世の中には『すごい』と思う人は結構いる。 けど…あの人達ほど『すごい』のは…世界中探したって、そんなにいないだろう…。 「わっ!?」 「えっ!?」 驚きの声と共に響いたのは、カシャンカシャンーっという固い何かが床に落ちる音。 「あ、すみません。京さん…」 「ううん、こっちこそごめん伊織!」 選ばれし子供達の秘密基地と化しているパソコン教室から伊織が出ようとした所に、調度タイミングよく駆け込んで来た京がぶつかってしまったのだ。 「おいおい、大丈夫か〜?これからデジタルワールドに行くってのに、その前に怪我なんかすんなよ?」 「大丈夫よ!ちょっとぶつかっただけなんだから!ね、伊織?」 「はい」 大輔の揶揄するような口調に、京は明るく返し、伊織も大丈夫ですと向き合った。 その様子に笑って返し、大輔は弾みで自分の足元にまで転がって来た二人のデジヴァイスを拾い上げる。 「えーと、赤い方が京。緑のが伊織のだったよな?」 「うん、そう!サンキュー大輔♪」 「ありがとうございます。…さっきの音は、デジヴァイスが落ちた音だったんですね」 ほっとしたように手元に戻って来たデジヴァイスを見つめ、ふと伊織が首を傾げる。 「伊織?どうかしたか?」 「何?もしかして壊れちゃった?」 「いえ、そうではなくて…その…」 「なーによ!気になるから言っちゃってよ!」 言いよどむ伊織に京が不思議そうに先を促し、大輔も聞きたそうな顔をしたため、隠すようなことでも無いかと伊織はもう一度自分のデジヴァイスを見つめてから二人を見上げた。 「今、大輔さん緑のデジヴァイスを僕に。赤いデジヴァイスを京さんに渡しましたよね?」 「ああ、それがどー…あれ?反対だったか?」 「え!?あたしのは赤よ!?」 「いえ、ですからそうではなくて…僕等のデジヴァイスはこうして色の区別で誰のものか分かりますけど、太一さん達の物って、何か目印になるようなものがあったかな…と思いまして」 そう言ってまた自分のデジヴァイスに視線を落とす伊織に、大輔と京は眼を合わせた後揃って自分のデジヴァイスを見た。 確かに、明確な違いがある自分達のはいい…間違えようが無い。だが、太一達のは、少なくとも自分の目には何の違いも無い同じ物に見えた。 けれど、デジヴァイスは本人が持たなくては作動せず、ただの鉄(?)の塊に過ぎない。 もし誰かの物と間違えていて、いざという時に作動しない…なんて事態にならなかっただろうか…? ちょっと嫌な想像に心持ち顔色を悪くした三人の耳に、聞き慣れた楽しげな笑い声とたくさんの足音が聞こえて来た。 「太一センパーイっっ!!」 「わっ!?なんだなんだ大輔!?」 教室に入ろうとした太一の胸にどーんと飛び込んで来た後輩…その姿に一瞬驚くも、慣れか予測か、よろめいた太一の後ろからヤマト・光子郎とでしっかりと『人』という字、いや、『勿』という字を作って支えていた。 その様子を、途中で会ったヒカリとタケル、空と丈とが苦笑を浮かべて見守った。 「太一先輩、大丈夫ですか!?」 「おまえこそ大丈夫か?」 「オレはいつだって全力投球っスよ!」 「時と場合を選んで欲しいってのがこっちの本音だが…ホントにどーしたんだ?大輔」 噛み合っているようないないような会話を一通り交わし、大輔をくっつけたまま教室内に入って、彼本人では無く、中にいた京と伊織に最後の言葉を向ける。 「えーとですね…ちょっとデジヴァイスについて話してまして…」 「デジヴァイス?」 「はい、あの…」 全員教室内に入った所で扉を閉め、会話が外に漏れないようにする。 そして、思い思いの場所でくつろいだ体制になるのを待って、手短にさっき起こったアクシデントについて語った。 「…それで、皆さんはデジヴァイスを間違えたりしないのかな〜と…」 「あ〜なるほどね」 「そーいうこと…」 少し伺うように話した伊織達に、太一達は笑いながら互いの顔を見合わせた。 「大輔」 「はいっ」 「ほい、これ。好きに混ぜて、そこの机の上においてみな」 「えっ!?」 大輔の手の中にあっさりと渡された太一のデジヴァイスに目を瞬いている内に、次々と同じデジヴァイスを渡される。 「あのっ、でもっ」 「いいから」 にっと笑われて手を振られ、大輔はどこかおっかなびっくり手の中の合計五つのデジヴァイスを机に置いてシャッフルした。 それを見届けて、その持ち主である五人が立ち上がり側へ行く。 そして―――――何の躊躇も無く、すっとそれぞれがデジヴァイスを一つ取った。 「…っ」 「えっ!?」 「それ…っ!」 驚く三人、悪戯が成功した子供のように中学生組が笑う。 「どうしてか分かっちゃうのよね〜『これが自分のだ』ってv」 「そういえば、気にしてませんでしたけど、間違えたことってありませんよね」 「自分の物以外のは自信無いけど…何だろう…カン?」 「カン…かなぁ。それ以外に言えなくないか?」 人の物と比べるでも無く、交換しようともしない彼等を呆然と見つめる。 その前で太一が、自分のデジヴァイスをポーンと放り上げてぱしりと握り締めた。 「よし。じゃ、行くか?」 それだけを武器として…。 何事も無かったようにゲートを開ける作業に入った彼等に、ぽつりと大輔が零す。 「………すげぇ…」 それに無言でこくこくと頷いた二人と一緒に、どこか眩しそうに太一達を見つめた。 |
おわり |