「何か質問は?」

「え〜と…出来れば建前の方だけお聞きしたかったと言うか何と言うか…」
「あはは。ま、細かいことは気にせずにv」
「だけど、キラは何故ザフトに…」
「ラウさんにナンパされてね」
「ヘッドハンティングと言ってくれたまえ」

 彼女の両親はナチュラルなのに…と心の中で漏らしつつ呟いたアスランの言葉に返って来たのは、思いもよらないものだった。

「元々僕はオーブからの留学生としてプラントに来たんだけど、突然街中でラウさんに声かけられて」
「あれは目を疑うほどの見事な手腕だったからな」
「そのまま車に押し込められて」
「話をするために移動しただけだろう、軍の話を街中でするわけにはいくまい」
「いきなりザフト軍施設に連れ込まれて監禁されちゃって」
「軍の概要を説明するにあたって必要だったのだ」
「それで、契約書にサインするまで帰してくれなかったんだよね」
「………否定はしない」

 おいおいおい…と呆然と聞いていた面々を正気に戻すタイミングを計っていたかのように、医務室に通信機の呼び出し音が響いた。

「…私だ」
『隊長!申し訳ございませんが、ブリッジへご足労願います!』
「分かった。直ぐに行く」

 短い最低限の言葉だけ交わして通信機を切る。

「という訳で呼び出しがかかってしまった。もう少し君達の普段見れない様子を観察したかったんだがね」
「相変わらず悪趣味だよ、ラウさん…」
「軍は娯楽が少ないからね。では失礼する」

 呆れるキラににやりと笑い、軍服の裾を翻して医務室を出て行ったクルーゼに、キラ以外の者達は慌てて敬礼をして見送った。
 いつまでも居座っていると思ったら、面白いものを見逃すまいとしていたのか…と、キラが言った通りな『悪趣味』に思わず脱力してしまう。
 そうして、近くに椅子を持って来たりラスティのいるベットに座ったりと思い思いに姿勢を崩しだした。
 キラの地位が相当高いことは分かったが、所属が違うことと彼女の態度、何よりも彼女自身の口を開かなければほんわりした容姿と雰囲気にに緊張を持続することを早々に諦めたらしい。

「んじゃ、改めまして姫さん。オレはディアッカ・エルスマン。よろしくな♪」
「あ、うん。ヨロシク♪」

 突然だったが、差し出された手に嬉しそうに笑って握手した。

「僕はニコル・アマルフィです。『開発部の女神』にお会い出来て光栄です」
「ニコル知っているのか!?」
「いえ。でも噂は聞いたことがあります。前線で兵の言葉と戦場を直に見て、現場が真に必要とする物を開発することをモットーにしていらっしゃる方だと…現在のジンの装甲や艦の走行システム・感知システムも彼女の手が加わって格段に性能がアップしたと」
「へぇ〜…」
「知らなかったな」
「僕達の造った物に万が一でも不備があれば、その代償は前線で戦っている人達の命だからね。…僕は子供だから、ちゃんと自分の目で見ないと今必要とされる物、これから必要となる物、どんな状態で何が要るのかとかが分からないんだ」

 少し感心したような目で見られ、キラは困ったように肩を竦めて笑う。

「よく危ないからって止められるけど、それでも本当に危ないのは君達の方だから、だからちゃんと顔を見て、名前を知って…その人をちゃんと守って、大切な家族や友人、恋人の所に帰してあげられる…少しでもその手伝いがしてあげられる物を造りたいからやってるだけ。そうしたらいつの間にかそんな名前がついちゃったんだけど…恥ずかしいから、『キラ』って呼んでね?」
「…はい。ではキラさん、と呼ばせてもらいますね」
「うん、ありがと」
「…イザーク・ジュールだ」
「キラ・ヤマトです」

