武之内家の座敷で、正座した空と向かい合わせに、何故か太一とヤマトも同じく正座で畏まっていた。




 パチン、と涼やかな音を立てて枝が切り落とされる。
 枝の向きが整えられ、葉が、花が、実が、バランス良く花器の中に鮮やかな世界を作り上げた。
 そこには、私語すらも憚られる雅でいて凛とした空気が支配していた。

「…あら、綺麗に生けられたわね」
「お母さん」

 すっと開いた襖から、空の母である淑子が顔を出した。
 これから出かけるらしく、粋な着物を着こなし、髪も綺麗に結い上げている。

「太一君、ヤマト君もいらっしゃい」
「「お邪魔してます」」

 にっこり微笑まれ、二人は慌てて頭を下げる。
 そんな彼等を楽しげに見つめ、その横にすっと座った。

 生け花とは、正面から水平に見るのが正しい作法である。

 故に、立った形で見るロビー等にある花は高い台の上に飾ってあり、座敷等の座る場所では床の間等低い位置に飾る。
 それに従い、淑子も娘の活けた花を正座で正面から見た。

「ん〜、全体的にはいいんだけど、この辺りのバランスが少しずれているかしら。そうね、ここにその花を挿してごらんなさい。そうそう、どう?よくなったでしょう?」
「…うん」
「腕を上げたわねぇ、空。お母さん嬉しい。それじゃ、お母さんこれから出かけるから。太一君、ヤマト君、ゆっくりしていってちょうだいね♪」
「「はい」」
「空、戸締りよろしくね?」
「うん。行ってらっしゃい」

 上機嫌に出て行く淑子に、娘と友人達はにっこり笑って見送った。

「「「……………」」」

 襖が閉まるのを確認し、三人の視線が中央の花器に集る。
 そして、重々しく太一とヤマトが頭を下げた。

「…すまん、空。オレにはよく分からん」
「右に同じく…」

 その言葉に、空はふっと溜め息をつき、身を固くしている二人から視線を外し、何処までも青く高い空が広がる窓を見上げた。


「……実は、あたしもなのよ…」


「「…………」」





 和の道は…遠く、険しい…。






 
おわり