「ガキ?」 「いや、劇」 突如持ち上がった話題に、十一人の子供達は複雑そうな不思議そうな表情で発言者の太一を見た。 「まあ、何でこんなことになったのかはよく分からねぇが、とりあえず、オレ達十二人で劇をすることになったらしい…演目も決まっている」 「…て、そう言われても…」 「はい、そーですかってやる気にはならないよ」 「まーな。けど、これはある筋からの強制的なもんだから仕方ねぇ」 「…便利な言い回しですね。それ…」 苦笑する仲間達に同じように返し、少しだけ気を取り直して手元の書類を見た。 そこに書いてあることにますます複雑そうになった太一に、仲間達の疑問も大きくなる。 「…太一さん?」 「ん?ああ…すまん。いや、なんか演目だけじゃなく、キャスティングも決まってるみたいでさ」 「そうなんですか?あ、もちろん太一先輩が主役ですよね♪」 「いや。オレはナレーションらしい」 「「「ええっ!?」」」 驚いて声を上げる一同。 『ある筋』からの指令なのに、太一が表舞台に立たないことが信じられないらしい…。 「お兄ちゃんがナレーションなんてどうして!?」 「じゃあ、主役は誰なんですか!?」 「えーと、ヤマトだ」 「「「はあ!?」」」 本人を含めて不審気な様子を隠しもしない。 「どーゆーこと!?このあたしじゃなくてヤマトさんが主役なんてっ!?」 「ミミちゃん…そういう問題でもないけど…でも、信じられないわよね」 「裏だ!絶対に何か裏があるに違いないっ!」 「断言するなぁ…丈…」 「ヤマトさん、今の内に逃げた方がよくないですか?」 「そーですよ!何か妖しい役をやらされるのかもしれませんよ!?」 「そーよ!なんたって『ある筋』からのものなんだしっ!」 口々にそう言われ、ヤマトの顔にも不安気な色が混じってくる。 それを見て、タケルが太一に話かけた。 「…ねぇ、太一さん?お兄ちゃんの役ってどんなのなの?」 「えーと、『王様』らしいぞ」 「あ、じゃあ、劇って童話なの?」 「ああ」 ほっと場が和やかになる。 童話ならば、そんなに心配することも無いだろう…ましてや『王様』ならば尚更だ。 「なーんだ。心配することなかったかな♪」 「ヤマトさんぴったりですよ、『王様』なんて♪」 「そうそう。金髪碧眼、バンドマンなんですから」 「…妙なの混ざってるぞ?」 「気のせいです」 なんとなく前向きになった彼等の中、太一だけが表情を崩さないままにヤマトを見つめていた。 「…じゃあ、ヤマト…やるのか?」 「あ?劇か?ああ、いいよ。やるよ」 「…本気か?」 「は?何だよ。オレが『王様』やるのが嫌なのか?」 「そういう…わけじゃないけど…」 珍しく歯切れの悪い太一に、ヤマトがイラつく。 「何だよ、もう決まってんだろ?やるさ、ちゃんと!」 「………そうか…」 ふう…と溜め息をついた太一に、あれ?といった感じで賢が聞いた。 「あの…そういえば、演目の方は何なんですか?」 びくり、と太一の肩が揺れる。 「あ、そっか。役名は聞いたけど、何やるかは聞いてないもんね」 「お兄ちゃん、何やるの?」 純真な瞳を向けてくる者達に、太一は重々しくタイトルを告げた。 「………『裸の王様』…」 「「「…………………」」」 一瞬時を止めた世界だが、乾いた笑いと共に再び生命が動き出す。 「…な、なーんだ。心配することなかったかなぁ〜」 「ヤマトさんぴっったりですよ、『王様』なんて!」 「そ、そうそう。何たって、金髪碧眼、バンドマンなんですから」 「お…おい、ちょっ…」 焦って反論すらままならないヤマトに、たたみかける者達がいた。 その顔には、物騒この上ない笑顔が張り付いている…。 「お兄ちゃんやるって言ったよね?」 「ご自分で言いましたよね?」 「すごいな〜ヤマト。王様なんて、めったに出来る役じゃないよ!」 「それに、経済的な劇よね!なんたって、衣装代がいらないんですもの!」 「お、お前らっ!グルか!?グルなんだな!?」 「え?何のこと?」 「さ〜、早く練習取り掛からなくちゃね〜♪」 「待てっ!待ってくれっ!」 早々に席を立った仲間達に縋るヤマトの肩をぽんっと叩いた者がいた。 「……太一…」 最後の希望…と救いを求める彼に、太一は憐憫あふるる瞳で告げた。 「…諦めろ。全部クリスマスが近いのが悪い」 「…………」 次の言葉の出てこないヤマトを一人残し、太一も部屋を出て行く。 クリスマスが過ぎれば、いいことあるさ…きっと…。 そんな、根拠の無い言葉を残して………合掌。 |
おわり |