ある筋からによる収集で、選ばれし子供達は都内にあるビルの大会議室に集められていた。 「…何故?」 知りたがりの光子郎が頭をひねるが…彼にも分からないことはある。 「あーあー、デジタルワールドよいトコ、一度はぁおいで〜♪」 空が呆れたように頬杖をつきながら言えば、太一は頓着無くマイクのスイッチを切った。 「んじゃ、そろそろ始めるか」 隣でアシスタントよろしく控えていた大輔が、びっくりしたように太一を見上げた。 「あ〜…いいんだ。あいつらはちょっと遅れる」 太一の言葉に、彼の命令ならば例え『アラスカで一本釣りをして来い』でも従いそうな大輔が不満の声を上げれば、太一はにっこり笑って彼を手招いた。 「大輔、D−ターミナル持ってるか?」 慌てて開けると、そこには三件のメールが…。 「………すみません…」 素直に謝った後輩に、太一はぽんっと頭に手を乗せて許してやった。 「お兄ちゃん。連れて来たわよ」 彼女達に続き、後ろからこの場にいなかったパートナーデジモン達がぞろぞろと会議室に入った。 「ガブモン!?お前等まで!?」 ヤマトが立ち上がり、驚いてパートナーの名を呼んだが、他の者達もその心情は似たようなものだった。 「ヒカリさん。外からいらしたんですか?こちらのパソコンの電源入れておいたんですが…」 光子郎の不思議そうな指摘に、ヒカリ達はちょっとバツの悪そうな表情で扉の向こうを見る。 「…どこに繋がったんだ?」 太一が少し引き攣った笑みで問いかけると、彼等は揃って苦笑を浮かべ、代表してヒカリが答えた。 「ここの三階下の、どこかの会社のパソコンだったみたい…v」 今頃そこは、貞子が現れたかのような騒ぎになっているかもしれない…。 「ま、お前等が無事ついたならいいや。データの改竄は、光子郎とゲンナイさんにしてもらおう」 さっさと切り替えた太一の科白に、光子郎がにっこりと請け負った。 「それにしても、レッドベジーモンってホント性悪だよね!あいつらに会って友好的だった例が無いよ」 見回した太一に、良い子な返事が返る。 「んじゃ、説明に入る。ここに一枚の企画書がある。とある筋から下されたものだが…」 太一の説明の途中でヤマトが嘆息したが、全く黙殺された…気になったのは隣のガブモン位で、他は太一の言葉に集中している。 「選ばれし子供達十二名とそのデジモン達十二体、合わせて二十四名で重箱の隅を突付きまくってもらいたい。題して『第一回突っ込み大会』!」 挙手した光子郎に、太一がにっこり笑って大輔を見た。 「大輔、続き」 読めない漢字にはあらかじめルビを打っておいたので一応詰まらずに言えた大輔だったが、一同は彼の快挙より内容の胡散臭さの方が気になるようだ。 「え、え〜と。色々腑に落ちない所はあるんだけど…とにかく、何でもかんでも突っ込めばいいってこと?」 ミミの不信に満ち満ちた言葉に太一があっさり頷いた。 「…あの〜、それじゃ、僕以前からずっと気になっていたことがあるんですが…いいですか?」 おずおずと手を上げた伊織を、太一が『笑点』の師匠の様に指名した。 「初めて僕らがデジタルワールドに行った時、僕と大輔さんと京さんの三人だけ服装が変わって、他の方達は変わって無いって言ってましたよね?でも僕思ったんです。上履きでデジタルワールドに行ったはずなのに、皆さん靴になってましたよね?それも変わったって言うんじゃないですか?」 顔を見合わせた子供達の中、京が元気良く手を上げた。 「伊織の続きになっちゃうんだけど、夏になって皆夏服になったじゃない?なのに、ヒカリちゃんとタケル君って、あっちに行くと前の服に戻ってたでしょ!?あれってなんなわけ!?」 そういえば、と賢がぽつりとつなげた。 「そーねぇ…あ、でも私、お兄ちゃんと二人だけで行った時は、冬服のままだったわ」 ヒカリの言葉に太一も同意する。 「気になるって言えば…ゴマモンからSOSが来た時…」 タケルがちらりとゴマモンに目をやると、丈の膝の上でお菓子を食べながら皆の話を聞いていたゴマモンが目を丸くした。 「…ゴマモン、傷だらけで雪に埋まってて…皆急いで掘り起こしましたよね?」 ふんわりと親交を温め合っていた二人の間に、ぴしりと音がした気がした…。 「……………丈ぉ…?」 丈の背中に冷たいものが伝う…ゴマモンが彼に対して喚き出したが、年長組み達は当時のことをあまり知らない。 「なぁに?雪国だったの?」 特に事情に疎いミミが、知っていそうな京の肩をつつく。 