「流石のヤマトも、うなぎは捌いたりしないでしょ?」

 夏休み直前、クーラーすらない教室で、空がふと思いついたようにそう言った。

「当たり前だ。やろうと思えばやれないことは無いだろうが、どっちかってーと、出来上がったうなぎよりまるごと一匹買う方が難しいだろ」
「あ〜…そうか。まるごと一匹って…店であんま見たことねーな、そーいや」

 憮然と言い返したヤマトに、太一がぼーと相槌を打つ。
 頭の中には、ほかほかご飯の上に乗った特大うなぎの蒲焼が浮かんでいることだろう。

「ヤマトん家はどっかうなぎ屋に注文すんのか?それともスーパー?てか、親父さん帰って来んの?」
「土用の丑の日は死ぬ気で帰って来るな。最悪、飯時だけでも帰って来るぞ。特製秘伝のたれで有名なうなぎ屋にうなぎだけ毎年予約入れてるからな」
「へぇ〜珍しく張り込んでるのね」
「うなぎだけはな。けど米はうちで炊くぞ。後、うなぎを炙るくらいだ」

 炙ることはするのか…やはりヤマト、と二人は思った。

「……そーいや、ヤマトには貸しがあったな」
「は?」

 ぼそりと呟いた太一に、ヤマトは不審そうな瞳を向ける。

「米は磨いどいてやる。…から、うちでやれ」
「は?」
「うちの分の予約もヨロシクな」

 そーくるか…とヤマトは飄々としている太一を見て苦笑う。


 太一も特製秘伝のたれのうなぎを食べてみたくなったらしい…。





 土用の丑の日…石田裕明は、フジテレビの社屋から直接八神家に訪れた。





 
おわり