空は広く、大地は美しい緑の絨毯が広がり、風は爽やかに世界を流れていた。
………ついさっきまでは。
「……おい、何か曇って来てるぞ」 空を見上げ、太一がぽつりと不穏な空気を背負いながら呟いた。 「はあ?そんな馬鹿な、さっきまで雲一つ無い晴れ間が……ホントだ」 太一の声に顔を上げたヤマトが、いつの間にか急激に迫って来ている雲を呆然と見上げた。 デジタルワールドの普及作業を着実に進める小学生組に加え、今日は珍しく太一・ヤマト・光子郎、そして空の比較的都合のつき易い中学生組も参加していた。 「…まずいですね」 いつの間にか背後に立っていた光子郎に、太一は驚いて振り向いた。 「そんなに驚かないで下さいよ。…それより、早くここを避難した方がいいです」 ポケットからD‐ターミナルを取り出し、仲間達に向けて一斉送信をする。 「オレ達も早く避難しよう。このままだと降られるぞ!」 空を睨みつけながらの光子郎の科白に、太一とヤマトは目を合わせ、不思議そうに問いかけた。 「…雷雲…なのか?別に音は聞こえねーけど…」 ひょいっと、足元で静かにしていたパートナーのテントモンを抱え上げ、二人の前にずいっと突き出した。 「テントモンの触角に、静電気が走っています」 「………………」 確かに、見ると小さな火花が微かに散っている…ような気がする。 「……ガブモン、そーいうもんなのか?」 こそこそと囁きあうパートナー達を無視して、光子郎は「さあ行きましょう」とテントモンを小脇に抱えたまま進み出そうとした…太一の声が聞こえるまでは。 「あれ?アグモン知らねぇ?」 いつの間にか自分のパートナーの姿が無くなっていたことに気づき、太一は不安そうに辺りを見回す。 「…悪い。お前ら先に避難してろ…オレはアグモンを探してから行く」 ヤマトが言いかけた時、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。 「アグモン!」 太一が踵を返して彼に駆け寄る。 「アグモン!お前どこに行って…」 その姿にほっとしてもう少しで手が触れる…という所で空がカッと閃いた。 「!!…」 「うわっ…!」 体を駆け抜けた衝撃に、ヤマトは身を竦ませる。隣にいたガブモンが、彼を守るように寄り添っていたが…あまり効果は無かっただろう。 「…大丈夫?ヤマト…」 「ありがとうございます、テントモン」 ほのぼのした空気に重なるように降って来た声に、その主をたどって顔を上げると…必死に飛びながら光子郎をぶらさげているテントモンが目に入った。 「……光子郎…おまえ…」 ひらりと地面に着地した光子郎がにっこりとヤマトに微笑みかけた。 「…ち!…太一!」 はっと声の方を振り向く。 「太一!太一〜っ!ねぇ、太一ぃ〜っ!」 「太一!?」 駆けつけると、ぐったりと横たわる太一の服の端がうっすらと焦げているのが分かる。落雷のショックであることは明らかだ。 「太一!しっかりしろ太一っ!」 膝に太一を抱え上げ、頬を叩くが何の反応も無い。一歩遅れた光子郎はその傍らに膝まづきながら、パニックを起こしかけているアグモンに問い掛けた。 「う、うん。よく分かんないけど、ピカーって光ったと思ったら、太一がボクを掴んで投げて…」 言いながら込み上げて来た涙は、悲しげに歪む頬をゆっくりと伝う。 「…アグモン」 ガブモンが、そんな彼の頭をよしよしと慰めてあげるが、その優しさに一層涙は溢れて零れる。 「…そうか、落雷のあった瞬間に、太一さんはアグモンを地面から離したんですね…」 光子郎の言葉に安心したのか、嬉しそうに頷いたアグモンに、一同もほっと息を吐く。
「太一センパ―――イ!!」 見ると、遠くから今日同行のメンバー達が揃って走って来る所だった。 「太一先輩!?どーしたんスかっ!?」 動かない太一を囲むように座っていた彼等に、いの一番に駆けつけた大輔が声を荒げた。 「大丈夫だ。気を失ってるだけのようだから…それよりお前ら…」 心配そうに太一を覗き込んでいたヒカリ大輔達も、その言葉でしぶしぶ側を離れる。 「…ヤマトさん?って、ちょっ…!?」 ずるり…と太一が彼の腕から離れ、地面に落下しようとした所を光子郎が抱き止めたが、その彼も硬直したように再び太一をすべり落としてしまい、その下に大輔とタケルがスライディングして何とかクッション代わりを務めることに成功した。 「おっお兄ちゃんっ!」 それでも地面に直接打ち付けてしまっただろう腕や足を心配して、ヒカリと空が慌てて駆け寄る。 