静かな夜だった。




 誘拐された子供達は帰って来たが、全員が『暗黒の種』のコピーを植えつけられ、オリジナルを持っていた少年は罪悪感に沈み込んでいる。
 それを気にしてか、後輩達は何処かしら焦りの見える顔をしている。

 けれど、外から見ればはっきりと分かる。


 彼等が『仲間』になって来たことが…。


 カーテンの隙間からベランダに降り積もって行く雪を静かに見ながら、太一はほっと息を吐く。

 初めはどうなることかと思った。
 おかしなことになったとも思った。

 彼等の知らない所で、知られないようフォローに走った日もあった。
 年長者だけが集まって頭を抱えた日もあった。
 困っているのを知っていて、自分達だけで解決させるために、わざと放っておいたこともあった。

 それも、もうすぐ終わる。
 それが何となく分かる…終わりが近いから、少し、今までよりも見えるものが増えて来た。

 明けない夜が無いように。
 夜でも月が世界を照らし出すように。
 月が無くても、今日のように雪が光りを放つ夜のように。

 世界は暗くも辛くも無い。

 だから、あともう少しだぞ…と、誰にも知られずエールを送った。



 それにしても…

「やっぱ、寒いな…」

 何となく降り積もる雪を何となく見続けていたせいで、身体の芯が冷えて来ていることに気づき、太一はふとんに入ろうとベットに向かう。

 と、控えめなノックが部屋に小さく響いた。
 続いてひょっこりと、けれどいつもより遠慮がちに覗いた妹の顔。

 隠し切れない不安と、だが甘えきることに躊躇の見える、それでも必死に訴えてくる瞳に苦笑する。

 雪が降っているから。
 寒いから。
 空気が冷たすぎるから。

 色んな理由を付けて来たのだろう小さな妹。

 太一が笑って手招きすると、ヒカリの顔がぱっとほころび、先ほどまでの遠慮がちな仕草が嘘のように嬉しげに、太一の布団に潜り込んで来た。


 電気を消した部屋の中、窓の外の雪明りのせいだけで無く、少しだけ明るい夜だった。





 
おわり