「…何でオレ達、こんな所にいるんだ?」
「さあ…何故でしょう…」
「とりあえず、話せってことらしいですけど…」

 三人の金髪美形が、とある豪奢な部屋に集められ、お茶と茶菓子を囲んで座っている。
 美形達の名は、年が上の者から『虎王』『ヤマト』『ブレット』…この三人の内、日本国籍の者はヤマト一人だけ。虎王に至っては所属する世界すら違う。
 その顔はどれも複雑な思いに彩られているが、これを回避する策は、今の所彼等には…無い。

「…まぁ、いい。話せと言うなら話そう」
「そうですね。呆けていても仕方ありませんし」
「…そ、それでいいんですか?」

 ヤマトの不安気な言葉に、二人はあっさりと言い放った。

「切り替えは早い方なんだ」

 …早すぎるよ…とヤマトは思ったが、口に出すことは無かった。

「まぁ、何だな。オレ達は『金髪』ってことで集められたんだな?」
「いえ、一応『攻め』ってことで集められたそうですが」

 焼き菓子をぽりぽりと口にしながら、虎王は不思議そうにブレットを見やる。

「?…オレはお前等と違ってワタルとデキてないぞ?」
「あ、そうなんですか?オレはてっきりそうなんだと思ってましたが…」
「ワタルは『友達』だ。友達とはSEXはせんだろう?」
「それはそうですね」

 ガタガタガタ―――ン!!

 淹れた紅茶を虎王の前に置き、ブレットが席に座り直した時…ヤマトが勢いよく椅子から転がり落ちた。

「Mr.ヤマト?どうしました?」
「座っている椅子から転がるとは器用な奴だな…気をつけろよ」

 何事も無かったかのようにお茶をしだした二人を、ヤマトは奇妙な物を見るように呆然と見つめた。

「ほぅ…美味いな。香もいい」
「お褒めに預かりまして。紅茶にはうるさい奴が側にいますから」
「烈…とか言ったな?変わりは無いか?」
「おかげ様でつつがなく」
「噂に違わず『日本語』が達者なようだな」

 内容はともかく、穏やかな雰囲気を醸し出す二人…ヤマトはやっと立ち直り、椅子に座り直した。

「あの…もしかしてお二人は、お知り合いなんですか?」

 翠と藍の二対の瞳がヤマトをきょとんと見つめ、続いて互いに視線を移した。

「…そういえば、初対面だな?オレ達は…」
「…ええ。話だけは伺っていたんで、そんな感じがしませんでしたけど…」

 言って苦笑い。

「あの…?」
「説明が面倒だ。これ読んであっさり納得しろ」
「え!?」

 渡されたのは、桃呼発行・桃生真野著『MIX!!』(笑)。『ワタル』と『レツゴー』のジャンルミックスのお話です。

「『MIX!!』と言えば、お前。オレと同じ場所に居ていいのか?」
「あ、それは平気だそうです。文だと画像が出ないので、身長差がバレませんから」
「相変わらず姑息だな…」

 誰に向けられた言葉かはさておき、ヤマトはとりあえず資料を読み終えたようだ。

「…分かりました」
「おお。思ったより柔軟だな」
「人外のパートナーを持つ身ですから」
「頭柔らかくなきゃ、男とデキないでしょう?」
「……はい??」

 突然の話の変化について行けないヤマトだったが、その斜め横で虎王がぽんっと手を打った。

「ああそれだ。その話しなきゃなんだよな?それで、え〜とヤマト?…誰だっけ?」
「Mr.太一です」
「そう、『太一』。奴と付き合ってるのか?」
「なっ何ですかっ、突然!?」
「え〜、こちらで入手しました情報によりますと、『正式なお付き合いはしていない』というデータが出ているのですが?」
「えっっ!!??」

 がたんっと音を立て、驚愕に目を見開いたヤマトに、ブレットは気の毒そうな視線を向けた。

「藤の作品は、元々カップリングが頑固で『ワタル』だと『友情』。『レツゴー』だと『ブレ×烈』…と、一度決めたものはてこでも動かさない傾向があるんです…それが『デジモン』だと『八神太一総受け』と銘打ち、明確なカップリング指定を避けている節があります」
「珍しいな…そんな優柔不断なのは…」
「それが一概に優柔不断だとも言い切れないものもあるんです。カップリングでは相手を決めかねているようですが、『八神太一は受け』という主張は一貫して変わりません」
「……つまり」

