仕事の依頼ついでにお茶しに塔を訪れた蒼の君。 迎えに出たワタルと虎王…彼等の横を、ヒミコを先頭に小さな妖精達と戯れるように鴉呼が駆け抜けて行った。 「あっ!蒼の君!」 「いらっしゃいませですっ♪」 という言葉は、駆け抜けた後に聞こえて来た。 「…相変わらず、元気だね」 「はあ…まあ、おっしゃる通りで…」 「よいことだとは、思うけど…」 「ええ、まあ…」 「お茶に誘う暇も無かったねぇ〜…」 「はあ…おっしゃる通りで…」 少し哀愁を漂わせる上司に、少々俯き加減の保護者達。 実りの季節が来て、妖精達もいっそうパワーアップしてヒミコの元気に負けていない。 「まあいいや。いい香りがしてれば寄って来るでしょ」 「「全く以っておっしゃる通りです」」 さっさと切り替えた蒼の君に、二人は揃って頭を下げた。 仕事の説明を受けるためにいつも使う応接室へと入ると、中ではリーフとミンスが妖精達をお供に準備万端お茶の用意を整えていた。 「お待ちしておりました、蒼の君v本日はちっこいの達が摘んできた果物で、フルーツティーとタルトを作りましたの。ご賞味下さいませv」 「へぇ〜、美味しそうだね」 案内された席に腰を下ろし、差し出された紅茶の香りに目を細めた。 「やっぱり若い世界はいいね。採れる物まで瑞々しいよ」 「分かります?」 「まあね。この子達だろう?今年生まれた妖精は」 嬉しそうに笑ったワタルに微笑みかけ、見かけぬ人物に興味深そうに寄って来ていたちっこいの達に優しい目を向けた。 「あ、こらこら。お前達蒼の君の衣装の裾を引っ張るなよ?」 「はは。いいよ」 一生懸命見ようと彼の服にしがみついていたちっこいのを慌てて嗜めた虎王を止め、その足元にいた数人をひょいっと抱えて膝の上に乗せた。 と言っても、三人も乗れば彼の膝はいっぱいになってしまうのだが。 「こんにちは。私の名はアダール。君達のご主人は『蒼の君』と呼んでるが…君達は?」 にっこり笑った蒼の君に、ちっこいの達は嬉しそうに満面の笑顔を浮かべる。 ちっこいの ちっこいのだよ ちっこいの♪ あっちにいるのはこまかいの こまかいのっていうの♪ 「…………そう」 楽しそうに言うちっこいの達が指さしたのは、彼等よりも更に小さな丸い物体に手足がついたような小さな妖精。 「………………」 思わずワタル達の方を見る。 ちっこいの達は嬉しそうに笑う。 こまかいの達は楽しそうに遊んでいる。 だが、蒼の君の瞳には大いなる疑問が浮かんでいた。 「…聞いてもいい?」 「……あ、あまり、聞かれたくないかなぁ〜なんて…」 「あははははは…」 引き攣った笑いを浮かべるこの世界の主達に、彼等の上司は思いっきり怪訝な瞳を向けた。 「正式名か?」 「…そ、そう…です」 「……………」 ずばり切り込んだ蒼の君に、ワタルは観念して頷いた。 世界の分身とも言える妖精達の正式名が『ちっこいの』や『こまかいの』というのは…いくらなんでもどうかと思ってしまうのだが…と考え込んだその時、一つに結い上げた緑の髪が脳裏で跳ねた。 「…ヒミコか」 口に出してみると、ますます確信が強くなる。 そんなに長くは無い付き合いだが、『見たまま』で名づける心当たりに彼女が該当してしまう…更に前例までがある。 確認するように彼等を見ると、苦笑を浮かべつつ『正解』と書かれた旗を振っていた。 「で、でも、分かりやすいですし、可愛いし、いいと思いますよ?」 「そうそう!ちっこいの達も気に入ってるみたいですし!」 