大輔・京・伊織・タケル・ヒカリの五人は、リアルワールドでの事情のため、ここ数日デジタルワールドに帰っていたパートナーを迎えにゲートを越えて来た。 この辺りにいるという情報を貰っていたのだが、選ばれし子ども達同士と違ってデジヴァイスで居場所を掴むことが出来ないため、彼等の方から自分達を見つけてくれるまで目的も無くうろついているしかない…。 「なぁ、賢もワームモン迎えに来るんだろう?」 ふとポケットの中に感じた振動に、タケルが大輔を呼び止めた。 「え?」 「ありゃぁ〜…」 目の前で繰り広げられた光景に、タケルとヒカリが目を丸くし、次いで苦笑を浮かべた。 「うえ〜…」 彼の足元には、予想外の先客のせいで着地に失敗し、彼等の元に突っ込んでしまった賢が、大輔・京・伊織と共に起き上がることも出来ずにからまって倒れていた。 「遅かったみたいだね…」 ゲートになったTVごとこんがらがっている仲間達に、ヒカリとタケルも誰から助け起こせばいいのか見当がつかない。 「え〜と、とりあえず…伊織君の腕、引っ張ってみていい?」 タケルとヒカリが両方見えていた伊織の腕を持ち、力を合わせて引っ張った。 「わっ!?」 二人して伊織をだっこするような格好で、ほぐれた仲間達を呆然と見つめる。 「伊織君が『栓』だったみたいだね…」 くすりと笑って彼を地面に降ろし、へたり込んでいる彼等に手を貸した。 「大丈夫?怪我無いですか?」 それぞれどこかを痛めたらしいが、タケルの言葉にそれもそうかと苦笑する。 「あら?」 まだ首が痛むのか、コキコキと回しながら力無く手を振る大輔に笑いながら二人は走って行った。 「…良かったのかな?任せちゃって…」 言外に含まれた『信頼』という言葉を感じ取り、賢も「そうだね」と頷いた。 彼等を待つ間に体の痛みもとれ、他愛も無い話題に花を咲かせていたが、風になびく木の葉がこすれ合う音にここがデジタルワールドであることを強く認識させられる。 「…そういえば、ここに来てこんなにワームモンと離れているなんて、初めてかも…」 賢の言葉に大輔が自分の傍らに視線を送る。 「ホントねぇ〜、ホークモンどこにいるのかしら」 感慨深気に呟いた京が、隣で考え込んでいるらしい伊織に気づいて声をかけた。 「伊織?何難しそうな顔してんの?」 言いよどむ年下の少年に、年長組は顔を見合わせ、揃って首を傾げた。 「伊織君?何に気づいたんだい?」 賢が優しく諭すと、伊織は一度目を伏せてから決心したように顔を上げる。 「僕達は今、デジタルワールドに来ています」 呆れて言った大輔の横で、賢がさぁーと顔を蒼くする。 「それって……」 ただ一人彼の言わんとすることを理解した賢に、伊織は固い表情のまま頷いた。 「えぇ〜?何々?何の話なの??」 お気楽な二人に賢は額を押さえ、伊織は重い口を開いた。 「今、デジモンに襲われたらひとたまりも無いということです」 「………………」 漸く訪れた現状認識に時が止まる。 「…ど、どうする?」 どうしようも無いだろう…襲われたら、そこで終わり。 「で、でも、イービルリングもダークタワーデジモンもいないし、そうそう獰猛な奴には…」 途端に騒ぎ出した二人に、賢と伊織は実力で黙らせた。 「…確か、家でこの辺りを検索した時、近くに洞窟らしき物を見かけたから、とりあえずそこに身を隠そう」 すっくと立ち上がって進もうとした大輔を賢が慌てて呼び止める。 「大輔。こっち」 賢の記憶の場所と反対に進もうとしていた大輔は、結局道案内をする賢を先頭にした一行の最後尾をついて行くことになった。 「お約束ですよね」 ここで、彼を慰めてくれる優しい先輩は…いない。 