全てはここから始まった。

 

 

 『光が丘』…子供達が産まれ、育った、緑の少ない人間達の街。
 そして、その人間達の進化の恩恵として出来上がった、鉄と鉛の群生と小さな箱に詰まったデータの塊。
 自然破壊を生業とするような人間達が、己らの知らぬままに生み出したのは、不自然な自然が詰まった心有るデータの世界。

 急激な進化を遂げた世界は、やはりどこか不自然で脆く、外部からの助けが無くては簡単にバランスを崩してしまう。
 故に世界は、疑念を抱く大人達を排除し、あるがまま受け入れる柔軟な心を持った子供達を歓迎した…己を救うワクチンとして。

 彼等に与えられたのは、自由気まま・勝手に生きる自然な生き物達の中で、唯一目的を持って創られた枷ある生き物…戦うことを運命付けられた、世界の捨て駒。
 そのためだけに創られた物は、用が済めばきっと捨てられる。

 それが自然。

 だが世界はそれを善しとしなかった。
 不完全な人が、故意でなく生み出してしまった世界の最後の良心。

 かくて世界が戦うためだけに生み出した命に、彼等の支えになるように選んだのが、八人の子供達。

 彼等の存在があることで、必要とされる彼等の役目は終わらない。
 二人で一つ、一つを二人で…分け合ったのは使命か命か。

 それでも彼等は手を取り合うことを躊躇わない。

 純粋な瞳と純粋な心が惹かれ合うことは、既にプログラム外のこと。
 彼等は彼等の意志で自分の道を切り開き、その運命をもぎ取った。

 そこには、何者かの意志は存在しない。
 彼等は自分達で決めて、その足で地面に立っているのだから。

 それがテイマーと呼ばれる子供達と、世界中に散らばる彼等の仲間。

 そして今、彼等の戦いの一ページが終局に向かって動き出す。
 誰の胸にも募る不安…傷つくことへの恐怖。
 震える指も、竦む足も、脅える瞳も隠しようの無い事実。けれど、彼等は迷わず戦いへと進んで行く。
 自分に出来ることを精一杯にするために。

 だが、未来は決まっている。
 彼等は勝つために立ち上がったのだから。


 



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