「これが役不足ということか?」

 虎王が既に魂の抜けかけているヤマトを指差し、ぐっさりと止めを刺した。

「………Mr.虎王。もう少し遠回しな言い方を…」

 ブレットのフォローも窘めるというよりは、駄目押し…肯定に他ならない。

「まぁ、とりあえず…メインはこいつなんだろう?太一とやらもこいつに惹かれてるってことだな?」
「そ、そうですよね?たぶん…得意なものとかあるんでしょう?」

 流石にまずいと思った二人が、取り繕うように笑顔を浮かべる。

「得意…?………家事…とか…」

 どんよりとした空気を漂わせ、ぼそりとヤマトが呟いた。

「家事?家事…て何だ?」
「炊事・洗濯などの家の仕事です」
「炊事?料理をするのか?男が?」
「ですが?」

 ブレットが不思議そうに虎王に応対するが、虎王は怪訝な顔のままさらりと一言。

「『男子厨房に入るべからず』…じゃないのか?」

 ずんっ…とヤマトの頭に巨大な石が乗っかった。

「それは…昔の話では?コックとか板前とかは男ですし…」
「あれは職業だろ?それに洗濯ってなぁ…」
「はい?」

「一度着た物をまた着るのか?」

「は……………?」

 ヤマトの瞳が大きく開かれる。
 そのヤマトにこっそりと…。

「…彼、王族出身だそうですから…」
「お……!?」

 絶句。
 一般庶民と王族では、常識が大きく違う…。

「どこがいいんだろうなぁ…」

 豪奢な部屋の豪華な椅子にゆったりと腰掛け、長い金髪をさらりと流し…高そうなティーカップを違和感無しに傾けながら、理知的な藍い相貌がヤマトを見つめた。

「…Mr.ヤマト。少々顔色が悪いですよ?今日はもう帰られた方が…」
「ああ、そうだな。休んだ方がよさそうだ」
「そ、そうですか…?すみません……」

 虎王はテーブルの端に置かれていた鈴を取ると、チリ――ンと鳴らした。

「…お呼びでございますか?」

 正装した初老の男性が静かに扉を開け、上品に頭を下げた。

「彼が帰られるそうだ。案内を」
「承知致しました。石田様、こちらでございます」
「は…はぁ…」

 人に命令することに慣れた仕種だった。その様子を呆然と眺め、ヤマトはよろよろと彼について退室して行った。

「……………」
「……虐めすぎたか?」
「ええ、まぁ…でも、そう指示してありましたし…」
「だなぁ…何だろうな、この企画書は…」

 気の毒そうに見やっていた扉から目を離し、テーブルの下から一枚の企画書を取り出し溜め息を零した。
 そう、ヤマトにだけ知らされていなかった、裏の企画書。

「ところで、Mr.虎王?本当に一度着た服は着無いんですか?」
「まさか!世間知らずの小娘じゃあるまいし…皇族の財産は国民の血税だぞ。んなことしてたら、一気にクーデターが起こっちまう」
「そうですか。じゃあ、料理の経験は?」
「宮中で厨房に入ったことが無いのは本当だな。今の塔では、リーフが一切を取り仕切っているし。だが、オレは争乱中宿があっても野宿していた輩だぞ」

 ブレットは少しほっとしたように力を抜いた。

「そうですか〜…ちょっと安心しました」
「うちは長く戦乱の渦中にあったからな、貧乏なんだ。まだまだ復興中で贅沢は敵だな」
「はは。こんな部屋に違和感無く溶け込んでいる人の科白とは思えませんね」
「腐っても皇族だからな。はったりは得意なんだ」

 茶目っ気たぷりにウィンクした虎王に、ブレットも笑って頷いた。

「…ところで、ブレット」
「はい?」

 少し冷めてしまった紅茶を含み、くるみの付いたクッキーに手を伸ばしながら続きを促す。
 虎王はいつになく真剣な瞳で…。

「お前ら、本当はどこまで進んでるんだ?」

 紅茶を噴出しかけ、もう少しで見っとも無い醜態を曝す所だったブレットの姿は、彼の仲間や恋人が見れば驚きに目を丸くしたかもしれない…。
 そんな珍しい姿を目の当たりにしても、虎王は今、ただの好奇心の塊にすぎなかった…。

 



おわり


       …何がやりたかったんでしょう…。
       きっとヤマトさんを虐めたかっただけなんでしょうね…。
       それでは、太一さんとワタルと烈君が出てくる次回作
       『カリスマリーダー囲炉裏茶屋』に御期待下さい。
       …まだ続けるつもりなのか…?(汗)

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