「…なんだよ、ヤマト。特大の溜め息ついて」

 傍にいるこっちまで憂鬱になりそうな溜め息に、太一は密かに眉を顰めた。

「……大したことじゃねーよ…」
「そうか?」
「ああ…ちょっと、上手くいかないだけだ…」
「ふ〜ん。よし、じゃあオレがヤマトの幸せを祈ってやろう!」
「は?」

 訳の分からないといった顔をするヤマトを放っておいて、太一は両手を合わせる。

「手と手の皺を合わせてし〜あ〜わ〜せ〜…」
「『しわあわせ』だろ、そりゃ!」
「細かいこと気にすんなよ」
「細かくねーよ!」

 噛み付くヤマトに、太一は冷ややかな視線を流す。
 それを見て…ヤマトの中で悪い予感が急激に膨れ上がった。

「………ヤマト」
「な、なんだよ」
「お前…今自分が一番不幸だとか思ってないか?」
「は!?え、や、そんなことは…っ」
「自分が一番可哀相だとか思ってないか?」
「聞けよ…っ」
「なんだよ、親父さんがリストラでもされて借金取りに追われてるのか?」
「だからっ」
「住む家追われて今日の寝床や食料にも困ってるのか?」
「あのなあっ」
「相談出来る友達もいない。助けてくれる親戚もいない。話を聞いてくれる役所も無い。このままのたれ死ぬか、体を売るか、内臓売るかってとこまで来てるとでも言うのか?」
「言わねぇよっっ!!」

「じゃあ、何でそんな鬱陶しい溜め息を盛大に吐く必要があんだよ。ここで」

「………………………」

 どこまでも冷ややかな太一の態度と最後の言葉に、ヤマトはずーんと沈み込む。
 その様子に、太一が重々しく溜め息をついた。

「人に言えねぇ悩みなら『気づいて光線』出すんじゃねーよ」
「……………………………ごめんなさい」
「で?何な訳?」
「いや、その、実は…………」

 やっとぽつぽつと訳を話し出したヤマトと、冷めたポーズながらもちゃんと聞いてあげている太一の姿に、それを対岸の火事とばかりに眺めていた二人はこっそり呟いた。



「…変わんないわねぇ〜あいつら」
「ヤマトさんに必要なのは『幸せ』では無く、『学習能力』ですよね」
「真理だわ」





 
おわり