この世に生まれ、唯一つだけ望んだもの…。







 生まれた日のことは、もう覚えていない。

 ただ『自分』という意識が覚醒すると共に、寂しくて、哀しくて…自分が一人きりであることを思い知らされた。
 何故そうなのか分からなくて。
 そうでは無いはずだということだけが、根拠も無いのに確信できて。

 何故私は一人なの?
 どうして誰も傍にいないの?

 苦しくて苦しくて…初めの進化は悲しみと共に訪れた。

 見渡す限りの雪原…降り止まない雪。

 寒いのは体なのか、心なのか…それすらも分からずに、ただ自分を癒してくれるはずのものを求め続けた。


 どこにいるの?

 どこにいるの?

 どこにいるの……?


 根拠の無い哀愁と希望…ただ会いたい…その想いだけで、手足のあるものへと進化する。

 二度目の進化は、前を向いた心と希望の中で成し遂げた。

 ただ探して、探し歩いて…何を待っていたのか、求めていたのかも分からずに、広い世界の中をさ迷い歩いた。
 それしか出来なかったから…。

 それなのに、私が出会ったのは、求めていたものでは無かった。

 闇に囚われ、自分が何者なのかも分からなくなった。
 自分も、周りも、何一つ自信を持てるものが無かった。
 そして、心を許せるものも…。

 もう…諦めてしまっていた。

 何一つ分からずに、何一つ自信が持てず、どうしてそれを求め続けることが出来ただろう…。

 三度目の進化は…苦しみと憎悪を糧に訪れた。

 もうどうでもよかった。
 何もかもがどうでもよくて、くだらないものに見えていた。
 諦めて…いつ終わりが来ても、構わなかった。

 それなのに、自分で死を選ぶことだけは出来なかった。
 死にたいのに死ねなかった。
 だからこそ苦しくて、何故か分からないままイラついて…。

 終わりにしたい。
 終わらせたい。

 だってくだらない。
 くだらないのよ、何もかも。

 あいつに頭を下げる奴等も。
 機嫌を取ろうと心にも無いことを言う奴等も。
 互いに足を引っ張り合う奴等も…そして自分も。

 命令のまま、たくさんの他の命を奪っておきながら、たった一つの自分の命を奪えずに固執して。
 こんな汚い自分に、一体何の価値があるのかと自分で言いながら、それでも死ねずに生き延びて…。
 こんなにも終わりたいのに…!

 どうしようもないジレンマの中、全てに絶望しながら、それでも『未来』という生にしがみつく自分がいた。
 …まだ心の奥に、忘れ去るほど深くに…『私』がいた。

 暗闇に囚われた私。
 周りを見ることも出来ない私。

 憧れたのは光。

 闇の世界にすら届いた、一条の光。
 訳も無く憧れた。

 綺麗な光。
 あれは、あたたかいのだろうか…。
 私にも、あたたかいのだろうか…。

 そこへ行きたかった。
 行って…掴みたかった。

 光。
 あの光の場所へ。
 あの光の傍へ。
 あの光の元へ…。

 いつか…。





 どうしてあんなにも『光』に憧れたのか…やっと分かった。

 『光』はあなたの名前だったのね…。

 忘れていたの。
 だけど、忘れられなかったの。

 忘れられるはずなんて…ないことだった。
 だって、唯一つの希望だったから。

 あなたの名前が、それだけが唯一つ、生まれる前から私が持っていたもの。
 それだけが、私の真実。

 ヒカリ…あなたに会えて良かった。
 あなたに会うために、私は生きて来たの。
 生きて、来れたの…。




 あなたの傍に戻るために…。






 
おわり