既に状況には慣れたが、今回は集められた面子を見て一様に驚きの表情を浮かべた。

「…この面子で何をするんだ?」
「ねえ…」

 呆れを隠そうともしないブレットと烈。

「また何か指令とかあるのか?」
「僕は何も聞いて無いよ?」

 不思議そうに首を捻る虎王とワタル。

「…顔色悪いぞ?」
「い…いや…その…」

 居心地の悪そうなヤマトを心配気に見つめる太一。

 各ジャンルを代表するお二人づつに集まって頂き、今回はこの六名でお送りしたいと思います…。

 

 

 一人どうしても強張った笑みになってしまうヤマトを除き、残りの五人は和気藹々と親交を深めていた。

「え!?ブレット君、もう大学出てるの!?」
「ええ、スキップして十歳の時に」

 驚きに声を上げた太一に、ブレットはその年に似合わぬほどの大人びた仕種でにっこりと笑いかけた。
 その様子に僅かにヤマトが目尻を上げる。
 心が狭い…。

「生意気でしょ〜?しかもこいつ、あのMITを首席で卒業してるんですよ!」
「「首席っ!?」」
「おい…レツ…」

 綺麗にハモった太一とワタルに、ブレットが苦笑しながら傍らの烈をこつんと窘める。

「…ワタル。何の呪文だ?それ」
「ああ、大学の通称だよ。正式名称は『マサチューセッツ工科大』だったっけ?」
「ええ」

 一人話題について行けなかった虎王がワタルを突付けば、少し興奮気味に答えが返って来た。

「そんなすごいのか?」
「え?詳しくは知らないよ、僕も。アメリカの大学だもん。ただ、僕中卒だからこの年で大学出てるってのがすごいなぁ〜て♪」
「オレは学校自体行ったこと無いぞ」
「あはは。虎王は山ほど家庭教師がついてたじゃない!」

 現生界の仕組みを、やはりよく分かっていないらしい虎王に、ワタルは詳しくは語らない。
 彼等が生きていく上では、あまり関係の無いことだから。

「カテキョだって…金持ちなのか?あの人?」
「…オレもよく知らんけど…王族出身だってさ…」
「お…王族…!?」

 ワタル達の様子を見ていた太一が、以前座談会をしたことのあるヤマトに耳打ちすれば、彼は自分も衝撃を受けた情報を流してくれる…だが、太一はその事実に驚きはしても、感心する程度で怯んだりはしない。

「大学スキップに王族の人だってさ〜、すごいな皆♪」
「………そ、そうだな…」

 ちょっぴりヤマトの歯切れが悪い。

「そんな大したことでは無いですよ。アメリカじゃ、十歳前後で大学に入学・卒業する者が一つの大学に年間二〜三人はいまますから。オレの周りもそんなのばかりですからね」
「へぇ〜流石大陸はレベルが違うよな〜。君の周りって、今何やってるの?」
「ブレットはアストロノーツ候補生なんですよ」
「宇宙飛行士!?」

 ブレットの代わりに烈が何処か嬉しそうに答えた。

「日本に来たのも彼のカリキュラムの一環で、普段は本当に訓練とかで忙しい奴で」
「あまり会えなくて淋しいんだ?」
「ワ、ワタルさんっ!」

 茶々を入れたワタルに、烈が少し頬を染めて声を大きくするが、隣のブレットに顔を覗き込まれてそれを撃退するのに小さな攻防が繰り広げられる。
 結局はブレットの腕に抱きこまれるような形になって終結したが、烈も恥かしいだけで怒っているわけでは無いし、ブレットも楽し気に笑い声を上げている。
 大学スキップや宇宙飛行士候補等という少し大げさな肩書きを持っていても、年相応の顔を見せることもある…そんな他愛も無い事実に、場もほっと穏やかな空気を漂わせた。

