「…『雌雄』、という言葉があります」

「「は?」」


 静かに響いた光子郎の言葉に、今まさにとっくみあいに入ろうと互いの胸倉を掴んだ太一とヤマトが止まった。

 普通なら、自分に投げかけられた訳でも無いそんな言葉で止まるような状態では無い。
 しかし、様々な危険を掻い潜って来た彼等の本能が告げたのだ。

 今、光子郎の言葉を無視してはいけない…と。

「えーと…光子郎?」
「『雌雄を決する』等の使い方をされる、主に勝敗を決める、『優劣』『勝ち負け』をはっきりさせるための言葉です」
「そ、そうだな…うん」
「今の太一さんとヤマトさんにぴったりの言葉ですね」
「そ、そうか…?」

 離せないまま掴んでいる手もそのままに、二人は引き攣りつつ光子郎に向かい合う。
 空気が重い…というか、痛い。
 ケンカに入ろうとしていたのなら、そんな雰囲気にになっていても仕方ないとは思うが、本人達には既に戦意は無い。
 この圧迫する空気は、ついさっきまでそれを必死に止めようとし、そして放棄したはずのケンカ他人から発せられていた。

 ヤバイ。

 そんな、複雑な過程の中、先ほどまで険悪だった二人はアイコンタクトでこの場をどう切り抜けるかを相談していた…が、結論が出る前に光子郎が重々しいため息と共に言葉を吐き出した。

「…しかし、漢字だけを見れば『オス』と『メス』。そう、まるで上か下かを決めるかのような言葉」

「「……………は?」」

「太一さんが上か。ヤマトさんが下か。実に興味深い決着ですね。遠慮はいりません。さあ、ここではっきりお決めになって下さい。上か下かを」

 きらりと光った知性の紋章に、二人は実も世も無く崩折れる。

「ごめんなさい」
「オレ達が悪かったです」

「分かって下さればいいんです」


 光子郎の一人勝ち。




 
おわり