よく晴れた、頬を撫でる風が気持ちの良い日のことだった。





 今日は屋上で弁当にしよう♪

 そう言ったのは誰だったか、もしかしたら、皆がそう思って、誰も口には出していなかったかもしれない。
 いい天気。
 暖かな風。
 こんな日に教室の中に篭っていられるほど内向的な面子は揃っていない。

 そんな彼等の様子に、自然と視線が集まりおしゃべりの的となる。
 だが、そういった外野の状況を小指の先ほども意識に置かないよう修行を積んだ彼等はもちろん意に介さず、そんな彼等に不躾な盗み見は檻の無い動物園のパンダのごとくなっていた。

「あv石田君よ、石田君vv」
「八神君も一緒だねv」
「いいな〜武之内さん…いつも二人と一緒よね〜」
「それを言うならあの後輩の子もでしょ?なんで一人だけ年下の子が混ざってるの?」

 一人が不本意そうに、バランスをとるならもう一人は女の子でしょ?というか、むしろ自分があそこに入りたい!といった感情を込めて叫ぶと、周りの者達が呆れたように彼女を見た。

「あんた知らないの!?小学校の時から仲良かったわよ!?」
「そうそう、あの泉君の入学式の時すごかったじゃない!」
「あれは語り草よね!」
「てか、泉君だって充分レベル高いじゃない」
「て言うか…小学校の時、泉君と同い年の女の子も一緒だったわよね…」
「え?八神君の妹さんじゃないの?それ」
「八神君の妹さんはもっと下でしょ!」
「そうそういたわ。確か…結構…てか、かなり可愛い子…」
「何それっ!?」
「誰よその女っっ!!」

 篝火に灯油を投げ込んだかのように一気に激高とた少女達だったが、すぐ傍に彼等がいることを思い出し、咄嗟に口を閉じる。
 が、彼等は彼女達には見向きもせずに楽し気に笑い合っていた。
 そのことにほっとしながらも、何処かに残念に思いつつ、少女達はさりげなく彼等が見える格好で座りなおす。

「……かっこいいな〜v」
「武之内さん含めて?」
「含めてv」
「そーねぇ…武之内さんなら、いっか、って感じするもんね…」
「男前だから、あの人も♪」
「やだ〜」

 しゃべりながら、全員の視線が彼等に向かう…。

「…何しゃべってるのかなぁ…」
「何だろ…でもいいじゃない、かっこいいんだからv」
「うんうんvかっこいいよね〜vv」

 乙女フィルターのかかったお嬢さん方には、ただ学校の昼休みに飯食ってるだけだろという突っ込みを入れてくれる者もいないため、夢見る瞳は止まらない。

 その頃、件の選ばれし子供達はと言うと…。

「…ヤマト、腕を上げたわね!」
「これは…今まで出会ったことの無い食感です!」
「ふふふ…そうだろう?俺自身初めて作ったものだからな」
「何だ?オリジナルの新作か?」
「いや、昨日の夕飯の使いまわし」
「「「…………」」」

 得意気に言ったヤマトを見つめる三つの視線の持ち主が持つ箸からぽろりとそれが落ちる。

「なんだよっ!いいだろ美味いんだからっ!」
「いや…まあいいけど…美味しいし…」
「ええ、ちょっと複雑なだけですよね」
「複雑?」
「けちんぼヤマト君はおかずの作り過ぎなんて滅多にしないじゃない」
「やりくり上手と言ってくれ」
「まあまあ。で、てことは、これはホントは…」
「おじさんの夕食になるはずだったものかと、そう思っただけです」
「うっ………その通りだ」

「「「やっぱり…」」」

 揃った答えに思わず噴出す。
 残り物でもけちんぼ根性でも、美味しい物は美味しい。
 それでいいさと陽気が笑う。

「原材料は豆腐ですか?」
「そ。元は豆腐に刻み葱と生姜と一緒に醤油ベースのたれをかけて煮込んだものだった」
「へ〜上手に作り直したわね〜♪」
「関係無いが、とうふは漢字で書かねぇ方がいいよな」
「何でだよ、太一?」
「だって豆が腐るって書くんだぞ?豆の煮汁だろ?」
「そうよね。腐った豆は納豆よね。どっちかと言うと」
「空さん。納豆は腐ってるわけではありません。発酵させているだけです」
「…何でそーいう話になるんだ…?」


 知らぬが仏。




 夢は夢のままがいい…かも?




 
おわり