言うなれば、ツーとカー。





 言わなくても分かる。
 アイコンタクトなんて朝飯前。
 背中を預けあって、信頼しあって…そんな憧れの先輩達の姿は、少し羨ましくも…ある。









「太一先輩、ヤマト先輩のことで『許せない』ってことあります?」

 何となく口に出た言葉には、思いの他あっさりと答えが返って来たことに面食らう。

「ある」

「あ、あるんですか?」
「ある。許せん。あれだけはどーしても」
「え?え?」
「な、何かって…聞いていいですか…?」

 恐々と、けれど興味には勝てなかった後輩の言葉に、太一はしかめっ面で重々しく呟いた。


「…ジーパン、裾直ししたことがねーんだよ…あいつ」


「「「…は?」」」

「直さなくていーんだよ、あいつ!足長いから!既製品そのまま!お直しいらず!時と場合によっちゃ『…ちょっと短いか?』なんて言いやがる!流石にその時ゃ…」

 ごくりと見守る後輩達の中、太一は物騒な光を瞳に宿らせて厳かに言い放つ。

「…殺意が芽生えたね…」

 あ…あはは…はは…。

「ちょっと外国の血が流れてるからって足が長いこと自慢にしやがって!サイズが無いだ?上等だ!パンツ一丁でライブでもなんでもやりゃいいんだーっ!」

 がおーと吼える世にも珍しいカリスマ太一の姿に、後輩達は為す術も無く、脳裏に二人の姿を思い浮かべるが…スタイルの違い等思い当たらない。
 が、共に買い物に行ったりすることのあるだろう太一には思うところがあったのだろう…。
 そこに、毎度タイミング悪く扉が開く。

「太一?何喚いてるんだ?」


「天誅―――っ!!!」
「うわあっ!?て、はあ!?おい、何すんだって、太一っ!?」

 入って来た者の姿を見とめた途端、太一は鮮やかな跳躍から跳び蹴りをかますが、間一髪で避けられた。

「うるさいっ!黙って倒れろ木偶の棒っ!!」
「何なんだいきなりっ!?
「いきなりもこきざみあるかっ!とにかく一発殴らせろーっ!」
「冗談じゃないっ!訳も分からず殴られてたまるかあっ!!」

 怒鳴りあいながら、二人は教室内で見事な組み手を繰り広げる。
 そんな状況に、場違いながらも「やっぱりツーカーだな〜」等と感心していると、いつの間にか来ていたらしい空と光子郎がくすくすと笑っているのに気づいた。

「えーと、止めなくていいんスか?」
「そんなことしなくても、その内飽きたら止めるわよ」
「それか、ヤマトさんが諦めて一発殴られてくれるかですね」

 楽しそうな二人は、突然の太一の態度が理不尽だったとは思っていないらしい…あの珍しい怒髪天太一には、理由があるのだろうか…?
 不思議そうに顔を見合わせる後輩達に、物知り顔の二人は一層笑みを深くする。

「先週あった身体測定でね、太一とヤマトの身長差が五センチに広がってたんですって」
「ここ数年、ずっと三センチをキープしていたらしいのですが、今年はちょっと開いてしまったそうなので…」

 ずっと不機嫌なんですよと教えてくれた二人は、それが面白いのか楽しいのか、肩を震わせて笑っている。
 未だ飽きる様子の無い二人はと言えば…。

「太一っ!頭狙うなっ頭はっっ」
「黙れ、縮めえーっっ!!」
「縮むか阿呆っ!」

 場数を踏んでいる二人の攻防はとにかく激しいが、言っていることは丸っきり子供の喧嘩。
 けれど陰惨な雰囲気は欠片も無くて、見ていると楽しい気分になってしまうのは何故だろう。

「…太一先輩も、身長なんて気にするんスねぇ…」

 と、彼に心酔する少年は、何処か嬉しそうに微笑んだ。





 
おわり