「…なぁ、光子郎?」
「はい。何ですか?太一さん」

 太一に名を呼ばれ、光子郎はやっていた作業を止めて顔を上げる。
 反対に、太一は広げていた雑誌に視線を落としたままだ。

「ん〜…大したことじゃ無いんだけどな?」
「はい」
「父親って『親父』って言うじゃん。んで、母親は『お袋』って言うじゃん?」
「まあ、そうですね」
「何で母親は『親母』じゃなくて、『お袋』なんだ?」
「……………」

 太一をじっと見つめる光子郎。
 雑誌に視線を落としたままの太一。

「……ちなみに、『親母』は何て読むんですか?」
「『オヤボ』?」
「語呂が悪いからです」
「そっか、語呂が悪いからか」
「そうです。語呂が悪いからです」
「うん。サンキュー」
「……………」

 そして、何事も無かったように光子郎は作業を再開する。
 太一はページをめくった。
 ふと、滑るように流れていた光子郎のパソコンを叩く音が止む。

「……………っ、調べて来ますっ!」
「行ってらっしゃ〜い」

 バタバタと立ち上がって出て行く光子郎の背を、太一はひらひらと手を振って見送った。




 それは、決して珍しくは無い光景…。





 
おわり