クサナギの格納庫を見渡せる位置にあるパイロット控え室…そこで一時の休息をとっていたキラとアスランは、静かに開いた扉に目を向けると、そこにどこか思いつめた表情をしたカガリを見つけた。 「…あ、じゃあオレは…」 「あっ、待て!お前もいろよ!…いや、いてくれ」 席を外そうとしたアスランを呼び止め、カガリ縋るような瞳を彼に向けた。 その様子を怪訝に思いながらも止めはしなかったキラは…後々になってそのことを思い出し、深い溜め息をつくことになる…。 フリーダムとジャスティスが管制官の指示に従ってクサナギを後にしようとした時、その様子をじっと見つめる少女の視線に、アスランは控えめながらも咎めるような気持ちを込めてキラに進言した。 その言葉が、今決してキラに言ってはならないものだということも気づかずに…。 「…キラ、ついててやった方がよくないか…?」 戸惑いながら、控えめに、遠慮を交えた…『提案』と言う名の『進言』。 その中に潜むものを敏感に感じ取ってキラの米神がぴくりと引き攣る。 「……じゃあ、アスランが一緒にいてあげれば?」 「え…?」 地を這うような冷た〜い声音に、アスランは一瞬その言葉の意味を理解しかねた。 「…キラ?」 「心配なんでしょ?一緒にいたいんでしょ?いくらクサナギにM1が多いからって、ジャスティス一機位なら格納庫の隅にでも置いてもらえるんじゃない?どうぞ残って?ああ、なんなら、AAにジャスティスだけ置いといて、君だけこっちに戻って来てもいいよ?」 絶対零度の雰囲気を纏い、どこまでも冷めた口調で続けるキラに、アスランは訝しげにモニターに映るキラに視線を戻す。 「…キラ?どうしたんだ?」 「『どうしたんだ』?」 アスランの言葉をそのまま口に乗せ、はっと嗤う。 「カガリも随分だけど、アスランも救いようが無い位鈍いよね」 くすくすと嗤う姿は自棄に近いものがあったが、『鈍い』と言われたアスランはもちろん気がつかない。 「…何が言いたい、キラ」 「ねぇ、アスランは、なんでカガリが心配なの?」 「それは…っ、突然父親と信じていた人と血が繋がっていないと分かれば、動揺するのも当然じゃないか!」 何を当たり前のことを言うんだとばかりに、キラだってそう思ったから慰めてあげたんじゃないのか!?と声を荒げる。 だが、そんなアスランの様子をキラはどこまでも冷めた眼差しで見つめていた。 「…そう、そうだね。当然だよね…あんな写真見せられたんじゃね…」 「キラだってそう思うじゃないか!」 そら見ろと言わんばかりに同意するアスラン。 「写真の人…カガリのお母さんじゃ無いみたいだったよね…」 「ああ。ウズミ氏の奥方では無いようだったな…」 「で、僕とカガリが双子かもしれないって?」 「あの写真からは、そうとしかとれないだろう」 「あの女の人、どう思った?」 「綺麗な人だったな。キラに良く似た茶色の髪の毛に紫の、瞳…で…」 そこまで自分で言って、アスランの血の気がさーと下がる。 「……やっと、気づいた?」 にっこりと微笑むキラの顔が怖い。 「あの人、僕と良く似てたよね〜髪の色も、瞳の色も。けどさ…じゃあ、僕を育ててくれたあの『母さん』は…誰?」 「………………」 「アスラン僕と幼馴染だもん、知ってるよね〜僕の母さん。カガリもね、知ってるはずなんだけどね…前にオーブを出る時に『お前の両親あそこにいる』って会わせてくれたから」 「…………キ、キラ…」 「カガリはウズミさんに打ち明けられて血が繋がって無いって分かって、動揺して、僕にぶちまけて、アスラン巻き込んで、慰めてもらって、突然そんな事実が明るみに出ちゃって自分一人じゃ抱えきれない、助けて、支えて、一緒にいて!…て、それで気が済んだかもしれないけどさ、両親健在で、そんな事聞いたことも考えたことも無く、戦争終わったら今度こそ僕から両親に会いに行こうって思って頑張ってたのに、それこそ晴天の霹靂に血が繋がって無いことバラされちゃった僕の立場は?」 「……………」 「親と血が繋がって無いって分かれば動揺もする?そりゃそーだよ。今僕の頭の中はぐちゃぐちゃだし。なのに、なんでそんな事態に陥れた相手の傍にいて慰めてやらなきゃならないわけ?