「それにしても、改めてヒカリちゃん達尊敬しちゃうわ〜」 少し、しんみりした空気が流れる。 どんなデジモンがいて、どういう特色に分かれていて、どんな戦い方が効果的だとか、どこどこの丘からは周囲一帯が一望出来るとか、どんな実が食べられて、どういうきのこを食べるとまずい等、彼等が必要とするだろう知識等は教えてくれるが、いわゆる『苦労話』というものはあまりしてくれたことは無かった。 『大変だったんじゃないですか?』と聞けば、『大変だったよ』と笑う。 肯定はしても、詳しく語ろうとしてくれたことは無い。 ここへ来て、この世界を少しずつ知る度に、その『大変』という言葉の重みが理解出来るようになった。 どの町の向こうにどんなエリアがあるのかを知っているのは、自分達の足でそこに行ったことがあるからだ。 『0』から始めた冒険の、友であり、協力者であり、生き証人であるデジモン達が、今戦う自分達の手助けをしてくれるのは…彼等が自分達の戦いから逃げなかったことの何よりの証。 それでも全てを語らないのは…彼等が自分達を守ってくれているからだ。 余計なことを話さず、話を誇張することも無く、無駄にこの世界に対する偏見を持ったりしないように、怖がらせたりしないように、体だけでは無く心までも守ってくれようとしている。 その心が、嬉しくて悲しい…。 まだまだ一人で立つにはヒヨッコの自分達。 「ストップ!」 突然立ち止まった賢に驚きの目を向けると、彼は真剣な瞳で人差し指を口の前に立て、声を立てないよう指示をした。 「…話声がする。…先客がいるみたいだ」 ぼそりと告げられた言葉に緊張が走る。 「…話し声がするからって、人間だと思えないとこが辛いわよね。デジモンってしゃべるんだもん」 こそこそと声を押さえながらの会議の結果、その場を離れようとした賢がかじりつくように洞窟の入り口を離れようとしない大輔を不審に思って声をかけた。 「……よく分かんねーけど、太一さんの声に聞こえねえ?」 立ち去りかけていた三人が、ざっと大輔に倣って壁に張り付く。 「………ん…あ…」 全員揃って首を傾げる。 「…………なっ………はぁ………」 話し声だと思ったのだが…時折届く声は、一人分しか無いような感じだ。 「…でも、太一さんじゃねえ?この声…」 大輔が軽く立ち上がると、その彼の服の裾を京ががしっと握って引き止めた。 「京?」 驚いて振り返れば、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。 「み…京?どしたんだお前??」 はてなマークを飛ばしまくる大輔に、説明するのを困って賢達に目を向けると、こちらは彼女の言いたいことが何となく分かったようだった。 少し上擦った声。 「いや、でも……」 頬を染めながら、肝心な所は言わずに、それでも通じる会話…分からないのは大輔だけ。 「何言ってんだよ、お前らっ」 憤慨する大輔を押さえつけ、三人は困ったように顔を合わせる。 「ああもう、大輔。つまりだね………」 賢が仕方なくぼそぼそと彼に耳打ちすると、大輔は見る間に真っ赤に茹で上がった。 「え…?マジ??」 歯切れが悪いのは仕方が無いだろう…確かめたわけでは無いのだから。
