ユニウスセブンの悲劇。

 その数日後、アスランはキラに軍へ志願することを告げた。








 反対するだろうことは目に見えていた。

 もしかしたら怒るかもしれない。
 泣くかもしれない。
 もしかしたら…一緒について来ると言うかもしれない。

 けれど、それだけは出来なかった。

 いつだって一緒にいた自分達…離れるのは辛いけれど、これだけは、共に行くことは出来ない道。

 だって自分は…彼を、キラを守るために軍に志願するのだから。

 だが、そんなアスランの葛藤とは裏腹に、キラは静かに彼の想いを認めた。

「…………分かった」

 少し辛そうに、けれど微笑を浮かべて言ったキラの言葉に顔を上げる。
 拳を握り締め、震える唇を噛みながら、それでも笑顔を浮かべるキラは、自分の決意などお見通しだったようだ。

 止められないと分かっている…瞳がそう語っていた。

「…ごめん、キラ」
「ううん…僕のことは心配しないで。アスランが行っちゃったら、恋人と愛人とお妾さんとヒモでも作って酒池肉林の日々を送るから」


「………………………は?」


「死なないでね、アスラン。気をつけて」
「て、キラ!?い、今なんか…っっ」
「え?何?」

 きょとんと小首を傾げる幼げな仕草に、自分が聞いたのは聞き間違いだったのかと脳裏を過ぎる。
 けれど、続けて発せられたキラの言葉にまたもや驚愕の海にバンジージャンプしてしまった。

「アランがいなくなるならこの家を出なくちゃいけないよね」

 現在キラはザラ家に居候をしていたのだ。

「は!?なんでっ!?」
「なんでって…アスランがいないのに、他人の僕だけこの家でやっかいになってるわけにはいかないじゃないか」
「そんなことないっ!キラはこの家で俺の帰りを待っててくれればいいんだ!!」
「やだよっ!なんで僕だけそんな淋しい思いして君を待ってなきゃならないの!?僕はこの家を出て恋人作って、愛人作って、お妾さん作って、ヒモつくって、肉体の快楽に溺れて全てを忘れるんだから!」
「キ っ、キキキっ、キラあっっ!!??」

 抱きしめようとしていたアスランの腕を器用に避けてそう叫んだキラにアスランの悲鳴が上がる。

「な…っ、そ、そんなっ、こ、恋人っとか、あいあいあいじ…っ!??」
「だって淋しいもん!アスランいないと淋しいもんっ!アスランが軍に入って他の色んな男の人達とあんなことやこんなととか一人だけ楽しむんなら僕だってこっちで恋人とか愛人とかおめ」
「ちょっと待てっ!!」

 目に涙まで浮かべて言い募るキラの両肩をがしっと掴み、彼の言葉を遮ったアスランの顔色は…土気色の上脂汗まで滲んでいた。

「……俺が、軍に入ってなんだって…?」
「え?だから、色んな男の人とあんなこ…」
「わーっ!もういい!言うなっ!」
「言えって言ったり、言うなって言ったり、アスランってホント我侭だよね…」
「そんなことは今はいい!なんで俺が軍でそっ、そんな、ことをするって…キラは思うんだ?」
「アスランこそ何いってんの!軍なんて昔からホモの巣窟じゃない!ノンケの人でも98%は同性間交渉を経験して出てくるっていうのに。上官命令が絶対の所で夜伽を命じられたって断れないじゃん!掘り掘られの繰り返しで、軍医さんなんか性病のエキスパートさんがなるって話しだし。アスラン顔が綺麗だし家柄もいいからきっと生意気だとか思われて、アカデミー一日目から目をつけられちゃって、ちょっとした隙に拉致されて薄汚い倉庫に連れ込まれて集団で輪姦されちゃったりするんだよ!そうに決まってる!そんな所に行きたいなんていうアスランは実はそれを心密かに望んでたりするんだ!アスランの隠された性癖を知っちゃったからには僕はもうここにはいられない!さよならアスランっ!僕は他所で恋人と愛人とお妾さんとヒモとか作って幸せなラヴライフをエンジョイするから僕のことは心配しないで心置きなく屈強な先輩達に輪姦されて!」

「ちょっと待て――――――っっっ!!!!」

 口を挟む隙も無いほど一息に捲くし立てたくせに息一つ乱れていないキラの肩に掴まり、己の肺活量を極限まで酷使したアスランは体中で嫌な汗をかきながら荒く息をついていた。

 何でキラの軍への意識がここまで偏見で凝り固まってるんだとか。
 誰があんな言葉をキラに教えたんだとか…。
 言いたいことは色々あったが、今問題なのは、自分がこのまま軍に入ればキラから『そういう目』で見られてしまうことは必然である、ということだ。

 口にするのもおぞましいことを自分がされ、あまつさえそれを自分が望んでいると思われるのだ。
 しかも、その間にキラはこの家を出て他所で…。

「………キラ」
「なあに?アスラン」
「…俺がここにいれば…キラも出て行かない?」
「うん。アスランがいるならここにいるv」

 心は決まった。

「キラ。俺、軍に志願するのを止めるよ」
「アスランならそう言ってくれると思ったv」

 にっこりと華のかんばせを輝かせた彼とは対照的に、アスランはがっくりと項垂れた。









 後日、ザフトのとある戦艦の出陣式の模様がTVで流れた。

「こんなに軍にいる人がいるんだね〜アスラン」
「そうだね…」

 曖昧に相槌を打ったアスランの様子など気にも留めず、キラは少し痛ましげな視線を画面に送る。

「…こんなに沢山の人が軍にいたら…プラントの出生率が下がるのも、仕方ないよね〜」

「…………………」



 何も言葉を返すことが出来ないアスランだった…。






 
おわり