中立国への攻撃…例え地球軍が条約を破り居座っているからだといっても、あまり褒められたものでは無い。
 だが、その作戦を決めたのが直属の上官で、それが命令だと言うのなら…一兵士に逆らう術は無い。












 作戦行動中、MSの奪取の役目を担っていた一人が失敗し、アスランは目の前でもう一体の機体に地球軍の者が乗り込むのを確認した。

 奪えないならば破壊するべきかと行動に移そうとした時、母艦から撤収の通信が入る。
 アスランは仕方なくそのままにしてヴェサリウスに戻ったのだが…しばらくして、その残された機体が現れた。
 失敗の報告を受けていたヴェサリウスは騒然となったが、その機体から入った通信に対し、最高責任者であるラウ・ル・クルーゼがあっさりと着艦許可を出してしまい、更に現場は混乱することになる。

 少なくとも、その機体のパイロットはこの作戦の従事者では無く、敵では無いようだが何者だと詮議の的となったのだ。

 しかし、当の着艦許可を出した本人は、待っていれば分かると表情の分からない薄笑いを披露しただけで詳しくは語ってはくれず、それ以上問い詰めることも出来ない。
 そのせいで艦長が胃薬に手を出し、それが今後常備薬として欠かせない物になっていくというのは…また別の話であるが。

 そんなこんなで、必要以上の見物人が見守る中無事機体はハンガーにかけられ、気密を確保した後、格納庫へと集った大勢の見物人の頭上にてコックピットが開けられた。

 大量の好奇心という視線に臆することなく現れたのは…私服姿の可憐な美少女。

「………え…?」
「おい…マジ…?」

 呆然と見上げる兵達の中、少女は更に彼等の度肝を抜く台詞を叫ぶ。



「ちょっと、これどーゆーこと!?説明してよ、ラウさん――――っっ!!」



 ふわりと舞う腰まで届く長い亜麻色の髪の毛、煌くアメジストの瞳、まるで旅行中の様な簡素ながらも清楚な装い。
 その儚げな姿からは思いも付かない憤りに溢れた声音…その音量。
 格納庫に響いたそれに微動だに出来ず固まる一同…

「まあそう怒るな。無事で良かったではないか」

 くつくつと笑いを押し殺して響いた聞き覚えのあり過ぎるテノールに、我に返った視線の集る先には、相変わらず怪しさ大爆発な仮面の上司。

「良かったじゃないよ!なにその確信犯的態度!初めっから僕を巻き込む気だったわけ!?」
「そうでは無かったとは言い切れないな。こうなることを全く予想していなかったと言えば、嘘になるだろう位にはね」
「ムカツクー!…て、ああっ、ラウさんへの文句は後!一人拾って来たの!誰か救護班に連絡して!」
「救護班?」

 きゃんきゃんと子犬のように吼えていたかと思えば、はっとしたようにコクピットの奥へと入っていってしまった。

「みかん君!みかんくーん!?もうちょっとだから気をしっかり持ってねっ」

 みかん君…?誰だその気の毒な名前の奴は…。
 そんな、好奇心と同情と困惑の入り混じった視線の先で、一旦奥に戻った茶色い頭が、何かを抱えて戻って来る。
 それを視界に入れた途端、あまりのことに固まって息すら止まっていたのではと疑われるエースパイロット、アスラン・ザラが驚愕に満ちた声を上げた。

「っ、ラスティ!?」
「へ?………あ」

 その声に、反射的に発生源へと顔を向けたキラも驚きに目を丸くした。
 その一瞬、全ての時が止まり、アメジストとエメラルドの瞳が交錯する…が、少女が自分を見とめたことを認識した途端、アスランの体は彼女のいるコックピットへと向かっていた。

「……………アスラン…?…なんで??」
「なんではこっちの台詞だ!キラ!なんでお前がそんなものに乗っているんだ!?」
「え?えーと、話せば長くなるからとりあえず、みかん君をお願いしたいんだけど。怪我してるし」
「みかん君!?みかん君てなんだ!こいつはラスティだろう!どうしてラスティがキラの腕に抱かれてなきゃならないんだっ!?」
「…アスラン…。みかん君っていうのは名前が分からなかったから、オレンジ頭だし適当にそう呼んでただけだよ。君は仮にも、えーとラスティ君だっけ?その彼の同僚でしょ?今瀕死なんだから彼の心配くらいしてあげようよ…」
「そんなの後でいくらだってしてやる!それより今はキラのこ」
「すみませーん。この馬鹿話にならないんで、ラスティ君引き取って下さい〜」
「キラ!オレの話を聞け!」
「はいはい、後で気が向いたらね〜」

 話を途中で遮られた形になったアスランは怒り心頭だが、キラはそんな彼を綺麗さっぱり無視して格納庫の床へとラスティを連れて降り立つ。
 無重力に設定されている格納庫だからこそ出来る芸当だが、この時誰もがラスティを受け取りに上に行ったんじゃなかったのか、アスラン・ザラ!と思ったことを無理矢理忘れようとしていた。