弁明するのは、少女の姿をした精霊王達。 別に怒っているわけでし無いのだけれど…と思った時、ふいに目の前にフォークに刺さったケーキが差し出された。 見ると、いつの間にかテーブルの上に登ったらしいちっこいの達が、協力して切り分けたケーキを『早く食べてv』とばかりに差し出して来た所だったのだ。 その仕草に思わずにっこり。 そしてパクリと口にすると、期待のこもった輝く瞳に見つめられた。 生まれたばかりに、綺麗な世界そのままを映し出す綺麗な瞳。 「美味しいよ」 そう言うと、嬉しそうにバンザイをする。 どうやら、彼等の宿る実を使っているらしい…嬉しそうなちっこいの達に、彼等の長も、世界の主達もその瞳を和ませる。 いい世界に育っている。 蒼の君も笑ってお茶を口に含んだ。 可愛いからいいか…と自分も思う。 嬉しそうなら、楽しいならば、それで彼等が良いならば…それでいい。 いや、きっと…それがいい。 「美味しそうな匂いがする〜♪」 「する〜♪」 ばんっと扉を開けて、ヒミコ・鴉呼以下、大勢のちっこいのとこまかいのの団体が部屋に乱入して来た。 そして、テーブルの上のお菓子に顔を綻ばす。 「ヒミコも食べたい♪」 「鴉呼もです♪」 「はいはいvもちろんございますよ。その前に手を洗ってらっしゃいませ」 リーフの言葉に良い子の返事をした二人はまた元気に部屋を飛び出した。 その後を数人のちっこいの達が追う。 だが大多数は残り、ある者は主達に駆け寄り、ある者は見慣れぬ客人ににっこり微笑みかける。 本当に、いい世界に育っている…。 帰ったら冥王に報告しようと思った。 あなたの判断は間違ってはいなかったと。 優しさが、ちゃんと報われることもあるのだと…。 「ヒミコは名前をつけるのが上手いのかな。鴉呼の名もヒミコがつけたのだったろう?」 「そうなんですよね〜…ヒミコは決断が早いから、どうしても出遅れちゃって」 「ふふ。その決断力の速さで『今』を選んだ娘だ。しっかりしていないと置いていかれるぞ?」 悪戯っぽく笑った蒼の君に、ワタルと虎王は一瞬目を見張り…「そうですね」と、どこか嬉しそうに笑った。 とたとたと響いてくる足音に、リーフが絶妙のタイミングでヒミコ達用のお茶を淹れる。 香りたつ湯気に気持ちも和らぐ。 健やかな世界。 まだ若い世界。 そこで生まれた妖精達の名は『ちっこいの』と『こまかいの』 冗談のようだが、それは一種真実でもある。 小さくて細かい生き物が集まり命を創り、世界に成る。 人は一人では生きられない。 集まり、支え合って生きていく。 それが…世界。 何となく楽しい気分で、蒼の君はさて…と持って来た資料を取り出した。 「こういう所から連れ出すようで心苦しいけれど、そろそろ仕事の話に入ろうか?」 「はは…今度は何ですか?」 「何、そんなに大層な問題じゃ無い」 「でもややこしくはあるんですね?」 「そうでないなら、ワタル達じゃなくても事足りるだろう?」 「…はい…頑張ります」 力無く笑った彼等に、ちっこいの達が励ますようにぴとっとくっつく。 その微笑ましさに蒼の君だけで無く、リーフとミンスまでがくすりと笑った。 とりあえずは仕事の概要を説明しつつ、蒼の君は…何人かポケットに入れて持って帰れる大きさだな〜…等と考えていた。 |
おわり |
オリキャラばっか(笑)
『藤桃屋』の一周年記念で出した小説にリンクしている
よーなお話でした(苦笑)
何となく、ほのぼのが書きたくなったんですよ…。
ごめんね、相変わらず分かり辛くて…(苦笑)