「…あっぶねぇ〜…」 間に合ったことにほっとしている素朴な大輔の横で、地を這うような声で非難したのは笑顔魔人タケル…普段なら、この顔を向けられようものなら心の底から震え上がっただろうヤマトが、未だに放心したように両手を見つめながら立ち尽くしている。 「…お兄ちゃん?」 流石にその様子に不審を覚えて首を傾げるが、反応は無い。 「…どうしたんでしょう?」 事の成り行きを見守っていた京と伊織も顔を見合わせる。 「………光子郎」 「…ヤマト、何の話なの?」 堪らず問い質した空に、ヤマトは上げた手はそのままに首だけを空に向けた。 「………太一に……あるはずの無い……何かが……あったんだ…」 疑問符は広がるばかり…だが、かくゆう空も、太一の腕等の無事を確かめたものの、さっきから妙な違和感に襲われている。 「……………す」 ぴくりとも動かないままの光子郎から、微かな声が聞こえた気がした。 「………が…る…です」 ばっと光子郎が真っ赤にした顔を上げて叫んだ。
「太一さんに胸があると言ったんですっっっ!!!」
向こう側では、ヤマトが更に耳まで赤くし、頭を抱えしゃがみこんでしまった。
「……………………………えええぇぇええぇええええぇっっっっっ!!!!!????」
世界を救った選ばれし子供達の驚愕の叫びは、広い草原の向こう…連なる山々にまで木霊して、消えた。 「胸って、ムネって胸のこと!?」
むにゅっ…
「……………空さん?」 一同の目が点になる。 「ちょっ…空さん――――っっ!!??」 赤くなったり青くなったりする一同の耳に、ぼそりと空の声が届いた。 「………70のB…」 「………………はい?」 「…70のB…70の…B…Bカップはあるわ…B…」 暗黒の海すら引き寄せそうな彼女の雰囲気に、困惑は強く腰は逃げ気味。 「…どーいうこと…?」 「……は?」 「私ですらまだ、Aカップなのにっっっ!!!」 論点が違う。 「…空、今はそーいうこと言ってる場合じゃ…」 「私は分かります…!」 収集がつかなくなりかけている空とヤマトの言い合いに、唐突に京が口を挟んだ。 「京ちゃん…」 まだ女性に対して甘い夢をみていたい伊織は、慎ましく自分の耳を塞いで座った。 冷静なヒカリの突っ込みに、太一の胸を更に揉もうとしていた空の手がぴたりと止まる。 「それに…せっかく綺麗な形してるんですもの。変に崩れたりしたら悲しいじゃないですかv」 うっとりと微笑むヒカリの言葉に、男性陣はもはや言う言葉を見つけられない。 「この形を崩さないためには、やっぱりブラつけた方がいいですよねvふふ…お兄ちゃんと下着売り場に行けるなんて…vv」 確かに、仲良し八神兄妹が買い物で唯一行けない所と言えば、下着売り場位だろうが…夢見るように呟くヒカリに、何かが違うと思わずにはいられない…。 「…テイルモンv天誅v」 彼女は黙って軽いネコキックをお見舞いし、ヒカリの横に戻った。 「うわぁっ!ヤっヤマトぉ!」 「……何の話か全然分かんない〜っ!」 一人話について行けないアグモンが、いつもは太一が分かりやすく教えてくれるのに、その太一が未だ目を覚まさないためヒカリの服を引っ張った。 「アグモンはそれでいいのよv」 結局何も分からない。 「…伊織は分かるがや?」 様々な人間模様が繰り広げられる中、その喧騒の中でもしぶとく意識を手離していた太一が、ようやく重たい瞼を震わせた。 「あ…お兄ちゃん、気がついた?」 その様子に、散っていた子供達がわらわらと寄って来る。 「太一、気分はどう?」 何だかんだ言って太一が心配な空が、顔を覗き込んで額に手を当てた。 「う〜…何か…すげぇ、だりぃ…何があったんだっけ…?」 そう言って太一が己の手を伸ばした先は、件のブツ。
ふにっ
「……………」
ふにふにっ…
その行動を止め損ねた一同は、生暖かい笑顔を浮かべながら固唾を飲んで彼の反応を伺う。 力任せにシャツを引っ張り、勢いよく飛び散ったボタンの行方を追うものは、誰一人いなかった。
「………っっんじゃ、こりゃぁああぁぁぁっっっっ!!!」
太一の悲鳴が辺り一帯に木霊する中…たわわに実った果実が二つ、持ち主の意志とは無関係に…あるはずの無い場所で揺れていた。
つづく(笑) |
はぁ〜私は楽しかったです。
ちょっとストレス堪ってたんで、当初の予定を変えて、
訳の分からない話を書いてみました(笑)
続きは一応ありますが、反応があったら書きます。
無かったら書きません(笑)
その程度ってことです(苦笑)