聞こえるのは一人分…そして、それを太一だと言ったのは他でも無い大輔自身。 「よし。大輔、ちょっとあんた見て来てよ」 押し付けあっている態度は威勢が良いが、両者顔が真っ赤のため、迫力を欠いて可愛いものだ。 「大輔、女の子に行かせるのは酷だよ。君が行っておいでよ、ね?」 割り込んで来た彼に噛み付けば、その勢いに顎を引くような仕種をするが、にこにこ笑顔は変わらない。 「僕のクリーンなイメージでそんなこと出来るわけないだろう?隠しカメラを設置してモニターから覗き見るのとはわけが違うんだから」 彼の科白に押されるように…というか、実際京と伊織の手に押されながら洞窟の入り口まで押し出された時、可愛らしい声が彼等を呼んだ。 「…何してるの?皆」 驚いて振り向くと、そこにはきょとんとしたヒカリとタケル、そして彼等のパートナーデジモン達が同じような表情をして立っていた。 「ヒ、ヒカリちゃん…」 彼等から見れば、自分達はとても奇妙な姿をしていただろうし、よくよく考えてみなくてもそうだろう図を想像し、違う意味で顔が赤くなる。 「ホントにどうしたの?」 言いかけた大輔の口を塞ぎ、京が誤魔化し笑いを浮かべる。 「お兄ちゃん?」 不思議そうに首を傾げたヒカリとタケルが後方を指差すと、自分達と彼のパートナーデジモンを従えながらこちらに向かって来る太一の姿が見えた。 「太…太一、さん!?」 「よお!お前らも今日こっちに来てたんだな」 朗らかな笑顔を浮かべながらやってくる彼に呆然と聞けば、彼では無くヒカリが嬉しそうに笑った。 「自然ゲートの方から来たんだって。テイルモン達を迎えに行く途中で会って、こっちに皆がいるからって連れて来ちゃったv」 にっこり笑い合った彼等に相槌を打ち、くるりと京を振り返る。 「………京?どーいうことだよ…あ?」 突然喧嘩を始めた二人にヒカリ達は不思議そうな顔をするが、伊織と賢は一瞬洞窟を振り返って苦笑した。 「つまり、あの声はデジモンか何かの声だったってことでしょうか?」 頷きかけて、同時に嫌な可能性を思い浮かべた。 「賢ちゃん、どうしたの?」 賢は素早くワームモンを抱えあげ、伊織はそのまますたすたと歩き出して皆を促す。 「さあさあ、皆さん、パートナーにも会えたことですし、さっさと帰りましょう!」 突然の彼等の行動に戸惑いつつも、後を追ってその場を離れる。 その最後尾をついて行きながら呟いた太一の言葉に、ヒカリとタケルはそっと笑みを噛み殺す。 「野生じゃねーデジモンがいるのか?」 しかし、彼等の気持ちも分かるので敢えて反対はしない。 「…ねえ太一。ヤマトはいいの?」 誰にも聞こえていないと知っていても、太一は悪戯っぽく微笑んだだけで答えを濁した。 「なあに?お兄ちゃん」 太一の言葉にその場にいる全員が明るい笑い声を上げた。 ただ一人、アグモンだけが何か言いたそうに太一を見上げたが、太一の目配せに笑って頷いたのだった。
その頃、大輔達が先ほどまでいた洞窟から、ひょっこりと顔を出したデジモンがいた。 「あれ〜?こっちから皆の声が聞こえた気がしたんだけどなぁ」 不思議そうに首を傾げたのはヤマトのパートナー、ガブモン。そしてその後を追って姿を現したのはヤマト本人だった。 「もう行っちゃったんだよ。焦らなくたってまた直ぐ会えるさ」 振り返ると、彼は調度D−ターミナルの蓋を閉める所だった。 「太一にメール。アグモンと先に帰ったからな」 にっこり笑ったパートナーに、微笑んで首筋を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。 「太一何だって?」 もう一度、今度はガブモンの背を撫でて立ち上がる。 「今日はちょっと…ヤバかったな」 大輔達は知らない。
そして、太一の元に届いたヤマトの本当のメッセージが…『続きは後で』だったことを。
おわり |
珍しくヤマトがへたれじゃないヤマ×太を書いたと
思います(笑)
前半太一さん達全然出て来てませんが…つまり…
だったことお分かりになりました?(苦笑)
う〜ん、この辺マンガだったらこう描くのになぁ〜とか
思ったりして、文章って難しいですね…精進致します!
←こればっか(笑)