「宇宙飛行士かぁ〜、小さい頃は誰でも憧れる職業の一つだけど…やっぱり、色々大変なんだよね?」

 子供の頃夢見たものよりも、更に非現実に身を投じてしまったワタルには、少しだけ懐かしい世界。

「そうそう、訓練とか資格とかか?頭良くないとダメなんだろ?」

 デジタルワールドという世界を救ったという経歴を持っていても、履歴書に書く欄は無い。将来つく仕事というのは、太一にとってはまだ少しだけ未来の世界。

「まあ、資格とかは持ってるに越したことは無いですね。特にいるのは医学と物理学の博士号以上…エンジニアや天文学はこの世界に興味があるなら勝手に身につきますけど。後は、語学で英語はもちろん、ロシア語・中国語・ドイツ語は絶対。他、興味次第でフランス語・イタリア語とか…」
「日本語は?君すごくうまいけど…」
「これはミニ四駆のWGPが日本で開かれることになったので、開催一ヶ月前に急遽覚えることになって…」

「……………」

 ちょっと唖然。
 十を二つ程過ぎたばかりの身空で、事も無げに『大したこと無い』と言い切れてしまうのは、揺ぎ無い目標を持つ者の自信故のことだろうか…。

 そんな中、太一がぽんっと相棒の肩を叩いた。

「…ヤマト、お前にゃ無理だよ」
「は?」
「丈と光子郎と賢の知識合わせてもまだ足りねー感じだもん…お前にゃ無理だって」
「え?いや、何が…」

 嘆息しながらの太一の科白に、ヤマトが困惑して彼を見る。

「だって、ヤマト宇宙飛行士になりたいんだろ?」
「は!?そんなこと言ったか!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「無い無い、言ったこと無いって!無印全54話と02合わせてもう一回見てみろ!言ったこと無いぞ、そんなこと!」
「あれ〜〜??」

 否定するヤマトと首を傾げる太一。
 何処に記憶の行き違いがあったのか……これと言って他意はございません…。(?)

「…とにかく、どんな職業でも生きてくためには何でも大変だってことだな」

 と、虎王が強引ながらも上手にまとめた。
 酸いも甘いも、綺麗も汚いも見尽くして来た皇子様の言葉には、流石に重みがございます。

「…ところでさぁ〜…、ちょっと気になったんだけど、いい?」

 しんみりとした雰囲気をかっ飛ばすように、ワタルが明るい瞳を太一に向けた。

「はい?」
「もしかして…ヤマト君ってパニック体質?」

 ぶっと太一が吹き出した。
 何故太一に聞く…と思いながらも、ヤマトは既にうろたえモード。

「あ、実は僕もそーかな〜と思ってました。行動に落ち着き無いですよね〜」
「レツもか。だが行動が…というより、目が落ち着き無いんじゃ無いか?」
「ああ。視線が合うと泳いでしまう所だな」

 烈、ブレット、虎王の順にワタルの発言に乗っていく…太一は笑いの発作に飲み込まれてしまっていた。

「あ、あんま虐めないで下さいよ〜!こいつは人見知り激しいだけで、そんな別に…パ、パニッ…くくくくく!」
「…太一君、笑いのツボにハマっちゃったよ…やっぱそうなんだねぇ〜…」
「………」

 それぞれ違う意味で言葉も無い二人を余所に、ワタルがあっさり結論を出した。
 多かれ少なかれ『リーダー』と呼ばれ、人の上に立つ者は、その場にいる者達の特質を見抜く特技を持つ者が…多い。

「人見知り激しくて大丈夫なのか?バンドとかいうのやってるんだろ?」
「え?ミュージシャンなの!?」
「しかも、ビジュアル系ですか…」
「顔はいいもんね〜…さぞかし女の子達にモテモテなんじゃ…」

