その時目にしたのは、そんなに頻繁にでは無いが、彼にとっては珍しくも無い光景だった。





 数人の女生徒を相手に、太一がにこやかに話している。
 昼休みになった廊下にはあちこちで人が溢れ、ヤマトは調度自分の教室から出たばかりの時にそれを目撃したのだった。

 何故そこに目が行ったかと言えば、やはり同じようにそちらを注目している少人数の団体があちらこちらに存在していたからなのだが…。

「またか」
「またよ」

 ふいに出た呟きに返ってきた言葉に、少々驚いて声のする方を向く。
 だがその主は分かっており、その声の主がそこにいたことよりも、もう一人その隣にいたことに目を見開いた。

「空…光子郎もそこにいたのか」
「ええ。太一さんが呼び止められて連行されたので、ついでにヤマトさんを待ってたんです」
「…ついでか」
「そーよ。見物がてらね」

 二人に言い分に苦笑を浮かべ、再び太一の方に視線をやると、調度話が終わったのだろう…少女達ががっくりと項垂れて去って行くのとは対照的に、自分達を見つけてにっこり微笑んだ太一が駆けて来る所だった。

「待たせたな♪」
「いいですよ」
「なあに?遊びの誘い?」
「そ。断ったけどな」
「ふーん…」

 屋上へと向かいつつ、簡単な情報交換をし合う。

「今度の土曜、どっか出かけるとかで一緒しねーかって」
「あら?太一その日部活休みじゃなかった?」
「ああ、そーなんだけど…」
「向こうも調査済みで来たんでしょうねぇ。それでよく引きましたね」

 と、言うより、その日に合わせて計画を組んだのだろーけれど…というのは伝えない。
 太一はぽりぽりと頭を掻き、たははと笑って白状した。

「…その日は、うちのお姫様と約束があんだ」

 六つの目に見つめられ、そーいうこと、と笑う。

「…お姫様か…」
「そ、お姫様」

 にこやかな太一から視線を外し、「シスコンめ」と心の中で嘯いたヤマトを、考えていることお見通しな空が「あんたこそ、タケル君と約束してたら絶対優先するくせに」と呆れ、その全てが予想出来ている光子郎は…ただくすりと笑うのだった。





 その頃、機嫌良く給食を食べているヒカリに大輔が不思議そうに聞いたが、「秘密v」とにっこりかわされてしまっていた。
 それを、物知り顔で微笑んでいるタケルがいることは…兄達は知らない。






 
おわり