体育祭の応援歌で、替え歌を作ることはどこの学校でもよくあることなのではないだろうか。
 その元歌を探している中で、彼等は『関白宣言』という歌に出会った。






 オレより先に 寝てはいけない♪

 オレより遅く 起きてもいけない♪





「「「………………………」」」


「…何気無く聞いてた歌ですけど、結構すごい歌詞ですよね」
「こんなトコ、今じゃないだろ」
「あら、うちの従姉のお姉ちゃんは実践してるわよ」

「「「え!?」」」

 どっちかというと『強い』女性陣の知り合いが多い太一・ヤマト・光子郎は何となく違和感をもって聴いていた歌に、思わぬ所から賛同の声が上がって驚いた。

「て、この間結婚したっていう空の従姉が…!?」
「そうよ。お姉ちゃん家、『亭主関白』っぽくしてるのよ」

「「「……『ぽく』…?」」」

 微妙な言い回しを、スルーすることなく見事に引っ掛けた面々ににやりと笑う。

「ほら、結婚すると男は変わるってよく言うじゃない?お姉ちゃんの旦那さんも例に漏れずそうだったらしくて、いばりんぼになっちゃったらしいのよ」
「そうだったら…離婚とかならないのか?」

 喧嘩の末に離婚した両親を持つヤマトが、空の従姉ならやられっぱなしで耐えるなんて像が思いつかずに控えめに進言すれば…。

「だって、『オレより先に寝るな・早く起きろ』って、お姉ちゃんにとっては都合がいいし」
「都合?」
「そ。旦那さんより先に起きてすることって、なんだと思う?」
「えーと…ご飯の支度、でしょうか?」

 光子郎が自分の母を思い出して上げれば、空はちっちっと指を振る。
 これで光子郎の家で一番の早起きは母だと分かった。
 ちなみに、八神家の一番の早起きは太一で、石田家は父親か不規則なため測定不能である。

「妻が夫よりも早く起きてすること…それは、お化粧よ」

 勝ち誇った笑みを浮かべて告げた空に、残りの男達はぽかん…とそれを見上げる。

「完ぺきにお化粧をした状態、けれどそうと気づかせないナチュラルメイクで旦那を起こし、夜は旦那が寝てからメイクを落として就寝…あの人、まだお姉ちゃんのスッピン姿見たこと無いんじゃないかしら」

 くすくすと笑う少女に、少し背筋が寒くなった気がする男衆。

「自分の言うとおりにしていると思っている旦那は、実は妻の掌の上で踊らされているだけなのよ。もう、親類縁者大笑いv」
「「「……………」」」

 朗らかに笑いながらもオーラが怖い、愛情の紋章保持者。

「自分が『男』だってだけで威張り腐る人間にはお仕置きが必要よねv今後お姉ちゃんの手によって矯正されるならよし。そうでない場合は…」
「「「ば、場合は…?」」」
「あらやだ、そんなの神聖な学び舎の中では言えないわv」

 武之内一族が…怖い。
 誰だ、こんな女が強い家系の方の怒りを買った馬鹿な男は!


 ふふふ…と哂う空を視界に入れないよう心がけつつ、三人は心の中で手を合わせておいた。



 成仏しろよ、見知らぬ男。
 お前が悪い。





 
おわり