「ヒカリ〜、悪いんだけど…」 「ヒカリは今いないわよ?」 カチャっと扉を開けて入って来た太一に答えたのは、お気に入りのクッションの上で寝そべっていたテイルモンだった。 「あれ?テイルモンだけか?」 「ヒカリは友達と約束があるって出かけたわ。直ぐ帰るって言ってたけど…急ぎの用事?」 そういうわけじゃないんだけど…と妹の机に向かい、綺麗に整頓されたペン立ての中からハサミを取った。 「オレのを学校に忘れて来ちまってさ、悪いけどヒカリが帰って来たらこれ借りたって伝えといてくれるか?」 「いいけど…何やってるの?」 「ん?見に来るか?」 「行く」 どうやら暇だったらしいテイルモンは、太一の誘いに即答し、彼の後について部屋を後にした。 そして向かったのは、もちろん太一の部屋だったのだが…。 「……何これ」 「ああ…悪ぃ、ちらかってんだ」 「そういうことじゃなくて、何この大量の紙??」 部屋の中にでんっ、ででんっと積んである色折り紙の山に、テイルモンは呆然と見入ってしまう。 それに苦笑し、太一はその中の一枚を手に取り、借りて来たハサミを入れる。 「これはな、こうして…こう切って六等分するんだ。んで、のり付けて輪っかを作り、それを繋げてっと…んでリースの出来上がり♪」 「……延々繋げるわけね?」 「……そーいうこと…」 実演してみせてくれたものからふいっと目を反らし、でんっと積んである紙を見て言えば、太一も遠くを見るような儚げな瞳で応えた。 「で、これを作ってどうするわけ?」 「ああ…もうすぐ文化祭なんだよ。それの飾りつけ。色々忙しくって中々クラスの手伝い出来なくてさ、これなら家でも出来るだろって回されたノルマ」 ははは…と太一には珍しい乾いた笑いが彼から漏れる。 確かに、ちょっと途方にくれる量だろう…。 「…手伝うわ」 「へ?だけど…」 「いいから。太一ちょっと、その紙の端、私に正面から見えるように両手で持ってて」 「…こうか?」 よく分からないなりに彼女の言う通りにすると、テイルモンは真剣な目で折り紙を見た。 「…六等分ね?」 「ああ」 太一が頷くとテイルモンの瞳がキランっと光り、一番内側のツメだけを重ねて振り上げた両手を、シャッという風切り音と共に振り下ろす。 「…おお〜っっ!!」 感嘆の声を上げる太一の手元から、彼が持っている二切れ以外の四枚がひらりひらりと床の上に舞った。 均等に切り取られた六枚の折り紙…職人(?)真っ青の神業だ。 「こんな感じでいい?」 「充分だぜ、テイルモン♪悪ぃけどしばらく手ぇ貸してくれ♪」 「だからそう言ってるでしょ。今の感触なら後四枚位重ねても一度に切れるわよ」 「了解♪おっし、いいぜ!」 シャッ! 「よし、次♪」 シャッ! 「もいっちょ♪」 シャッ! 「ほいよっ♪」 シャッ! 数えて整え、太一が持った所でテイルモンが切る…この単純な作業が何故か楽しい…。 後でバラバラにして繋げる作業があるため、床に散らばった紙切れを揃えることすらしない。 よくよく考えれば、太一の持つ手がほんの1cm内側にずれたら、又はテイルモンの目測が1cm横にずれたら…太一の手は大変なことになる所だが、お互いの信頼が厚いのか、その可能性に気づいていないのか、そんなことになるはずが無いと思っているのか、二人の作業は澱み無く、次々に折り紙を切断していく。 そうして、二人の間でこんもりと出来た山を二度ほどどかした頃、コンコンと扉がノックされて開かれた。 「お兄ちゃんテイルモンこっちにいる?」 「おう、いるぜ〜♪」 「あ、やっぱり…て、何してるの?」 大量の紙切れに驚くヒカリに、二人はあっさりと答えを返す。 「太一の手伝い」 「マジ助かってるぜ〜♪」 「ああ、そっか。もうすぐ文化祭だっけ?紙のリース?」 「そゆこと。ヒカリ、ちょっと見てろよ♪」 自分も作った経験から紙の正体が想像出来た妹に、太一は楽しそうに笑いかけた。 そして、きょとんとした彼女の前で、ずっと繰り返して来た作業を披露する。 「ええ〜?何、もう一回!」 「ほいよ♪」 シャッ! 「すごいっ、テイルモン!お兄ちゃん、あたしも持ちたいっ!」 「おう。五枚位なら一度に切れるらしーから、ヒカリも五枚折り紙数えて揃えとけ」 「うんっ♪」 太一の持つ紙がもう一度切られた時、ヒカリの準備が整った。 「テイルモンv次こっちね♪」 シャッ! 「テイルモン、こっち〜」 シャッ! 「はい、こっちv」 シャッ! 「次こっちな♪」 シャッ! 「…ちょっと休ませて…」 まず弱音を吐いたのはテイルモンだった。 目測を真剣に計っているだけに、休み無しは流石に辛かったらしい…。 「あはは♪悪ぃ悪ぃ。休んでてくれ」 「じゃあお兄ちゃん、これ繋げてく?」 「ああ、そうだな」 なし崩しに手伝うことになったヒカリを交え、何の疑問も無く次の過程へと進む。 ぐったりと体を投げ出したテイルモンの耳に、トン…トン…という規則正しい音が届く。 何だろうと見ると、床に置いた紙に水のりをつける時の音だったらしい。 紙の端一箇所にのりを付け、輪をくぐらせて繋げていく…。 「…それ、私やる」 「ん?こののりか?」 「そう」 「じゃ、お願いね」 「ええ」 手渡されたのりを両手で持ち、すっと差し出された紙の端にトンっとのりをつける。 太一の出した方にのりをつけると、入れ替わりにヒカリが出す…その繰り返しは先ほどと変わりはしないけれど、さっきよりは楽で、効率も良かった。 そして、トン…トン…というのりをつける一定のリズムを崩さず、三人で三人で長い長いリースを作り上げて行く。 「三人とも、ご飯よ〜っ!」 「「「あ、はーいっ!」」」 ドアの外からかけられた母の声にはっとして顔を上げる。 目が合って、少し笑った。 「ハラ減ったな」 「うん。続きはご飯の後ね?」 「また手伝ってくれるのか?」 「うんv何か楽しいもん♪」 「私もやる。残りの紙も切ってしまおう」 当然と応えた二人に、太一も嬉しそうに微笑んだ。 「サンキュな♪」 順番に部屋を出て電気を消す。 台所から母の楽し気な声が響いた。 「何だか真剣にやってたみたいね?進んだ?」 「すっげぇ進んだ♪」 「そう、よかったわね。ああ、このお皿テーブルに運んでちょうだいな」 「はーい♪」 そして、今度はご飯の用意を手伝った…三人揃って。 |
おわり |