誰よりも眩しくて、誰よりも輝いていて…それなのに、誰よりもあたたかい人。 初めて見た時から、誰よりも戦慄にこの心に焼きついたあの人。 誰よりも…太陽みたいなあの人が、大好きです。 調度デジタルワールドから帰還した時、タイミングよく扉がガラリと開いてその人は現れた。 「た、太一さんっ!?」 画面から姿が再生されたばかりの状態だっため、一同驚きの声を上げたまま固まってしまった。 「ちゃんと揃ってるな。ケガ無かったか?」 にっこり笑った太一に、子供達はほっとして、次いでわっとその周囲を取り囲もうとしたが、それを止めたのは大輔だった。 「わあ〜っちょっと待った待った!太一先輩こっちこっち!京!まだ電源切ってないよな!?」 大輔の手招きに、不思議に思いながらも近寄ると、画面から聞き馴染んだ声が聞こえた。 『太一〜?太一そこにいるの〜?』 画面を覗き込むように大写しになっているアグモンの姿に太一が嬉しそうな声を上げると、その後ろで大輔が満足気に微笑んだ。 『あ〜太一だぁ〜♪なあに?太一ずっとそこにいたの〜?』 二人の会話をそこまで中継すると、ゲートは一度ノイズを挟んでぶつんと切れた。 太一はアグモンの消えた画面をしばらく見つめていたが、一瞬だけ浮かんだ寂しそうな色を瞬きと共に瞳の奥に閉じ込め、いつもの笑顔で振り向いた。 「…大輔、ありがとな」 微笑を更に深くし、気を利かせた後輩の頭をくしゃりと撫でる。 「たいち〜?」 チビモンが可愛らしく小首を傾げると、太一の気分が少しだけ浮上した。 「何だチビモン、腹へってんのか?…あれ?お前おでこに傷が残ってんぞ?」 大輔が慌ててパートナーの顔を覗き込もうとしたが、太一は笑ってそれを制すると、ズボンのポケットの中からバンドエイドを一枚取り出すとそっと貼ってやった。 「ありがと、たいち♪」 太一がチビモンが持ち切れないほどのお菓子のつまった袋をスポーツバッグの中から取り出し、他のデジモン達が集まってくる間に床の上に広げてやった。 「すみません、太一さん」 お菓子を見た途端腕の中から飛び出して行ってしまったパートナーを苦笑気味に見つめながら、子供達は太一の周りに集まった。 「何か変わったこと無かったか?」 所々すり傷や切り傷の残る後輩達を見て、痛ましく思うよりも元気付けるために太一はにっこりと微笑んだ。 「お兄ちゃんはどうしたの?こんな時間に来るなんて」 説明しながら大輔の方を見てウィンクする。 「さ〜て、お前等食ったか?もう日も暮れるし帰るぞ〜?」 太一の声にデジモン達は一度顔を上げたが、ラストスパートと言わんばかりに菓子の中に顔を突っ込んだ。 「もうパタモン!意地汚いよ!?」 がっつくデジモン達の中からタケルがパートナーを引き離すと、泣きそうな顔で手足をばたつかせているのを見て、太一が笑いをこらえながらお望みのポッキーの残りを手渡してやった。 「すみません、太一さん…」 みたらし団子をしっかりと握り締めご満悦のポロモンの頭をを、太一は楽しそうにつついた。 「だけど、みたらしはちょっと失敗だったかな…京ちゃん、汚れたらごめんな?」 どうやら今日も八神夫妻は遅いらしい…嬉しそうに声を揃えた二人に自然と視線が集まる。 きっと、太一一人に任せずヒカリも台所仕事を手伝うのだろう…その横で、テイルモンがあの手袋をしたままお皿を運ぶ姿があるかもしれない。 「…ちょっと可愛いかもv」 誤魔化し笑いを浮かべながら、京は慌てて手を振った。 「そんじゃ、皆気をつけて帰れよ」 門まで来た所で帰り道が別れるため太一が手を振れば、大輔が慌てて彼を呼び止めた。 「どうした?」 初め大輔が思いつめたように言うので太一は何事かと目を瞬いたが、話を聞いて破願した。 「何だそんなことか…いいぜ。オレの都合に合わせてくれるんだな?」 大輔が元気良く返事すると、太一は微笑み、もう一度手を上げてヒカリとテイルモンと共に帰って行った。 「…上手い口実を見つけたね、大輔君」 握り拳に力を加え、誓いも新たに天を振り仰いだ大輔の様子に、三人はきょとんと顔を合わせた。 「…何だ、本当なんだ」 さっさと方向転換して同じマンションに向かう三人に、大輔は不審気な視線を向ける。 