両手をどんなに広げても、守れるものは限られていることに……やっと気づけた。









 出会いと別れ。

 すれ違う人。
 立ち止まる人。
 手を繋ぐ人。
 背中を預けられる人。

 笑うこと。
 泣くこと。
 怒ること。

 生きるという、こと。


 どれも人一人では出来ないこと。


 限りある時間の中で触れ合うことの出来た、奇跡のような人達。

 大切だから守りたかった。
 好きだから守りたかった。

 自分が傷ついても、彼等が傷つくのは嫌だった。

 両手を広げて。
 背中に隠して。
 自分を矢面にして…。

 だから気づかなかった…その後ろで、彼等の顔が苦しそうに歪んでいたことに…。

 傲慢だった自分。
 自分勝手だった。
 自己犠牲にそれと気づかず満足していた。

 けれど違う。
 それは違った。

 風を受け冷たくなっていた手に、ふと温もりが包む。

 『友』の手が、自分の手を力強く握っていた。
 『友』の手に、優しく包み込まれていた。

 両手を繋がれて、自分の手はもう何も抱えられない…けれど、彼等が繋いでいない方の手でそれを抱えてくれた。

 そうして彼等もまた、その手を別の誰かと繋ぎ合わせ、背中にも優しい温もりを感じ…自分独りでは出来ないことが、彼等と共にならば、容易く出来ることを知った。

 大丈夫。
 平気。

 言い聞かせていた言葉は…気づけば、強がりではない真実になっていた。

 手を繋ぐ。
 背中を預ける。

 息を、抜く。



「…………ありがとう」

 呟いた彼に、少女は静かに微笑み、少年は照れたように空を見上げた。






 そうして、いつの間にか…優しさが世界を包んでいた。






 
おわり