 取り乱してぎゃーぎゃー言っている彼の姿が、あまりにも自分達が知っている姿と異なり、ちょっと軽めの現実逃避をしていたのかもしれない…。

「医務班、患者はこちらだ!」
「あ、ラウさん」

 いつの間にか待機させていた彼等の運んで来たストレッチャーにラスティを寝かせる。
 医務班が慌しく傷の具合を看て風のように格納庫から去って行った。
 それを見送り、クルーゼが心配そうに隣に立つ少女へと声をかける。

「君の診立ては?」
「意識は無かったけど弾は貫通してたし、ギリギリ急所は外れてたと思う。止血も早かったから、ま、大丈夫だと思うよ?」
「そうか。すまなかったね」
「ううん…………て、何ほのぼの効果出してんの!」
「おや。流されてくれなかったか」

 噛み付くキラと、くっくっくと喉の奥で笑うクルーゼの関係は、未だ説明も無いままなので分からない…が、かの智将が何かしらの策を労じていたことだけは間違いない。
 そしてそれを裏付けるように少女が叫んだ。

「珍しく休暇がもらえたかと思えば『ご両親に顔でも見せて安心させてやりなさい』なんて言って、ヘリオポリスまでの往復チケットまでくれてたからって素直に里帰りした僕が馬鹿だったよ!本当ならよく考えるまでも無く怪しすぎる申し出だったし!裏が無い方がおかしい優しげな声だったし!既にチケットを用意していることからしてその先に何かある確率100%な正に行かせる気満々な態度だったのにっっ!」
「では何故行ったのだね」
「だって父さんと母さんに会いたかったんだもんっ!連日の徹夜で正常な思考が出来てなかったんだもんっ!変だってやっと気づいたのが、ヘリオポリスに着いて父さんと母さんに会って一晩甘え倒して、ぐっすり寝てから気がついたんだもんっっ!」
「ほぉ〜う。それはまた随分と時間がかかったものだね」
「そぉだよ、なんたる不覚!『仮面の匂いを感じたら裏があると思え』って位危ない人だって分かってたのにっっ」
「随分な言われ様だが…まあいい。ご両親は元気だったかね?」
「あ、はい。とっても元気で安心しましたv…でも本部にハッキングかけたらヴェサリウスにクルーゼ隊乗っけてヘリオポリスに向かってるって情報が出て来たんで、直ぐに荷物まとめてオーブの本国に避難してもらったから、あまりゆっくり出来なかったんですけどね…」
「それは気の毒だったね」
「何それ!分かってて仕組んだくせにっ!せめてもう二・三日待ってくれたって良かったじゃないですかっ!?」
「無理を言わないでくれたまえ。事は一刻を争っていたのだよ」
「…僕を送り込む計略を仕組む暇はあったのにですか?」
「ふっ。保険だよ」

 しん…と静まり返る格納庫内。

「やっぱり、何かあった時に僕にフォローさせるつもりで休暇に口添えしたんじゃないですかっ」
「そうとも言うかな」
「もう〜っ、ラウさん!あんまり僕を利用してばっかだと、イタイケナ幼女と援助交際してたことバラしますよっ!」
「んな…っ」

 援助交際…?

 ちょっぴり意識を飛ばしていたクルー達の虚ろな瞳が、ゆらりとクルーゼへと集る。

「あれは誤解だと何度も言っただろう!?」

 誤解されるようなことをなさったんですか?隊長…。

「さてどうなんでしょう〜地位と権力に物を言わせて、人をハメるような人の弁解なんて信じていいものかどうか…」

 本当なんですか?隊長…。

「はあ…それより、君も本国に連絡を入れた方が良いだろう。対外的にはヘリオポリスで休暇中ということになっているのだからね。ブリッジに来たまえ」
「なっ!?じゃあやっぱり、今のただ働き!?ただ働きなの!?」
「そうなるね」

 早くこの場を離れたいのか、少々足早に出て行くクルーゼをてててっと追う姿は、会話さえ聞こえなければ十二分に愛らしい…が、哀しいかな、コーディネーターの聴力が一言一句逃さずに拾ってしまう。
 そして、そんな遣る瀬無い彼等を残し、一見儚げな少女は…。



「もう信じらんないっ!帰りのチケット旅行会社で払い戻して小遣いにしてやる――っ!!」



 と、どこまでも逞しい発言を残して出て行った…。






 
おわり

 腹くくって趣味に走ろう!キラinザフト無駄に女の子・暗い題つけといて
 中身はなんだよ明るいじゃんシリーズ(シリーズ!?)第一弾でした(苦笑)
 宣誓!ワタクシは!独断と偏見に基づき!どこまでも趣味に走り!
 どこまでも作者本位な話を!力の限り楽しんで書きま〜す!(おい・汗)
 伏線ばっかですみませんm(_ _)m
 まあ、一弾目なんで多めに見て下さい(苦笑)
 けど、このシリーズは暗くなったりシリアスに走ったりはしないと思います。
 ちなみに、アスランは『気の毒な役どころ』になるかと…(苦笑)