お台場小学校一の美少女との呼び名も高い、八神ヒカリ、11歳。



 昨年までは、その座を一学年上の太刀川ミミと(勝手に周囲が)争っていたが、現在は誰憚る事無く学校一と(水面下で)なっている。

 ある一部では『不思議少女』の名も欲しいままにしているヒカリだが、学校生活の中では人当たりも良く、友達も多い上に兄妹と親しい先輩に人気者が多かったために敵も少ない。
 しかし、意外と彼女には男の子の友人は少なかった。
 何故なら…その昔、ちょっとおませな少年が、ヒカリの愛らしさにトチ狂い、子供らしい考えの無さで猛烈アタックで迫ったために、脅えたヒカリを背中に庇ってその兄が高らかに宣言したことがある。

「ヒカリの隣が欲しいなら、このオレの屍を超えて行けっ!!」

 …と。
 言われた方は、強烈な拳をお見舞いされていたために気絶していてその宣言は聞いていないが、その後、ヒカリの半径三メートルに入った所で悉く完膚なきまでに打ちのめされ続けことになった。
 年上だろうが年下だろうが、一対多数だろうがお構い無しの鉄壁のガード。
 普段は明るく優しい頼りになるお兄さんbPが、ある一定の条件を越えた時のみ、鬼として立ちはだかった。

 それを間近で観続けることになった『隠れヒカリちゃんFAN』達は、己の想いを恐怖と共に固く封じたという…。
 それほどまでに、太一は容赦が無かったのである。

 当時を振り返り、太一は「オレも若かったな〜」と豪快に笑ったが、空・ヤマト・光子郎はふいっと視線を逸らし、頑なに口を閉ざすが、現在も太一の主張が変わっていないことだけは知っている。

 そして今、ヒカリが親しいと言える男の子といえば、同級生の『本宮大輔』と『高石タケル』、そして下級生の『火田伊織』位なもので、中でも本宮大輔はヒカリに対する好意を隠そうともしていないが、彼は何故か兄の監視網をスルーしている。
 それは何故か…。

「…安全牌だと思われてるんじゃない?」

 とのコメントは、辛口でお馴染みのタケルである。
 もちろん本人が居ない所でのコメントだが、現在教室にてタケルとヒカリが二人っきりというシチュエーションだけでも、彼が知ったら噴火しそうだ。

「タケル君もだけどね」
「…その言い方、ボクがものすごいへたれみたいに聞こえて嫌だなぁ」
「あら。タケル君、お兄ちゃんの屍を越えて来れるの?」

 苦笑して言うタケルに、ヒカリがあっさり言い返す。

「…………無理です」
「でしょ?」

 ふふっ、と笑う姿は文句無しに可愛いのだが、いかんせん『幼馴染』という立場では、お互いのことを知りすぎている。

「でもさ、本当に太一さんの屍を越えて来ちゃったりしたらさ」
「当然。お兄ちゃんを屍にするよーな人は願い下げね!」
「…だよね」

 どちらにしても、誰も彼女に近づける者はいないらしい…今の所は。

「…けど、ヒカリちゃんの隣をゲットした後の『太一さんをお兄さんと呼べる権利』は…魅力的だよね〜…て、まさか」

 タケルが何かに気づき、頬を引き攣らせながらヒカリを見る。
 それに常と変わらぬ平静さでにっこりと笑顔を浮かべ…。

「だから、『安全牌』」
「…………なるほど」

 乾いた笑いが漏れる。
 大輔のヒカリに対する好意は本物だろう。
 しかし、それよりも『太一が兄であるヒカリへの憧れ』の方が強いことを、この兄妹は当に看過していたらしい。
 この年で、人間観察をさせたらこの兄妹の右に出る者など居ないだろう…。

「お兄ちゃんを『兄』と呼べるのは、世界中で私だけ」

 駄目押しのにっこり。
 タケルはぐったりと机に懐く。


 誰に対する誰の『鉄壁のガード』かは…深く触れぬが華だろう…。




 
おわり