『お母さんは私のこと、好きじゃないのよ!』



 ………なーんて、泣いていたお嬢さんがいました。


 彼女とお母さんは、まるで一方通行の両思いで、長い間、お互い大切に思いながらもすれ違いの日々を送っていました。
 けれど、その捩れて複雑に絡み合っていた糸が解れ、お互いが思いやる心を正しく理解し合えた、あの夏の日から…本当の親子になったのです。





 太一のケータイに一通のメールが届いた。
 中身を見ようとケータイを手に取った時を同じくして、隣にいたヤマトと光子郎のケータイも着信を知らせるメロディが鳴る。
 同じように手に取り、開く前に三人の視線が交差した。

「「「……………」」」

 沈黙する三人とは対象に、その少し離れた場所で、ヒカリと空、そして一時帰国して来たミミが楽しそうに笑っている。

 今日は、ミミの帰国に合わせ、久しぶりに仲間達で集って出かけている。
 塾に行っている丈と母親の資料作りを手伝わされているタケルは後参加で、この後はヤマトの家に雪崩れ込んで全員お泊まりの予定だ。

 年頃の男女が保護者も居ないような男の家に行き、あまつさえ泊まる等の行為は、世間様で言えばあまり褒められた物では無いが、彼等の場合は、売るほどの信用と担保に出来そうなほどの信頼、そして、溢れんばかり甲斐性のおかげで反対されたことは未だかつて無く、彼等が『つるむ』ようになってから数十回と行われてきたこの『お泊まり会』も、恙無く過ぎてきた。

 が、いつ頃から届くようなった、一通のメール。

 きっと今頃、丈の所にも同じメールが届いていることだろう…。
 太一達はため息一つついてからメールを開いた。


『信じてるからね!よろしく!』


 たったそれだけの、恒例となってしまった言葉。
 三秒とかからず読み終わり、やっぱりと苦笑しつつ視線を投げる。
 明るく、いつもより若干子供っぽい笑顔を振り撒く少女に…。

 彼女達の呼ぶ声に手を上げて応え、ケータイを閉まって笑い合う。

 誰が誰を好きじゃないって?
 どっちかって言えば、絶対『過保護』の方だろう?

 送られて来たメールの差出人は、『武之内淑子』
 毎度送ってくる方が律儀なのか、それに返す方がそうなのか…。

 仕舞う前に三人が出した返信の言葉も、いつだって同じもの。


『心得ております』





 …実は、本人だけに知られずにやるそのやり取りを、双方が密かに気に入っているだけなのかもしれない。




 
おわり