既に状況には慣れたが、今回は集められた面子を見て一様に驚きの表情を浮かべた。 「…この面子で何をするんだ?」 呆れを隠そうともしないブレットと烈。 「また何か指令とかあるのか?」 不思議そうに首を捻る虎王とワタル。 「…顔色悪いぞ?」 居心地の悪そうなヤマトを心配気に見つめる太一。 各ジャンルを代表するお二人づつに集まって頂き、今回はこの六名でお送りしたいと思います…。
一人どうしても強張った笑みになってしまうヤマトを除き、残りの五人は和気藹々と親交を深めていた。 「え!?ブレット君、もう大学出てるの!?」 驚きに声を上げた太一に、ブレットはその年に似合わぬほどの大人びた仕種でにっこりと笑いかけた。 「生意気でしょ〜?しかもこいつ、あのMITを首席で卒業してるんですよ!」 綺麗にハモった太一とワタルに、ブレットが苦笑しながら傍らの烈をこつんと窘める。 「…ワタル。何の呪文だ?それ」 一人話題について行けなかった虎王がワタルを突付けば、少し興奮気味に答えが返って来た。 「そんなすごいのか?」 現生界の仕組みを、やはりよく分かっていないらしい虎王に、ワタルは詳しくは語らない。 「カテキョだって…金持ちなのか?あの人?」 ワタル達の様子を見ていた太一が、以前座談会をしたことのあるヤマトに耳打ちすれば、彼は自分も衝撃を受けた情報を流してくれる…だが、太一はその事実に驚きはしても、感心する程度で怯んだりはしない。 「大学スキップに王族の人だってさ〜、すごいな皆♪」 ちょっぴりヤマトの歯切れが悪い。 「そんな大したことでは無いですよ。アメリカじゃ、十歳前後で大学に入学・卒業する者が一つの大学に年間二〜三人はいまますから。オレの周りもそんなのばかりですからね」 ブレットの代わりに烈が何処か嬉しそうに答えた。 「日本に来たのも彼のカリキュラムの一環で、普段は本当に訓練とかで忙しい奴で」 茶々を入れたワタルに、烈が少し頬を染めて声を大きくするが、隣のブレットに顔を覗き込まれてそれを撃退するのに小さな攻防が繰り広げられる。 「宇宙飛行士かぁ〜、小さい頃は誰でも憧れる職業の一つだけど…やっぱり、色々大変なんだよね?」 子供の頃夢見たものよりも、更に非現実に身を投じてしまったワタルには、少しだけ懐かしい世界。 「そうそう、訓練とか資格とかか?頭良くないとダメなんだろ?」 デジタルワールドという世界を救ったという経歴を持っていても、履歴書に書く欄は無い。将来つく仕事というのは、太一にとってはまだ少しだけ未来の世界。 「まあ、資格とかは持ってるに越したことは無いですね。特にいるのは医学と物理学の博士号以上…エンジニアや天文学はこの世界に興味があるなら勝手に身につきますけど。後は、語学で英語はもちろん、ロシア語・中国語・ドイツ語は絶対。他、興味次第でフランス語・イタリア語とか…」 「……………」 ちょっと唖然。 そんな中、太一がぽんっと相棒の肩を叩いた。 「…ヤマト、お前にゃ無理だよ」 嘆息しながらの太一の科白に、ヤマトが困惑して彼を見る。 「だって、ヤマト宇宙飛行士になりたいんだろ?」 否定するヤマトと首を傾げる太一。 「…とにかく、どんな職業でも生きてくためには何でも大変だってことだな」 と、虎王が強引ながらも上手にまとめた。 「…ところでさぁ〜…、ちょっと気になったんだけど、いい?」 しんみりとした雰囲気をかっ飛ばすように、ワタルが明るい瞳を太一に向けた。 「はい?」 ぶっと太一が吹き出した。 「あ、実は僕もそーかな〜と思ってました。行動に落ち着き無いですよね〜」 烈、ブレット、虎王の順にワタルの発言に乗っていく…太一は笑いの発作に飲み込まれてしまっていた。 「あ、あんま虐めないで下さいよ〜!こいつは人見知り激しいだけで、そんな別に…パ、パニッ…くくくくく!」 それぞれ違う意味で言葉も無い二人を余所に、ワタルがあっさり結論を出した。 「人見知り激しくて大丈夫なのか?