「本日より、クルーゼ隊所属となりましたキラ・ヤマトです。よろしくお願いします」



 ここ数日噂になっていた新隊員を紹介され、アスランは一瞬時を止めた。










 ここにいるはずの無い幼馴染の姿にアスランは氷の如く固まったが、仮面上司と何やら(思い込みと目の錯覚で)親しげに話している姿にすぐさま氷解し、一気に沸点まで飛び越えた。

「キラっ!何故お前がここにいるっ!?」
「え?配属されたから」
「そういう問題じゃ無いっ!」
「じゃあどういう問題?」

 激昂するエースときょとんと小動物のように小首を傾げる新人…そんな様子を、残された者達は呆然と見つめるしかなかった。

「お知り合い…ですかね?」
「オレが知るか」
「そりゃそーだ」

 無視された状態はあまり気持ちのいいものでは無いが、口を挟む隙もない状態では仕方が無い。

「お前第一世代だろう!?ザフトなんかに入っていいのか!?」
「えーと、どっちかって言うと、第一世代だからこそ入らされたって言うか…」
「は!?何だそれは!?」
「ん〜と…」

 呆れたような、怒ったようなアスランに怯むことなく、キラはマイペースに人差し指を頬に当て、思い出しながら説明を始めた。

 それによると、キラの家庭は両親がナチュラル、子供がコーディネーターという、現在では珍しい家庭環境だったが、両親はキラの身を案じてプラントへの移住を決めたのだという。
 しかし、当のプラント側がナチュラルの両親の入国を渋ったため、キラだけでもプラントに…という話になりかけた所、国防委員会と評議会の方から『キラがザフトに入り、プラントに貢献するならば両親の入国を許可する』という通達を受けた。
 が、両親はキラの入隊を拒否し、それ位ならオーブへ行こうとしたのだが、優秀過ぎるほどに優秀だったキラの能力に目をつけた国防委員会が、キラが入隊するならば両親の安全は必ず保証すると言われ、彼等の反対を押し切りザフトに入ることにした…ということだった。

「…ま、仕方ないよね。オーブは中立だけど、ブルーコスモスも闊歩してるからコーディネーターの僕が一緒にいたら、お父さん達の身が危ないかもしれないし…」
「そ、そうか…」

 少し淋しそうに説明したキラの言葉に打ちひしがれながら、アスランは少々所で無く顔色を悪くしていた。
 また、後ろに佇む同僚達の血の気も引いている。

 少し辛そうに、けれど穏やかに微笑む少年は、決して争いごとに向いているようには見えない。
 が、実際にはその能力の高さを見咎められ軍入りを果たしている。

 それを決めたのは…。



――――― ワタクシドモノオヤノセイデゴザイマショウカ…?



 だらだらと冷や汗を垂れ流すという、生まれて初めての経験をザフトの誇るエリートパイロット達がしていると、ふと思い出したというようにキラが零した。


「…そういえば、ここには評議会委員の息子さん達がいると伺ったのですが…」


 ぴしり、と空間にひびが入る音がした。

 ゆっくりと自分達に視線を向ける動作が…いや、実際はそんな風に時間をかけていたわけでは無かっただろうが、彼等はその光景がスローモーションのように見えた。
 そして…自分達を見る彼の目が…鈍く光ったのも…。

「まだ、皆さんの名前…伺ってませんでしたよね?」



 その目は、笑っていなかった。




 …これほど、自己紹介に緊張したことは、無い。




 
おわり