 本人目の前に言いたいことを言いたい放題の面々。
 今回、特別な『企画書』は配布されておりません…。

「あーっもう我慢出来ん!皆聞いて下さいよっ!!」
「た、太一っ!?」

 爆笑モードのまま元気よく手を上げた太一に、何を言い出すのかと気が気じゃ無いヤマト…。

「ヤマト、こいつこんなんで、人見知り激しくて!パニック体質で!後ろ向きのくせに!設定が『クール』なんですよ!?」

 太一さん、認めておられます…。

「……………え?」

 太一の言葉に、一同の胡乱な視線が一気にヤマトに集まり…彼の腰はちょっと逃げ気味。

「………『クール』………?」

 ゆっくりと視線を交し合う。

「…『クール』?『クール』って言った?彼が?」
「いや、『クール』って言ったぞ、確かに」
「ブレット…『クール』って、『落ち着いてる』とか『冷たい』とかの他に何か意味ある?」
「………意味だけを上げるなら…『涼しく爽やかな様』とか『超然とした冷めた様』…とか訳されるな…日本語では……」

 もう一度視線がヤマトに集まる。
 そこには、張り付いた笑みに滝のような冷や汗を流している彼の姿があった。

「…『涼しく』…?」
「…『爽やか』…?」
「…『超然とした』…?」
「…………」

 相手が悪かったですね、ヤマトさん。

「ちょっと、ごめん!待ってよ、何!?」
「オレの目がおかしいのか!?」
「僕の感が狂ったの!?」
「日本人は彼みたいなのを『クール』って言うのか!?」

「「言わないよっっ!!」」

 それこそパニック気味の彼等の中のブレットの問いに、ワタルと烈がきっぱりはっきり否定する。
 太一はもう、床につっぷして肩を震わしている。

「ちょっと悪いけど、ヤマト君!?」
「はいっ」
「僕、こないだちょっと資料を見せてもらったんだよ。君のライブの。ちょっといい?…え〜と…」

 と、何処から取り出したのかリモコンのスイッチを入れると、天井からスクリーンが下がって来てそこに映像が映し出された。

「…あれ、ヤマトさん…?」
「レツ…あれは衣装なのか?」
「……僕には学校の制服に見える…」

 額を押さえんばかりの烈と呆然とするブレットはこの際置いといて、ワタルはライブ映像をすっ飛ばしてその後の場面になった所で普通再生に戻した。

「1・2・3・4〜♪とか言う人が、クールには見えないよな〜…」
「何ワタル?」
「いや、一応独り言…ああ、ここ!」

 ぼそりと呟いた言葉を耳ざとく聞きつけた虎王を笑って誤魔化し、目的の場面になった所で全員に注意を促した。
 自分のライブ映像を見せられたヤマトは…羞恥にかへたりこんでいる。

 『ヤマトく〜ん♪サインお願い出来る?』
 『あ、いいですよ』
 『ありがとう〜vv』

 駆け寄って来たつんつん頭の少女に、ヤマトが笑顔を見せながら二つ返事でさらりとシャツの背中にサインを書いている場面…。

「ここ!」
「へ?何か変だったか?」
「いえ、特には…」

 ワタルの言葉に不思議そうな顔をする虎王と烈…ブレットは少し苦笑気味。

「そう。人間としては『変』でも『妙』でも無い行動だけど、『クールな人』としては失格です」
「ええっ!?でも、ファンを無下には…」
「甘いよ、ヤマト君。こっちに先日入手したもう一つの資料があるから見てみて」

 Pっという音と共に場面が切り替わり、今度はスタジアムらしき場所が映し出される。

「あ、ここアストロドームだ…」
「アストロドーム?」
「ああ。え〜と、ブレット達『アストロレンジャーズ』っていうアメリカチームのホームスタジアムです」
「ほ〜、でかい大会なんだな〜」
「まあ、世界規模ですから」