 キラの話に何か感じるものがあったのか、普段よりも幾分雰囲気を和らげたイザークが名前だけを名乗って手を出した。
 そのぶっきらぼうながらも好意的な雰囲気にキラはくすりと笑い、同じように名前だけを名乗った。

「そっちのラスティとは?」
「さっきラウさんに紹介してもらったんだ♪ね?」
「そだね。いや〜参ったよ…隊長がじーっと上から見下ろし続けてくれるから、もう居心地悪くって…怒るなら早く怒ってくれればいいのに、見られてるだけってきっついわ」
「叱責は無かったのか?」
「そ。『怪我が治るまでゆっくり休みたまえ』とか言われちゃって、怒られるより怖かったけど…」
「それは…」
「ラウさんは任務失敗した位じゃ怒んないよ?」

 ラスティに同情の視線が集る中、キラがのほほんと小首を傾げる。

「…え?」
「そりゃあ、隊や軍全体に響くような重大な失態なら怒るだろうけど、作戦自体に大きな影響を与えず、それでちゃんと生還したなら怒るようなことじゃないし」

 そうでしょ?と笑う少女に、何だかあの不気味な仮面が三割ほど(当社比)慕わしく感じられた…が、次の言葉であっさりマイナスへと突入にししまった。

「あの人は、そうやって怒られると思ってビクビクしてる姿を見て面白がってるだけなんだから、気持ちさっさと切り替えてかないとこの先やってけないから、頑張ってね?」

 気の毒そうに言われた言葉は、ラスティ以外の者達にとっては、格納庫での二人のやりとりが思い出され、少〜し暗い気分になってしまった。

 この先あの人の下で、ちゃんとやっていけるのだろうか…。

「………キラ」
「でもまあ、そういう悪趣味なトコさえ目を瞑って、指揮官としての能力だけ見れば一流だからあの人」
「…キラ」
「それに慣れると面白いしvよくよく観察すれば弱点も見えてくるから、いざって時の切り札にすると便利だしね」
「キラっ!」
「…何。…煩いよ、アスラン」

 呼びかける彼を無視して話していたキラだったが、肩に手を置かれた状態で怒鳴られれば流石に無視し続けることは難しかった。
 仕方無しに冷たい空気をまとって向き合えば、呼びかけた本人はぐっと詰まってしまう。

「…姫さん、アスランにだけは冷たいな」
「ええ…幼馴染だっておっしゃってましたけど、何かあったんですかね?」

 ぼそぼそと確認しあう同僚達を意識から無理矢理弾き出し、アスランは気を取り直してキラに向かった。

「…話がある」
「僕には無い」

 きっぱり言い切られて一瞬止まったが、ここで退いてはエースパイロットなどやっていられない。

「オレにはあるんだ!」
「………分かった。いいよ、話位なら聞いたげる」
「来てくれ」
「…何で?」
「二人きりで話がしたいんだ」

 キラとしては、譲歩に譲歩を重ねての答えだったというのに、アスランは次々と要求を出し、あまつさえちらりと同僚達に視線を送って当然の様に移動を促してくる様子に、米神がひくりと引き攣った。

「僕はここでいい」

 怒りを抑えつつそう言うと、アスランは少し驚いた様に目を見張る。

「何?人がいると話せないような内容なの?それとも自分自身でも誰かがいれば反論されて当然だと思ってる話?でも僕一人なら力づくでも何でも、どーとでも丸め込めると思ってるの?」
「っ、いいから来いっ!」

 冷めた態度を崩さないキラに業を煮やしたのか、声を荒げぐいっと彼女の腕を引っぱった時、キラの中の我慢限度メーターが振り切られて壊れてしまった。


「…っ、トリィっ!!」

〈トリィっっ〉


「ぐはあっっ!?」



「「「……………………っ!?」」」



 コーディネーターの無駄に高い視力は、目の前で何があったのかをはっきりと捉えてしまった…。

 キラが力任せに腕を振り払って叫んだ瞬間、彼女の服の胸元から飛び出した凶器が真っ直ぐにアスランの額に突き刺さった。
 そして、衝撃で蹲った彼の手が傷口を覆う一瞬前に自らの足を額に置いてふんばって抜き、するりと手の隙間を縫って逃げた『それ』は…優雅に舞い降りて持ち主の肩に止まり、〈トリィ〉と首を傾げている。

