「なあ、鋼の。君は恋はしないのかい?」



 数ヶ月ぶりに寄った東方司令部で、最強のお目付け役が席を外した隙を縫うようにされていたサボリ…もとい、休憩。
 その部下達に己の女性遍歴を恨み混じりにやっかまれていたマスタング大佐が、からかいの種を見つけたとばかりに最年少天才錬金術師に声をかけた。

 他の者達は、上司のその楽しそうな声音に、また始まったかとため息をつく。

 エドワード達がそんな色恋にうつつを抜かせるほどの心のゆとりを持っていないことなど、この場にいる全員が知っている。
 それなのにそんなことをわざわざ言うのは、真っ赤になって食って掛かってくるだろう彼の反応を楽しみにしているからだろうことは分かるのだが…。

 しかし結果は、問いかけた本人、そしてギャラリー全ての予想を裏切るものだった。


「してるよー。今片想い真っ最中」


「「「何!!??」」」

 ガタガタっと立ち上がる大人達の中、慌てもせずお茶請けのクッキーをパシリと噛み込むエドワード・エルリック、ただ今花も恥らう15歳(ちょっと違う)

「逢いたくて逢いたくて逢いたくて寝食共に忘れる位。考えるだけでメシ喉通んないし、夢にまで出て来るし、逢えるかもって思うとすっげー胸がドキドキして他のこと考えらんないの。そーいうの『恋』っていうんだろ?前行った街のじーさんが言ってた」
「そうだ!その通りだとも鋼の!で、相手は!?」

 エドの言い分に悲壮感半分漂わせつつも俄然盛り上がる軍部の出世頭達。
 そんな彼等の様子をきょとんと見つめ、さらりと告げた。



「賢者の石」



「「「………………」」」






 …何と言ってよいのやら…。






 
おわりv