「…………今日という今日は、聞かせてもらう」 眉間に皺を寄せ、ヤマトが決意を固めて重々しく口を開いた。 「…例えば…例えばだ。太一、お前とオレがすっごくハラを減らしていたとして、お前だけがパン一個買う金を持っていた。…その場合、お前はどうする?」 「仕方ねぇから、パンをヤマトと半分コする」 何言ってんだ、と即答した太一に、彼を囲むように座っていた一人、光子郎がすかさず口を挟んだ。 「では太一さん。僕が新しいパソコンソフトを手に入れたとします。その日ちょうど太一さんは、外で相手の必要なサッカーの練習がしたかった…けれど生憎家に居て掴まるのは僕だけだった…その場合は?」 「光子郎を家から引き吊り出して相手させる」 またしてもきっぱり言い切った太一に、次は苦虫を噛み潰したように作業していた丈が、思いつめたように太一を見つめた。 「なら、太一がどうしても一人で受けなきゃならないテストがあったとしよう。ふと周りを見回すと暇そうなヤマトと空君。君はどうする?」 「当然、ヤマトと空を巻き込んで勉強会だな!」 「…丈、ヤな例えを出すなよ…」 いっそ晴れやかに言い切った太一に、隣でヤマトが有り得そうな未来を思い描き、どっと脱力する。 「…じゃあ太一。皆で遊んでて、誰かが投げたボールか何かが他所様の家のガラスを割っちゃったとするじゃない?その時は?」 「その皆ってのは、今居るオレ等年長組か?それとも小学生合わせた年少組もか?」 「えーと、じゃあ、皆合わせて」 「全員で謝りに行くな」 模範解答が出た太一に、空が小首を傾げて続ける。 「あたし達だけだった場合は?」 「ヤマトに押し付けて逃げる」 「おいっ!」 「随分両極端な答えですね…」 「ヤマトはどーせ呆然と立ち尽くしてるからな。その隙ついて逃げるが勝ちだ。けど、ガキ共が一緒だったら小ずるい事は教えられねぇじゃん」 「………立派なんだか、ご立派なんだか…」 頭が痛くなりだした一同は、揃ってこめかみを指先で揉む仕草をした。 「…けど、つまり、こういう自分本位な答えが太一の中にちゃんとあるってことよね」 「そうだね。巻き込んで振り回す場合があるのも確かな事実だ」 「ええ、そういう太一さんも知っています。確かに知ってはいます」 「ああ。あーいう答えに、太一ならそーだろうなって納得は行くよな」 「……何なんだよ、お前等さっきから〜…」 ぶつぶつと呟きだした仲間達に太一が不審そうにかけた言葉…それで四人はぷっつんとぶち切れた。 「「「「何なんだじゃな(ね)――――い(です)っっっ!!!」」」」 突然爆発した彼等に目を白黒させる太一の反応…それがますます彼等の怒りを誘う。 「あんたどーでもいいことはこっちの意向無視して突っ走ることがあるくせしてこのザマは何!?このザマはっ!」 「そうです!人の迷惑顧みず引き吊り回す事だってあるくせにっ!何だってこういう事態の時はそうなんですかっ!?」 「え?迷惑だった?」 「言葉の文です、アヤっ!迷惑だなんて思ったことは一度だってありませんけどっ、そうかもしれないことだってあるかもしれないじゃないですかっ!」 「…何言ってっか、分かんねぇぞ、光子郎…」 「それはともかくっ!君がそうだということは知っていたし、今回のことだって過去のデータに照らし合わせればその通りかもしれないと不本意ながら思ってしまうこともあるけれど、物には限度ってものがあるんじゃないかと言っているんだよ!!」 「へ!?」 「ああ、分かってねぇな!分かってないのは知ってたけどな?だが本当に分かってないと腹が立つんだよ、太一っ!」 マシンガンの様に言い募る仲間達の中心にいる彼…太一の引き気味の身体には、丈がある程度手当てを施したとはいえ、見て分かるほどの打ち身・裂傷の痛々しい跡がそこら中に刻まれていた。 「「「「どーしてこういう、命に関わりそうな場面に限って、いつもいっつもいつでも捨て身なんだ(の)っ!?」」」」 肩で息する彼等に、太一は包帯の巻かれた手を顎にやってしみじみと呟く。 「……う〜ん、不思議だよなぁ〜……」 「「「「不思議だじゃなあ――――いっっっ!!!!!」」」」 火山大爆発の彼等に向かい、太一は「今日はお前等息ぴったりだなぁ〜」と朗らかに笑う。 危機的事態に逸早く反応し、その身を盾にして護ってくれる太一には、既にありがたいを通り越して気が気じゃ無くて仕方が無い。 散々言い聞かせているにもかかわらず、全く治らない太一の『病気(もはやそう呼んでいる)』に、彼等は日夜頭を痛めていた。 だからこそチームプレイや咄嗟の連携も格段にレベルが上がっているのだが…それとこれとは話が別。 彼等の願いは唯一つ『もう少しでいいから、自分の身体を大切にしてくれっ!』ということなのに…。 そんなに大それた願いでは無いはずなのだが、今だ叶うことの無いそれにため息は尽きない。 願い続けて早三年。 そしてまた、試練は続く…どこまでも。 そんな彼等をじっと黙って見守っていたパートナーデジモン達もまた、その純真なる愛すべき思考の元、各々が「もっと強くならなければ!」と握りこぶしで決意を新たにしているのだった。 |
おわり |