 鳥の姿をしたその武器は、嘴の先を赤く染め、凶悪な愛らしさを主張していた。

 しばらく呆然とする空気の中額を押さえて悶えているアスランをそのままに冷たく見下ろしていたキラだったが、ふいっと彼に近づき、何をするのかと息をつめて見守る面々の前で不思議な行動に出た。

「………あの…キラさん…?」

 戸惑いがちにニコルが声をかけたのには訳がある。
 キラは、肩に止まっていた鳥型兵器をまるで意思疎通が出来るかのような仕草で指先に停まらせ直し、その口先についた血をアスランの軍服で拭いていたのだ。

「気にしない気にしない。どーせ赤いんだから分かんないでしょ」
「いや、そーゆー問題じゃあ…」
「じゃあ、『カイザルのものはカイザルへ』『持ち主の血は持ち主へ』ってことで♪」
「…そんな宗教話の例えを持って来ても、やってることはかなりすごいと思うぞ…」

 にっこり笑ったキラに、イザークが複雑な表情で突っ込む。

「何です?宗教話って…」
「A.D.の時代、まだローマ帝国があった頃、当時重税に苦しめられていた帝国支配化に二つの党派があったんだ。普段は互いに煙たがってる両党派が手をとって、神の子と言われるイエス・キリストに謎掛けをしたんだ。彼がその重税を是とするならば律法主義に反し帝国の権力に屈したということ。否ならば帝国への反逆者として逮捕出来る…とな」
「つまり、その二派は彼の足を引っぱりたかったわけですね?」
「そういうことだな。が、イエスは納税用の銀貨に書いてある肖像はカイザル(皇帝)であることから、『カイザルのものはカイザルに。神のものは神に返しなさい』と言った」
「…何だそれ?」
「銀貨にカイザルの肖像があるのなら、それはカイザルのもの。カイザルが税を払えというなら払ってやれ、しかし良心までは渡すな。良心は人間の中にある神の姿なのだから…と言ったという話だ」
「へえ〜、流石民俗学専攻。宗教にも詳しいとはね」
「民族の歴史と宗教は切って語れる物では無いからな」
「…深すぎて今一意味が不明瞭ですけどね」
「それこそ当然だ。宗教の教えなんてものは、その時々によってどうとでも取れるものが多い」
「なるほど」

 頷きあう彼等の下から、地を這うような声が響いた。

「お〜ま〜え〜ら〜〜…」
「おや、アスラン。大丈夫ですか?傷は浅いですよ」
「…………」

 言葉が上滑りするのは仕方が無い。
 どれだけ本人がダークなオーラを醸し出そうとも、額に残された傷跡両脇の鳥の足跡が一気にギャグへと落とし込んでいる。

 額の傷は浅くても血が多く出る。
 はっきり言って血が垂れ流される姿は恐ろしげだが、残された六本の線が全てを覆していた。
 ニコルは必死に笑いを押し殺して手当てを始める。
 ディアッカは遠慮なく爆笑しているが、ラスティは傷が痛むのかベットに体を沈めて耐えているし、イザークは顔を背けてはいるが方が微かに震えていた。