「…何々だよ、お前等…」 そう呟いてみても、答えを返す者はいなかった…。 ランドセルにボールを引っ掛け、走るリズムに合わせて揺れるボールと同じように大輔の心も弾んでいた。 待ち合わせ場所は小学校の近くにある港公園の時計台の下。 「へへ♪一番乗り!」 二人しかいないのだからどちらかが必ず先に来ているものなのだが、大輔は細かいことは気にならないほど浮かれ切っていた。 「太一先輩!?」 辺りを見回すが姿が見えない…幻聴だったのかと少し恥かしく思いながら足元を見ると、紙に包まれた小石が落ちていた。 『後ろ』 書かれてあるのはそれだけ。 「…た。太一先輩!?どーしたんですか?」 あっという間に植え込みの影に引きづりこまれ、訳が分からないまま太一を伺えば、彼は真剣な顔つきで通りに視線を投げていた。 声には出なかったが、心の中は素直に『げっ!?』という音を発信した…今一番会いたくない人物だ。 「くそう…絶対ここだと思ったのに…太一の奴どこ行った!?大輔と二人きりになんてさせるかよ…っ!」 そう呟くと、またも猛スピードで何処かへと走り去って行った。 「……行ったか…。ったく、何なんだかヤマトの奴…」 それを見送り、呆れたように深い溜め息をつくと、太一はようやく大輔を解放した。 「…あの、太一先輩…?」 にっと笑った太一の姿に、きっと太一がこうして外で誰かと約束する度、血相変えて邪魔していたんだろうなぁと思うと、何と言うか…ふつふつと怒りが込み上げて来た。 「行きましょう!太一さん!」 太一の手を握りずんずんと進んで行く後輩の異様な迫力に、太一は少々引き攣りながらも逆らわない方がよいと判断した…。 ついた先は自由に使える区営のグランドだったが、ただで使えるためかあまり手入れが行き届いておらず、使用者もまばらで、今日も太一達の他には人影もあまり無く、ほとんど貸し切り状態だった。 初めは大輔の願い通りマンツーマンの指導をしていたが、大輔が何とか太一の出す及第点にたどり着くと、ただのボールの奪い合いのようになってしまった。 「だあ〜〜〜っ!ダメだぁっ!取れねえ〜…っ!」 どさりと仰向けに倒れ込んだ後輩にトラップ出来るはずも無いパスを渡せば、ボールは大輔を跳び越えて向こう側の木に跳ね返り、上手に大輔を避けて太一の足元に戻った。 「だあって太一先輩、ずるいっスよ!手加減してくれたっていいじゃないっすか!」 ぴっと立てられた三本の指にずぶずふと気持ちが落ち込んで行く…。 「あはは、そー落ち込むな大輔。オレはこれでもお台場中サッカー部のエースだぞ?小学生のお前が敵わなかったからって、別に恥でも何でもねーだろ?」 拗ねてしまった後輩を宥めるように言った太一の科白に、大輔は音速で反応した。 「ホントですか!?」 突然起き上がった大輔に驚きはしたが、太一は笑って頷いた。 「おう。何がいい?また練習につき合うか?デジタルワールドでグレイモンの背中に乗せてやってもいいぞ?」 以前グレイモンを見た時に大輔が言っていた言葉を思い出して繋げれば、大輔は真剣な顔で俯いている。 「………それじゃあ…」 大輔が決めたらしいことを感じ、太一は彼の顔を覗き込む。 「キス、させて下さい!」 大輔の言った言葉が頭の中でリピートする。 「……マジで?」 確認すればこっくりと頷いてくる。 「…じゃ、いいぜ?」 にやりと笑えば驚いたように飛び上がる。 「…え?」 ぶつかるように唇に当てられたのが何か、一瞬分からなかった。 「………」 囁くような告白の後、大輔は勢いよく立ち上がり、同じ勢いで頭を下げた。 「今日はありがとうございました!」 それだけを言うと、太一が止める間も無く鞄を引っ掴んで走って行ってしまった。 びっくりした。 まさか本当にキスしてくるとは思っていなかったのだ…しかも唇に。 「…失礼しますだって…」 真っ赤な顔で、肩を掴む手は痛いほど…微かに震えていたことも知っている。 「順番が逆だろうが、馬鹿大輔!」 キスの後の告白だった。 次に会う時が楽しみだ。 どんな顔をするか、想像するだけで退屈しない。 |
おわり |