いつものようにパソコン教室へと向かっていた大輔は、中から聞こえてくる尊敬する先輩達の声にほわっと笑顔が浮かぶ。



 ちょっと嫌なことがあった時でも、何か落ち込んでいる気分でも、彼等の顔を見れば一瞬でそんなのは消し飛んでしまう。
 逸る気持ちのままに扉にかけた手が、中から聞こえた話の内容にぴくりと止まった。

「ヤマトはしつこいんだよな〜」
「そお?結構オレ様だと思うけど」

 太一と空の言葉に、聞こえていても意味が分からず、頭の中にハテナマークが飛び散って身体ごと時も止まった。

「まあ、オレも若かったけどさ。上になったり下になったり」
「あら、激しかったのね」
「激しいってか…うーん、そーなんかなぁ〜」
「だって外ででしょ?」

 上になったり?
 下になったり?
 激しい?
 外で?

 イッタイナンノハナシデスカ…?

「けど空だってそーだろ?」
「まあねぇ〜、こっちが泣いても喚いても無視だし…」
「ひどいよな〜」

 泣いても?
 喚いても?

 あの空さんが??

 てかまさかっ、太一先輩と空さん………ヤマトさんに…っ!?



「…………ううううっ、嘘だあああぁぁああああぁあっっっっ!!!!!」



 叫びと共に遠ざかる激しい足音。
 何だか声は泣き声な感じがするのは気のせいだろうか…。

「………………おい」

 残されたパソコン教室内で響いたのは、それまでは無かった第三者の声。

「なあに?ヤマト」
「どうしたんだ?声が暗いぞ?」

 ん?とにっこり微笑む太一と空に、ヤマトはがっくりと肩を落とした。
 突然本人を目の前に何を言い出すのかと思えば、続いて響いた後輩のこの世も終わりとばかりの慟哭に、まさかと思いつつもほぼ確信に近い言葉を搾り出す。

「…………お前等…わざとだろう…?」

「当然」
「何当たり前なこと言ってんのよ」

「……………」

 呆れたと言わんばかりの声音に、ヤマトはもう何を言うことも諦めた。
 オレはこういう運命なのだ…と。

 太一と上になったり下になったりしたのは、殴り合いの喧嘩を雪原の崖で転がり落ちた時のことだし、空が泣き喚いているのを無視…というか、放っておいたのは、空が紋章のことで悩んでいた時行きがかり上仕方なく…だったはず。
 多少の語弊があれど、事実だから性質が悪い。

 いや、それよりも…何の合図も無しにいきなりそんなことが出来るお前等は、一体何なんだと心の底から叫びたかった。

「……で、お前等は結局何がしたかったんだ?」
「後輩苛めv」
「可愛い子ほど苛めたいっていうじゃない♪」

 それを言うなら『好きな子ほど』だ…という言葉が音になることはなかった。
 計画が上手くいってご満悦の二人の姿に、ヤマトは遊ばれた哀れな後輩の姿を思い浮かべる。

 …諦めろ、大輔。
 お前は『友情のデジメンタル』保持者なんだ…。

 そんな『同病相哀れむ』といった風情の哀愁を含んだ想いが対象者に届くことは決してない。
 そしてその頃、彼の同情を一心にに受けている者はというと…。



「ぃ石田ヤマトぉぉおおっっ!!!」



 筋違いな復讐を誓っていた。




 
おわり