「やっべーっっ」



 学生の姿は既にまばら、どつらかというと出勤途中、もしくは散歩中のお年寄りの姿が目立ち始めたこの時間…八神太一は珍しくも全力疾走で学校に向かっていた。






 今朝は両親に加え妹まで不在で、それに油断したしという訳では無かったが、いつものロードワークの後…ソファでちょっと休憩と思って目を閉じたのが運の尽き…気がついたら40分経っていたことは変えようの無い事実である。

 つまり、太一は今遅刻するかどうかの瀬戸際だった。

「おう、八神〜珍しいな〜」
「もう無理だって。一緒に遅刻しよーぜえ〜」

 既に諦めててろてろと歩いている顔見知り達が目を丸くして太一に声をかけてくるが、彼等の後頭部をげしっとまんべんなく軽く殴って太一はその横を駆け抜けた。
 そうすると後を追って一緒に走って来る者もいるが…それについてはあまり意識はしていない。

「オレは諦めるのがヤなんだよっ」

 そんな太一達の目標10数mの所で、当番の先生が無情にも門を閉めだす。

「あ゛〜っ!センセイっちょっと待ったあっっ!」
「待たん。大人しくお縄につけ!」

 何故か楽しげに門を閉める教師。
 それを見て同じように走っていた同輩達も速度をゆるめ、だめか〜等と口々に言いながら足を止めた…が。

「そんな急には止まれないっ、てねっ!」

「なっ!?」
「わっ」
「おおっっ!!」

 完全に閉じてしまった門にすがって息を調える者達の中、助走そのままにたんっと地を蹴り、門の上に片手をついてひょいっと身軽に飛び越える。



「「「わあぁぁぁ〜っっ!!!」」」



 着地にはポーズすら決めず、そのままさりげなく立ち去ろうとした太一の頭上で歓声が上がった。
 驚いて見上げれば、何故か校舎の窓に鈴なりになっている生徒達。


「……………は?」


 思わず呆然となった太一の肩に、ぽんっと無骨な手が置かれた。

「…八神。生徒手帳」
「………はい」

 一瞬の油断が命取り。
 分かっていたはずなのにな〜と苦笑しつつ鞄を探る。

 それを差し出して記入されている間、太一はとりあえず…歓声に手を振って応えておいた。






 
おわり