バンドとかいうのやってるんだろ?」 本人目の前に言いたいことを言いたい放題の面々。 「あーっもう我慢出来ん!皆聞いて下さいよっ!!」 爆笑モードのまま元気よく手を上げた太一に、何を言い出すのかと気が気じゃ無いヤマト…。 「ヤマト、こいつこんなんで、人見知り激しくて!パニック体質で!後ろ向きのくせに!設定が『クール』なんですよ!?」 太一さん、認めておられます…。 「……………え?」 太一の言葉に、一同の胡乱な視線が一気にヤマトに集まり…彼の腰はちょっと逃げ気味。 「………『クール』………?」 ゆっくりと視線を交し合う。 「…『クール』?『クール』って言った?彼が?」 もう一度視線がヤマトに集まる。 「…『涼しく』…?」 相手が悪かったですね、ヤマトさん。 「ちょっと、ごめん!待ってよ、何!?」 「「言わないよっっ!!」」 それこそパニック気味の彼等の中のブレットの問いに、ワタルと烈がきっぱりはっきり否定する。 「ちょっと悪いけど、ヤマト君!?」 と、何処から取り出したのかリモコンのスイッチを入れると、天井からスクリーンが下がって来てそこに映像が映し出された。 「…あれ、ヤマトさん…?」 額を押さえんばかりの烈と呆然とするブレットはこの際置いといて、ワタルはライブ映像をすっ飛ばしてその後の場面になった所で普通再生に戻した。 「1・2・3・4〜♪とか言う人が、クールには見えないよな〜…」 ぼそりと呟いた言葉を耳ざとく聞きつけた虎王を笑って誤魔化し、目的の場面になった所で全員に注意を促した。 『ヤマトく〜ん♪サインお願い出来る?』 駆け寄って来たつんつん頭の少女に、ヤマトが笑顔を見せながら二つ返事でさらりとシャツの背中にサインを書いている場面…。 「ここ!」 ワタルの言葉に不思議そうな顔をする虎王と烈…ブレットは少し苦笑気味。 「そう。人間としては『変』でも『妙』でも無い行動だけど、『クールな人』としては失格です」 Pっという音と共に場面が切り替わり、今度はスタジアムらしき場所が映し出される。 「あ、ここアストロドームだ…」 烈とブレットが簡単な説明をする内に、場面は試合後、彼等『アストロレンジャーズ』が会場を後にする時の様子が映し出された。 『キャ――――――っっ!!』 女の子達の声援に、赤髪を逆立てた少年が笑みを浮かべて手を振ると一層悲鳴が高く上がったが、金髪の少年は彼女達を一瞥しただけで、興味無さそうにトランスポーターに乗り込んだ。 「……………」 場面が変わり、今度はスタジアム内のどこかの通路で、出待ちをしていたらしい集団が手が届く程の距離で彼等とすれ違う所になった。 『あのっ!今日の試合すごかったです!』 真っ赤になった少女達が頭を下げると、それまで表情も変えずに口を閉ざしていた少年が、口の端だけを上げ…。 『Thanks』 とだけ言い残して去って行った。 「……………」 ビデオを止め、小首を傾げながらワタルが一同を振り向いた。 確かに、烈が好きになった彼は間違い無く『クール』だと思う。 遠巻きからならば、集団真理も働いて声をかけられるが、近くにいると返って緊張してしまって上手く話すことも出来なくなる…そんな雰囲気が彼にはある。 「ほえ〜…すげぇ〜…そーだよな、『クール』ってこんな感じだよな〜」 半ば呆然と…見ようによってはうっとりと感想を述べた太一に、ヤマトがぴくりと反応した。 「…そう…思うのか…?」 衝撃を受けたらしいヤマトが、よろりとバランスを崩す。 「…ヤマト?」 呆れ、困り果てた太一に詰め寄るヤマト…その姿はどこをどう取っても『クール』にはほど遠い…。 「大変だね〜太一君…」 冷めた目つきでヤマトを見ながら、烈があっさりと切り捨てた。
誰にでも表と裏は存在し、自分を飾る必要の無い相手には息を抜き、外では片意地を張って生きていることもある。
だかしかし、『エセフェミニスト』はどうかと思う…(笑)
おわり |