遥かなる深淵…。 まどろみの淵。 魂の安らぐところ。
その全ての源に、あの方がいる。
真からの微笑みも、芯からのぬくもりも無く…ただ過ぎていく時に流されるまま、刻一刻と近づく別離。 それが怖いわけでは無い。 覚醒の鍵となったあの瞳さえ、もう自分を見てはくれなくても…。 例え、初めから見てくれていたわけでは無かったとしても…。 それでも答えは変わらない。
あの方について、参ります。
名も名乗ってはくれなかった。 名をつけても、くれなかった。 それでも、微笑みもぬくもりも与えてくれた。 それが真実では無かったとしても…あの時、無意識でも差し伸べてくれた両腕が、自分の全て。 あの腕に包まれて、初めて聴いた音は…葉の梢でも、水の跳ねる音でも、誰かの声でも無く…あなたの心音。 あなたの生きている音が、一番古くて、大切な記憶の始まり。
どこまでもついて参ります。
それで、あなたが本当に楽になるのなら…。
この重なる音が…共に消えるまで…。 おわり |