行方不明の戴国の麒麟、泰麒を探すため、十二国の内七国が手を取り合うことになった。
その中の慶・雁・漣・範の四国が泰麒の故郷、蓬莱を探すことで合意した。
とは言っても、蓬莱は広く…四頭の麒麟だけでは手に余る、そこで廉麟の提案により使令が使えないかという話になった。
「使令は麒麟の気配を知っているでしょう?どんなに遠くにいても、私達の気配を感じ取って戻って来ます。ということは、使令ならほかの麒麟の気配も見えるのではないかしら。ひょっとしたら、当の私たちよりも」
そうか、と口に出したのは延麒だったが、感心したのはその場に集まった麒麟達の影に遁甲していた指令達だった。
『はあ〜そう言われてみればそうかもな〜』
『自分トコの台輔以外追っかけることなんてなかったからなあ』
『考えたことも無かったよな』
『だけどよ、やろーと思えばやれるんだろ?』
『そりゃ…やれるんじゃねーか?』
そうしていると、主人より声がかかった。
「どうだ」
使令達は主人の影の中で顔を見合わせ、頷き合うと一人が言った。
「是」
その答えに、少し場の和むような気配が彼等にも伝わる。
「じゃあ、これはどうだ。妖魔なら?」
続いた延麒の言葉に、使令達は目を丸くした。
『おいおい聞いたか!?』
『正気かい、うちの台輔は!?』
『妖魔を呼び集めろって?』
『大物呼んだら、それこそ国が傾くぜ』
『蓬莱の人間食べ放題!参加費無料!…そりゃ集まるさ』
『おっとろしーこと言うなよ。それよりオレ等、戴国の台輔探しに行くんだろ?いーのかよ妖魔連れてって』
『だよな〜。使令でもねえ妖魔が行ったら、人間食う前に麒麟様に群がるぜ?』
『麒麟は美味いそーだからな〜…食ったことねーけど』
うんうんと相槌がそこかしこで入る。
一方返事が無いので、延麒が言葉の内容を砕いて話した。
「お前たちは同族を召集できるだろう。無論、有害な妖魔を呼び集めるわけにはいかないかもしれないが、さほどに害のない小物なら―――どうだ?」
その言葉に使令達は、ああ、と頷いた。
『なるほどね〜、大物連れてくわけじゃないんだ』
『ははは!流石の台輔もそこまでバカじゃ無かったか!』
『質より量作戦ってわけか…ま、効率的だわな、その方が』
『うちの台輔もたまには頭使うんじゃん』
『しっかし、五百年使令やってっけどよ、初めてのことってあるもんだな〜』
『だよな〜、退屈しなくていいけどな』
『ま、そりゃそーだ』
『よーし、じゃ、出来るってことでいいなぁ?』
延麒の使令が闇の中に確認の問いを投げると、四方から承認の返事が返って来た。
『おし、じゃ出来るってことで…』
「是」
少し時間のかかった答えに、延麒は嬉しそうに声を上げた。
「いいぞ―――これで、だいぶ頭数を増やせる」
主人の言葉に、闇の中でひっそりと笑い声が響く。
『はは〜ん♪小物集める位なら造作もねーな♪』
『そ!何たってオレ等、使令歴五百年〜♪』
『言ってくれるじゃんかよ。使令歴三百年のオレ等だって訳もねーさ』
『オレ等三十年ちょっとだけど…ま、問題ねーよな?』
『おう。出来る出来る!あちらさん等と数の競争は無理だけどな』
『なんとかなるだろ、張り切ってる人達もいるしよ』
『そーだな〜♪』
使令達がのほほんと話し合っている頃、上でも氾麟がぱちんと手を合わせた。
「だったら、範に鴻溶鏡があるわ」
「――鴻溶鏡?」
「ええ。鴻溶鏡は映った者を裂くことができるの。遁甲できる生き物にしか使えないけど、使令や妖魔ならこれで裂いて数を増やせるわ―――理屈の上では無限に。裂かれた分だけ能力も薄まっちゃうけど、人探しに使うのだったら、さほど能力は必要ないでしょう?」
明るい声が上がるのを、使令達は呆然と聞いた。
『……………おいおいおいおいおい…』
『聞いたかよ、今の話…』
『聞いちまったよ、どーするよ…』
『どーするもこーするも…姫様がああ言ってるってことはよ…』
『オレ達裂かれちゃうんじゃん?』
『それも無限に…』
闇の中がしーんと静まり返る。
『…っか〜〜〜っ!マジかい!?』
『マジだろよ。見ろよ、あの様子』
台輔達は、少〜しだけ見えて来た光明に表情も明るく話し合っている。
『…やべ。実は痛いの苦手なんだよ…』
『まあな〜…だけど、使うのは宝重だろ?痛くないかもとか期待すんのはバカ?』
『ん〜どーだろ…。だけどそーいう、遁甲できる者を裂いて能力減らすってのは、大体妖魔向けの対策機具じゃねえ?』
『あ〜…じゃ、ダメだ。痛いわ。しかもすっごく痛いとみた!』
『姫様そこまで考えてねーよな〜…』
『考えてたら、あんなことここで言わねーだろ…』
『そーだよな〜…』
ふう…と溜め息をつく。
仕方が無い…所詮自分達は、台輔である麒麟に仕える身。上司の下した決断には逆らえない。
『それよりさ〜…』
使令の一人が、己の使える台輔を呆っと見ながら呟いた。
『…裂いたらさ、その後ちゃんと、元に戻してくれんのかなあ〜…』
闇の中、そこに潜む忠実なる使令達は、揃って大きな溜め息をついた。
『………たーぶん、無理だと思うぜえ〜?』
『だよな〜…』
使令に下ったことにより『理性』を得た妖魔達は、これも運命と、初めて台輔に名を告げたあの日と同じ、ちょっぴり切ない気分で受け入れた。
そんな彼等の誠実なる想いを、当の麒麟達は知る由も無い…。
おわり
|