あの場で責めもせず、取り乱しもしないで今いる僕を褒めて欲しいくらいだよ!」 「それは……っ」 「だいたい、いくら幼馴染だからって、両親と血が繋がって無いなんて重要な話、『他人』のアスランの前でする?普通」 「た、他人って…」 「何?他人じゃないとでもいうの?君は僕の何?カガリの何さ?僕とカガリはなんなのさ?それすら分かってない状態の時に何で第三者を同席させるかな?」 『他人』と、しかもちょっぴり強調して言われて、少なからず傷ついたアスランが反論しようとした言葉を聞く前にサクっとキラが切り捨てる。 「まあカガリにしてみたら、憐れったらしい姿を見せて思いっきり君の同情を引きたかったのかもしれないけどさ。それにしたって無神経だよね」 「キラ!その言い方はカガリに対して…っ」 「五月蝿いよ。カガリの思惑通りにすっかり同情しちゃって9年も一緒にいた幼馴染の状態も察知出来なかったアスラン・ザラ君」 「…………っ」 「何?自分のお母さんの親友で、人生の大半以上の食事や学校行事の世話をしてくれていた幼馴染のお母さんとどう見ても違う写真の女の人との違いに呆れるほどさっぱり気づかなかったコーディネーターのエリートのくせに致命的に鈍感なアスラン・ザラ君って言い直したほうがいい?」 スパッ、バサッ、ザクッ…と鋭い切れ味を披露したキラの毒舌に、アスランは撃沈されて言葉も出ない。 「…アスランは、そうやっていつも目に見える事実だけを追いかける。その影にある真実に気づきもしないで、『泣いていない』者を責めるよね」 「え…?」 「泣いてなければ傷ついてないの?笑っていれば嫌じゃないの?穏やかなら辛いことを知らないの?…それは、見た目だけで判断出来てしまえることなの?」 カガリは泣いて悲しみを表に出していた。 キラは笑って動揺を必死に押し隠した。 その違いは何だろう? ちゃんと物事に真っ直ぐに取り組んでいるか。 その本質を見抜いているか。 そして…自分の周りに与える影響をちゃんと理解しているか…だろう。 穏やかに微笑む、世間知らずで護られるだけの無力な少女だと思っていた元婚約者は、芯が強く、己の足でしっかりと立ってその考えの上で人々を導くことの出来るカリスマだった。 ただの偶像として創られたアイドルなんかでは無かった。 そうして、自分の勝手な思い込みによって生じる弊害の恐ろしさに慄然し、己の考えで戦おうと、世界を見ようとオーブに組したというのに、また同じ失態を犯したのか…。 そんな自己批判の海に沈み始めたアスランに対し、キラは冷ややかにとどめを刺した。 「ちょっとした誤解やすれ違いが戦争をここまで大きくした。見えるものだけを信じ、信じたいものだけを信じる人達がこの対立の図式を組み上げたんだ。…僕等は、それじゃあいけないとザフトにも地球軍にも属しないここにいるんじゃないの?なのに、そうして踏み出した矢先から、こんなことが起きる…!」 「キ、キラ………」 憎い、というよりは悔しい…そして何処か哀しげに呟いたキラに、アスランもかける言葉も無い。 彼をこれほどまでに傷つけたのは、自分のせいでもあったから…。 「…アスラン、ジャスティス置いたらクサナギに戻りなね」 「キラっ、俺は…っ」 「今は言い訳なんか聞きたくない」 「キラっ!」 声を張り上げるアスランにふぅ…と深く溜め息をつく。 「……分かった、はっきり言うね。今、僕は、君の顔を見たくない。もちろんカガリの顔もだ。ここまで言わなきゃ察してもくれないその驚嘆する鈍さにはうんざりだ!僕の前から、しばらくでいいから消えて!」 そう言って一方的に遮断されてしまった通信は、どのようにしてももう再び開くことは無く、モニターに映るフリーダムはさっさとAAのハッチに滑り込んでしまった。 「キラ〜っ……」 それを目にして落としたアスランのどこまでも情けない呟きは、幸運にも誰にも聞かれることは無かった…。 はっきり言って、自業自得である。 |
おわり |
…ちょっと、出そうかどうしようか数日悩みました(汗)
いくら私がアンチアスカガでも…ねぇ(苦笑)
けどまあ、結局…ま、いっかと出しちゃいます。
苦情は受け付けませんのでヨロシク〜(汗)