偶然とはよく重なるもので、たまたま放課後のパソコン室が使えない日、何故かヒカリと京は欲しい物があり、当然のように買い物に出かけた帰り、どうしてだか部活帰りの空に遭遇してしまった。
 こんな偶然があれば盛り上がらないはずが無く、三人は近くのマックに入ることにした。

「やーん、空さんお久しぶりです〜v」
「ホントね〜。ここんトコ忙しくて顔出してなかったものねぇ。どお?最近は」
「調子はいいですよ〜♪カイザーの目を盗んでばんばんダークタワー倒してますから!」
「頼もしいわね」

 にっこり微笑んだ空に嬉しそうに頷き、京は胸に抱いたぬいぐるみのふりをするポロモンを大事そうに抱きしめた。

「空さんも部活とか大変そうですね。お兄ちゃんもへろへろになって帰って来ることよくありますよ」
「そうね〜二年になって色々立場も変わったし、やることも増えたしねぇ」

 少し疲れたように苦笑を浮かべる空に、ヒカリは兄もこんな表情を見せる時があるな〜と、今日はもう帰っているかなと少しだけ思った。

「そーいえばv空さん聞いて下さいよ〜!ヒカリちゃんたらこの間ねv」
「え?なんですか、京さん??」

 ぎょっとするヒカリににんまりと微笑みかけ、好奇心に瞳を輝かす空につつつと顔を寄せる。

「なあに、京ちゃん?おもしろいこと?」
「あのですねぇ、この間偶然なんですけど、あたし、ヒカリちゃんが告白されてるトコ見ちゃったんです〜っ!」

 きゃあ〜っと、ポテトを頬張り中のポロモンが思わず「ぐえっ」と言ってしまう位抱きしめ、何故か京が照れていたが、対して二人はきょとんと目を身開き、テイルモンはかぷっとチーズバーガーにかぶりついた。

「それでさ、実はずっと聞いてみたかったんだけど、あの後どーしたの?」
「断りましたよ?もちろん」
「え……?」

 からかう気満々だったのにあっさりと答えられてしまい、出鼻を挫かれたように凝視する京。
 そんな彼女を慰めるように、空が苦笑気味に口を開いた。

「今は目撃される位多くなったのね〜。あたし達がまだ在学中の頃は、太一とヒカリちゃんの仲の良さは有名だったから、噂になるほどアタックしてくる子は少なかったのに」
「へ…?」
「今だってそんなに言うほど多くは無いですよ?それに全部断ってますし」
「そうよねぇ〜」
「あの〜…」
「え?」
「何ですか?」

 溜め息混じりに話す二人に、京は中身が見えずにうろたえるしか出来ない。

「…どゆこと?」

 困ったように首を傾げる京に、ヒカリと空は目を合わせて苦笑した。

「京さん、私実は、理想が高いんですよ」
「うんうん、それで?」
「だから断りました」
「なるほどね〜、で?」
「終わりです」
「それじゃ分かんなあ〜いっ!」

 立ち上がって抗議する京に、ヒカリは溜め息をついて諦めた。
 彼女も知っておいた方がよいだろう…。

「大体何?高い理想って?ヒカリちゃんの理想ってどんななわけ?」
「それはですねぇ…」

 この時、向かいに座った空が何とも言えない複雑な笑みを浮かべたことを京は知らない。
 気づいていれば、もしかしたら続きを聞くのをためらうこと位はしたかもしれないのだが…。

「ヤマトさんより友情に厚く、光子郎さんより知識欲があって、丈さんより誠実で、タケル君より希望に溢れてて、お兄ちゃんよりも勇気があってかっこいい人」
「………………………」

 ぽかん…と口を開けたまま言葉の無い京に、空はジュースのストローを咥えつつ気の毒そうに最終宣告を突きつけた。

「…京ちゃんも覚悟しといた方がいいわよ?」
「えっ!?」
「目だけは、すっごい肥えるから」
「……………」

 つまり、あのメンバーと付き合っていると…普通の男じゃ眼中に無くなる…そういう…こと?

 にへらっと笑った同士達に、京は暗くなりそうな目の前を通り越し、がしっとハンバーガーを掴んだ。
 ヤケ食いしか無い…。

 既に充分目の肥えて来ているだろう自分を、自覚した一瞬だった。









 ああいった女の子同士の秘め事は、そのまま闇に葬りさられてもよいのだが、何故かつつぬけの人物が一人いる。
 その名を八神太一と言い、筒抜けさせているのは、妹のデジモンのテイルモン。

「へぇ〜、んな話してたのか。どーりで今日帰りが遅かったんだな」

 楽しそうに笑うのは、ヒカリがお風呂に入っている二人だけの時間帯。
 テイルモンは太一の膝の上で、気持ち良さそうに毛艶を整えてもらいながらの報告会だった。
 昔からネコを飼っていた八神家の面々は、揃って人や動物の扱いが上手く、触れてくる手は何故か分からないほど心地良かった。
 そうしてつい口が軽くなってしまうテイルモンに、太一もそうと意識せず情報通になってしまっている今日この頃なのだ。

「だけど、ああは言ってたけど、ヒカリにとっての基準と言うか中心と言うか、それは今でもあなたね、太一」
「…そうか?」
「絶対。そうとしか考えられない」

 ふふっと言い切ったテイルモンに、太一は普段は見せない…はにかんだ様な、嬉しそうな笑みを彼女にだけ見せるのだった。

 それはテイルモンしか知らない秘密。
 選ばれし子供達とデジモンの中で一番の情報通は、彼女なのかもしれない。





 
おわり

     実は以前から書いてみたかったネタ(笑)
     思いの外テイルモンが出張って来ましたが、
     それはまあ、ご愛嬌ということで(笑)