「…………キラ。…オレに何か言うことは無いか?」

「『いいから来い』!?何様?どちら様?どこの馬鹿坊!?お坊ちゃま!?」


 たぶん、彼は遠回しながら謝罪を彼女に求めたのだろう…。

 自分のやった行為の思わぬ効果(アスラン視点)に慄き、罪悪感に打ち震えて言葉も出ない彼女(アスラン狭小視点)に、謝りやすいようにと優しく声をかけてあげた(アスラン思い込み暴走中)のだ。
 が、返って来た言葉は泣き声で震えた謝罪では無く、歓喜に輝く瞳でも無く…冷たく冴え切った嘲笑だった。
 流石のアスランも唖然と黙り込む。
 その様子にふっと笑い、凍てつく視線で『不適・無敵・無神経』のアスランに金縛りをかけさせた。

「………僕もね、話位は聞いてあげようかな、とは思っていたんだよ?…でも君、話をするでも無し、言い訳をするわけでも無し、なのに再会してから数時間…それだけの間に一体何度僕のことだけを責めれば気が済むの?」
「せ、責める…?言い訳って…あ、それはっ、確かにキラに黙って軍には入ったが!それはキラだって…っ」
「そうじゃなくて」

 はあ〜…と大きな溜め息をつき、いっそ哀れみの篭った眼差しがアスランに向けられる。

「三年前、君が月を離れてプラントに行く日、僕になんて言った?」
「『キラが好きだ!』」

 きっぱり言い切ったアスランの言葉に、事態を見守っていた同僚達は一様にぎょっと息を呑む。

 今こいつ何て言った?
 臆面も無く、恥ずかしげも無く、何て言った…??

「…なんて言った?」
「『キラがプラントに来たら結婚しよう。返事はその時に聞かせてくれ』…オレの気持ちは、今も変わらない!」

 おいおいおい…。
 そんなこと言ったのか、こいつ…。

 キラの怒りの原因が何となく察せれて来た彼等は、少しずつ距離をとる。
 そんな周りの状況などお構い無しに、アスランは熱の篭もった眼差しをキラに向ける。

「…返事を、くれるのか?」
「NOだよ!!」
「何故っ!?」
「『何故』!?」

 キラの返事に信じられないとばかりに声を上げたアスランに、キラもそんな反論をされるなんて心外だという想いを力の限り込めて彼を見る。

 キラの返事は、アスラン以外にのその場にいる者達…いや、きっとプラント中の者達ににとっても当然の返答だった。
 そしてその理由も分かる。

「訳を言ってくれっ、キラっ!!」
「『訳』!?そんなの当然でしょう!?心当たりが無いって言うの!?」
「無いっ!」

 見事に言い切り、それこそ何も知らぬ者が見たならば『彼は冤罪だ!助けてやってくれ!』と喚きそうなほどの真摯な瞳にキラを映すが、この期に及んでそんな態度を取る彼自身が堪らなく許せない。


「最低っっ!!君には『婚約者』がいるでしょうっっ!?」


「え゛っっ!?」



 ほ〜らやっぱり。
 そりゃ怒りますよね。
 怒らない方がおかしいだろう…。
 プロポーズまでしといて、ちょっと離れてる間にちゃっかり『婚約者』付きになってたんじゃなぁ…。

 成仏しろよ、アスラン…と心中で手を合わせた彼等の耳に、驚愕の事実が流れ込んできたのは、この直ぐ後だった。



「…………知ってたのか…?……キラ……」



「「「……………………」」」




 ………オイオイオイオイ。





「………………………………………………隠し、続ける気だったわけ………?」








 完全に据わってしまった目には、明確な殺意が浮かんでいた。










 
つづくv

 腹くくって趣味に走ろう!キラinザフト無駄に女の子・暗い題つけといて
 中身はなんだよ明るいじゃんシリーズ第二弾でした〜(長いって・汗)
 アスラン&アスランfanの方ごめんねv
 彼は本当に気の毒な役回りにになると思いますv
 だって、彼のへたれさはデジモンのヤマトといい勝負なんですものv(笑)
 次回、キラの怒り爆発編v(笑)
 あ、キリスト教徒の方、あれは桃生の勝手な解釈です。
 深く突っ込まないで上げて下さいませm(_ _)m