 烈とブレットが簡単な説明をする内に、場面は試合後、彼等『アストロレンジャーズ』が会場を後にする時の様子が映し出された。

 『キャ――――――っっ!!』
 『キャ――――っっ!!ブレットく――んっ!!』
 『エッジく―――んっ!!こっち向いて――っっ!!』

 女の子達の声援に、赤髪を逆立てた少年が笑みを浮かべて手を振ると一層悲鳴が高く上がったが、金髪の少年は彼女達を一瞥しただけで、興味無さそうにトランスポーターに乗り込んだ。
 その一部始終を熱い視線を送りながら見送った少女達は、トランスポーターがその場から走り去った後も、その姿が消えるまで手を振り続けていた。

「……………」

 場面が変わり、今度はスタジアム内のどこかの通路で、出待ちをしていたらしい集団が手が届く程の距離で彼等とすれ違う所になった。

 『あのっ!今日の試合すごかったです!』
 『………』
 『お、応援してます!次も頑張って下さいっ!』

 真っ赤になった少女達が頭を下げると、それまで表情も変えずに口を閉ざしていた少年が、口の端だけを上げ…。

 『Thanks』

 とだけ言い残して去って行った。

「……………」
「……『クール』って、こんなんじゃないかと思うんだけど…?」

 ビデオを止め、小首を傾げながらワタルが一同を振り向いた。
 比較にされたブレットを烈が見上げると、彼はくすりと笑って肩をすくめる。

 確かに、烈が好きになった彼は間違い無く『クール』だと思う。

 遠巻きからならば、集団真理も働いて声をかけられるが、近くにいると返って緊張してしまって上手く話すことも出来なくなる…そんな雰囲気が彼にはある。
 そして、そんな他者の想いも上手く利用している節すらあった…それでも、どんなに邪険に扱ったとしても、決してファンが減る事が無いのが『クール』な人達の不思議な所だ。

「ほえ〜…すげぇ〜…そーだよな、『クール』ってこんな感じだよな〜」

 半ば呆然と…見ようによってはうっとりと感想を述べた太一に、ヤマトがぴくりと反応した。

「…そう…思うのか…?」
「や、だって、ヤマトも見たろ?あれでオレ等より年下なんだぜ?かっこいーって!」
「かっ……!?」

 衝撃を受けたらしいヤマトが、よろりとバランスを崩す。
 第三者になってしまった、ワタル・虎王・烈・ブレットり四人は、何だかこの先の展開が読めてしまい…嫌〜な気分で顔を合わせた。

「…ヤマト?」
「かっこいい!?かっこいいって言ったか!?」
「へ?」
「あいつの方がかっこいいのか!?あいつの方がいいのか、太一っ!?」
「ちょっ、ヤマト〜っ!?」
「答えてくれ、太一っ!?」
「何言ってんだよお前〜っっ!!??」

 呆れ、困り果てた太一に詰め寄るヤマト…その姿はどこをどう取っても『クール』にはほど遠い…。

「大変だね〜太一君…」
「おい、ブレット。お前あいつに『クール』を伝授してやったらどうだ」
「生憎、オレもそんなに暇じゃ無いんで」
「ていうか、一生かかっても無理じゃない?」

 冷めた目つきでヤマトを見ながら、烈があっさりと切り捨てた。
 ネコを被る必要の無い相手には容赦無い彼の一面を思い出し、三人は揃って苦笑する。

 

 

 誰にでも表と裏は存在し、自分を飾る必要の無い相手には息を抜き、外では片意地を張って生きていることもある。
 全てを曝け出せる相手がいるのなら、多少の嘘もいいだろう…。

 

 だかしかし、『エセフェミニスト』はどうかと思う…(笑)




 

おわり


      別にヤマトを虐めたかったわけではありません。
      いや、本当に、マジ今回はそういうつもりはあり
      ませんでした!ホントですって!(汗)
      何かそんな感じになっちゃいましたが(笑)これは
      ただ単に、今度リクでレツゴーを書く番にそろそろ
      なって来るので、ちょっと彼等を文章で慣れてお
      こうかと思っただけなんです(笑)
      レツゴーはマンガばっかだったんでね…(苦笑)
 

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