泰麒の捜索に行き詰まり、誰もが疲労を隠せなくなってしまった頃…奇跡のように朗報が飛び込んで来た。





「…見つけました!」

 廉麟の言葉に、皆が顔を上げて表情を明るくした。
 その後、麒麟達が廉麟が見つけた気配の元へと確認に行く。

 しばらくして戻って来た彼等は、疲労の色は消えてはいないものの、それでも繋がった期待と希望に明るくなっていた。

「…景麒、泰麒の気配はどんな所で見つけたんだ?」

 蘭雪堂に来ていた主に、景麒は戸惑いながらも見てきたことをそのまま伝えた。

「あちらの学舎…のようでした。延台輔は、泰麒が通われている所だろうとおっしゃられております。あの場所を中心に気配が拡散しているようなので…」
「ああ、いい。知りたいことは分かった。そうだな…」

 僕の言葉を途中で切り、陽子はふむ…と考え込むように腕を組む。

「…延台輔、あちらの学校の仕組みについては?」

 陽子の問いに、六太は不思議そうな顔でふるふるっと首をふる。

「そうですか。では台輔方、あちらの校舎内で『図書館』もしくは『図書室』、『生徒指導室』、『生徒会室』、『資料室』、『職員室』のいずれかで、『生徒名簿』もしくは『学生名簿』か『住所録』という冊子を見つけて持って来て下さい。字はそれぞれこう書きます」
「「「……………」」」

 さらさらと陽子が書き出した文字に視線が収集する。

「延台輔は、あちらの本屋…本屋はご存知ですよね?ああ、よかった。その本屋で、こういった大雑把な日本地図では無く、鎌倉市を中心にした住宅地図をパクって来て下さい」
「パクっ……」
「あの?主上…」
「いいから。絶対必要なことだから」

 困惑する面々ににっこりと笑いかけ、麒麟達を狐琴斎から送り出す。
 そんな彼女に、残された王の山猿と称される延王が疑問を口にした。

「おい、陽子?どういうことだ?」
「ん〜、まあ当然と言えば当然なんですけど、学校に気配が残ってて、そこを中心に気配がするってことは、泰麒はその学校に通ってるってことですよね?」
「まあな」
「そうであろうの」
「こちらではどうか知りませんが、あちらでは、先程私がいった場所に保管されているだろう『学生名簿』には、通っている生徒全員の『現住所』が載っているんです」

 目を見開く一同に苦笑して見せ、そしてと続ける。

「延では『海客』の証明に郵便番号と電話番号の提示を義務付けておられるでしょう?あれと同じように、住所には番地という細かい振り分けがしてあって、住宅地図ならその場所が特定出来るはずなんです」
「なるほどな…」
「つまり…」
「泰麒のお住まいが分かるということですか!?」
「上手くいけば、だがね」

 五百年前のあちらの王と、生粋のこちらの王とが感心したように頷き、それに被さって勢い込んで聞いてきた李斎に、陽子は安心させるように微笑んだ。

 そうしてこちらにいる者達には説明が終わり、後は麒麟達の成果を待つばかりとなったのだが…中々帰ってこない。
 時計があれば、チクタクチクタクという音ばかりが響くような状況だが、生憎焦燥を駆り立てるような不躾なアイテムは存在しない。
 ただ静か過ぎるのも気まずいが…。

「…まだ、お見つけになられないのでしょうか…?」
「う〜ん…台輔達はあちらの文字に慣れておられないだろうから、渡した文字と照らし合わせることからしなくてはならないからなぁ〜…場所も注意した方が良かったかな?」
「そんなこともお分かりになるのですか!?」
「まあ、大体どこの学校も造りは似ているからね」

 そんな他愛無い会話をしていると、ふいに狐琴斎が光り、台輔達の姿を吐き出した。

「陽子!『住宅地図』ってこれでいいか?」
「…ああ、はい。これですこれ」
「主上、『学生名簿』とやらは、こちらでよろしかったでしょうか?」
「すっごくいっぱいあったんだけど、これが何なわけ??」

 腕に一抱えといった風情で冊子を持ち込んだ景麒と、梨雪や廉麟等も使令達に手伝わせてえっこらせと運び込む。

「そんなにありました?…ああ、歴代の物まで持って来てしまったんですね。へぇ、昭和初期の物まである…結構歴史ある学校なんだ…え〜と、私がいた三年前が、だから、今年のは…と」
「あの…主上…?」
「まあ、待て。泰麒は一年間こちらに居たことがあるんだったな?」
「あ、はい。十歳の頃に…」
「と、いうことは、確実に一年は留年しているはずだから…私と同い年か一つ下として、今年は高校三年か二年に在学しているはずだな…」

 独り言のように呟きながらも、バサバサと積み上げられた冊子の中から求める年度数の物を手際良く探し出す。
 どういうことか説明をと言い出したい麒麟達には、先に聞いていた王がまあ待てと、同じように押し止める。

「景麒、泰麒のあちらでの名は?」
「は?え〜と…」
「高里だ。高里…なんだったかな?李斎?」
「要です!高里要様でございます!」
「…『高里』ね、『高里要』…『高里』『高里』…………………ああ、あった」

 陽子の言葉に「えっ!?」と全員の目が彼女の指差す場所に集まるが、もちろん何が書いてあるかは分からない。

「延台輔、住宅地図の方取って下さい」
「おう!」
「えーと、○丁目×番地は…と………………ああ、ここだ」
「っ!?」
「ここが今の泰麒の住所です」
「じゅ、じゅうしょ…」
「そう、ここに住んでるはずだから、迎えに行って来て下さい。地図の見方分かりますか?この方角が北で、このマークが鉄道。駅、信号、大通りだ。ちなみにこの『文』のマークが学校で、こっちが泰麒の通ってる学校だな」
「「「…………………」」」
「いいか?説明するからよく見ておけよ?この学校から南東の方角に、この道をこう行ってこう行って、ここで曲がってこの奥をこうだ。ああ、お前達は転変して行けば空を翔れるから、上からならこの地図そのままに見えるし迷うことはあるまい。では、よろしく頼む。ああ、飛行機と電線には気をつけてな?間違っても感電死してくれるなよ?」
「…は、はい」
「そうだ。このマークは病院だから、そこには近づかないこと。血臭や屍臭で倒れては元も子も無いからな」

 展開に着いて行けず、まだ少し呆然としているらしい麒麟達を狐琴斎から送り出し、陽子は李斎を振り返ってにっこりと微笑んだ。

「李斎、もうすぐ泰麒に会えるぞ♪」

 麒麟でも慶の民ですら無い李斎ではあるけれど、今はっきりと陽子に輝く王気が見えた…気がした。






「…ところで、この『がくせいめいぼ』とやらは、返してこずとも良いのかえ?」

「あ゛……」



 
おわり

    またしても『黄昏の岸 暁の天』のパロディです(笑)
    いやあ、何でつい最近まであちらにいたはずの『胎果』である
    陽子がいて、こーいう展開にならなかったのかが不思議で
    不思議で…つい書いちゃいました(笑)
    こーなっても可笑しくないと思うんですがね(苦笑)