「どうしたの、お兄ちゃん?」 大輔の何気無い付け足しに、賢はますます小さくなる。 「…誰も伊織に上着とか貸してやらなかったのか?」 思い出に笑い出す太一とアグモンを余所に、伊織が何の表情も浮かべずにあの時一緒だった面々を見回す。 「え!?あ、私ほら、一枚だけだったし!」 ヒカリとタケルが自己申告をすれば、追いつめられるのは上着を着ていた残りの三名…そこに空がぽつりと一言。 「ね〜え?焚き火って雪の中でどうやってつけたの?」 大輔がさぁ〜と蒼ざめる…太一の話を聞いた後では、誰もが思い浮かんだだろうその手段。 「すまんっ!悪かった伊織!」 にこっと笑った伊織に、一同はほっと息を吐いた。 「…言い出せば結構出て来るもんだよな…」 太一の突っ込みに、ヤマトだけでなくその他の注目が集まる。 「うちって…何が摩訶不思議なんだよ?」 見回せば、その場の全員がしっかりと頷いた。 「で、オレは原因が分からなかったし、皆もこっちに帰って来てるかもって思って電話したんだよ。そしたら、おじさんが出てまだ帰って来てねーって教えてくれたんだ。んで、ディアボロモンが初めて出た日も、おじさんがお前等は島根に行ってるって…」 ヤマトがタケルを見れば、彼も頭を左右に振って知らない意志を示す。 「ヤマトさんの家のその謎は、是非とも解明してみたいですね」 ウキウキしているような光子郎に、太一が冷たく水を指す。 「お前、いっつもそのノートパソコン持ってるけど、まさか家にまでまだパソコンがあるなんてびっくりしたぜ?」 光子郎が及び腰になると、京と賢が顔を合わせた。 「え〜と、僕もパソコンとノートパソコン持ってます…」 小学生の発言に、ちょっと次の言葉の出て来ない他の面々…しかし、太一は苦笑一つで更に爆弾を投げ捨てた。 「まあ、理解出来ねーけど、お前等はプログラムのプロフェッショナルだからな…でも、光子郎はこれに更に、小学四年の時既に携帯電話と衛星携帯まで持ってたんだぜ?」 携帯電話が普及したのはここ数年…しかし、小学生まで持つようになったのは、本当に極最近のことだろう…。 「謎が謎呼ぶ、泉家だよな」 彼の話題になると、集中率が途端に上がる…それもまた、仕方の無いこと。 「うち?うちは普通だよな?」 太一の突っ込みにめげず、光子郎は顔の前で人差し指を振った。 「太一さん。僕の知る限り、普通のご家庭では七歳児に台所で火を使わせたりしませんよ」 空とヤマトが驚きの声を上げるが、他は驚きに声も出ない。 「だって、ヒカリに飯食わせてやんなきゃダメじゃんか…」 ぽかん…と口を開けて聞いていた仲間達だったが、ばっと八神兄妹を抜いて円陣を組んだ。 「…どう思う?」 円陣とは言っても、対して距離が離れているわけで無し…はっきり言って、並以上に良い耳を持つ八神兄妹には委細構わず筒抜け状態。 「…変だってさ」 嬉しそうに微笑む妹に、太一も優しく笑って彼女の頭を撫でてやる。 「色々大変なんだね〜人間は…」 しみじみと呟くパートナーに、太一はちょっと呆れて溜め息を零す。 「え〜?ぼく達もぉ〜??」 心外そうに見上げたテイルモンに、ヒカリはにっこり笑って肩を掴んだ。 「私があげた、ホイッスルはどうしたのかしら?」 焦るが、彼女に出せる答えでは無い。 「そーいえば、パルモン〜?」 見覚えはあっても、その行方を知らないデジモン達は誤魔化し笑いを浮かべるしか無い。 「テントモン…君とはもう長いつき合いですが…どうしても解けない、そして聞くに聞けなかったことがあるんですが…一乗寺君のワームモンを見て決心出来ました…」 そんな彼等の様子を見て、テントモンが表情の乏しい顔をパートナーに向ける。 「何でっしゃろか?光子郎ハン?」 確かに、彼の口が開いた所は見たことが…無い。 「……太一。もしかして、ぼくにも何か、言いたいことあるのぉ〜?」 きっぱりと頷いた太一に、アグモンはその大きな瞳を瞬かせる。 「アグモン…お前こっちの世界に初めて来た時、地下鉄を知らなかったよな?」 困るアグモンと、何処までも真剣な太一…そんな彼に親友からの一言。 「…悪い言葉じゃ無いだろう…?」 ごもっとも。 「だけど、オレ以外の誰かなんだ!ヤマト、お前か!?」 永遠と繰り広げられる、答えの無い不毛な会議…全てを知る者はここにはいない。 そこに、館内放送が鳴り響く…。 『御傍聴ありがとうございました』 彼等の会議を傍聴していた方達がいたことを、彼等は知らない。
全て世は、事も無し…。 おわり |