大輔・京・伊織・タケル・ヒカリの五人は、リアルワールドでの事情のため、ここ数日デジタルワールドに帰っていたパートナーを迎えにゲートを越えて来た。

 この辺りにいるという情報を貰っていたのだが、選ばれし子ども達同士と違ってデジヴァイスで居場所を掴むことが出来ないため、彼等の方から自分達を見つけてくれるまで目的も無くうろついているしかない…。

「なぁ、賢もワームモン迎えに来るんだろう?」
「うん、そう言ってたけど…」
「あ、大輔君!」

 ふとポケットの中に感じた振動に、タケルが大輔を呼び止めた。
 その呼び声に気を取られ、彼等が後ろを振り向いた瞬間足元が眩しい光を放った。

「え?」
「えぇっ!?」
「うわっ!?」

「ありゃぁ〜…」
「まあ…」

 目の前で繰り広げられた光景に、タケルとヒカリが目を丸くし、次いで苦笑を浮かべた。

「うえ〜…」
「…一乗寺君から、『これから行きます』っていうメールが入ったよって言おうと思ったんだけど…」

 彼の足元には、予想外の先客のせいで着地に失敗し、彼等の元に突っ込んでしまった賢が、大輔・京・伊織と共に起き上がることも出来ずにからまって倒れていた。

「遅かったみたいだね…」
「おせぇよ〜…て、いいから、ちょっと手ぇ貸してくれぇ〜!」
「ごめん、誰が上にいるの??」
「動けないぃ〜っ!」
「僕もですぅ〜!」

 ゲートになったTVごとこんがらがっている仲間達に、ヒカリとタケルも誰から助け起こせばいいのか見当がつかない。

「え〜と、とりあえず…伊織君の腕、引っ張ってみていい?」
「お願いしますぅ〜…」
「じゃ、せーの!」

 タケルとヒカリが両方見えていた伊織の腕を持ち、力を合わせて引っ張った。

「わっ!?」
「たっ!?」
「がはっ!?」
「ったぁ〜…」

 二人して伊織をだっこするような格好で、ほぐれた仲間達を呆然と見つめる。

「伊織君が『栓』だったみたいだね…」
「…すみません」
「やだ、伊織君が謝る事じゃないわ」

 くすりと笑って彼を地面に降ろし、へたり込んでいる彼等に手を貸した。

「大丈夫?怪我無いですか?」
「大丈夫だと思うけどぉ〜腰いたぁ〜い!」
「あらら…大輔君と一乗寺君は?」
「オレ首が…」
「僕…うで…」
「あはは♪動かせるなら大丈夫だよ!」

 それぞれどこかを痛めたらしいが、タケルの言葉にそれもそうかと苦笑する。

「あら?」
「ヒカリちゃん、どーしたの?」
「ん〜、何だかこっちから呼ばれてる気が…」
「え?テイルモン達かな?僕等ちょっと探してくるから、皆ここで待っててくれる?」
「お〜。何かあったらD−ターミナルの方に連絡する〜」

 まだ首が痛むのか、コキコキと回しながら力無く手を振る大輔に笑いながら二人は走って行った。

「…良かったのかな?任せちゃって…」
「大丈夫よ。ヒカリちゃんのちょっと変わった力は、タケル君の方が上手くサポート出来るんだし」
「僕等は大人しく待ってるとしましょう」

 言外に含まれた『信頼』という言葉を感じ取り、賢も「そうだね」と頷いた。

 彼等を待つ間に体の痛みもとれ、他愛も無い話題に花を咲かせていたが、風になびく木の葉がこすれ合う音にここがデジタルワールドであることを強く認識させられる。
 自分達が住む東京ではついぞ感じられることの無い、濃厚な緑の香、自然の息吹…。
 そしてふと、自分の隣にいつもいるパートナーがいないことを思い出す。

「…そういえば、ここに来てこんなにワームモンと離れているなんて、初めてかも…」
「ああ…そーいや、オレもブイモンいないの…初めてかもなぁ〜…」

 賢の言葉に大輔が自分の傍らに視線を送る。
 いつも一緒にいるのが当たり前になってしまっていたから、何だかぽっかり空いた場所が寒い気すらする。

「ホントねぇ〜、ホークモンどこにいるのかしら」

 感慨深気に呟いた京が、隣で考え込んでいるらしい伊織に気づいて声をかけた。

「伊織?何難しそうな顔してんの?」
「…いえ、ちょっとあることに気づいたんですか…その…」
「何よ、はっきり言いなさいって」
「いえ、でも…」

 言いよどむ年下の少年に、年長組は顔を見合わせ、揃って首を傾げた。

「伊織君?何に気づいたんだい?」

 賢が優しく諭すと、伊織は一度目を伏せてから決心したように顔を上げる。

「僕達は今、デジタルワールドに来ています」
「そりゃ、ゲート通って来たんだもん。そーよね」
「そして、僕達の側にはアルマジモン達はいません」
「当たり前じゃん、迎えに来たんだから」

 呆れて言った大輔の横で、賢がさぁーと顔を蒼くする。

「それって……」
「はい。そうです」

 ただ一人彼の言わんとすることを理解した賢に、伊織は固い表情のまま頷いた。

「えぇ〜?何々?何の話なの??」
「何だよ!二人だけ分かってんのはずりーぞ!?」

 お気楽な二人に賢は額を押さえ、伊織は重い口を開いた。

「今、デジモンに襲われたらひとたまりも無いということです」

「………………」

 漸く訪れた現状認識に時が止まる。
 そう、今の自分達には身を守る手段が全く無いのだ…。

「…ど、どうする?」
「どーするったって…ねえ?」

 どうしようも無いだろう…襲われたら、そこで終わり。

「で、でも、イービルリングもダークタワーデジモンもいないし、そうそう獰猛な奴には…」
「甘いです、京さん。デジモンは元々縄張り意識の強いもので、特にウィルス種の成熟体以上のものは体も大きいし気性も荒いと…」
「…と?」
「光子郎さんが言ってました」
「わぁ〜っっ!!ホントなんだわ〜っっ!!」
「どーする!?どーするよ!?賢っ!何かいい案ねーか!?」

 途端に騒ぎ出した二人に、賢と伊織は実力で黙らせた。
 つまり口を塞いだのだが、叫び声でよからぬデジモンが自分達の存在に気づいては元も子も無い。

「…確か、家でこの辺りを検索した時、近くに洞窟らしき物を見かけたから、とりあえずそこに身を隠そう」
「流石賢君!そうね!そうしましょう!」
「でも、タケルさんやヒカリさんは…」
「そ、そうか…」
「あの二人ならきっと大丈夫だよ。僕等の中でもここでの経験は一番豊富なんだし、危険を回避する能力は高いと思う。それに、僕等が移動してもデジヴァイスで居場所は分かるし」
「そうよね!何たってこの世界で昼も夜もずっと何ヶ月も戦ってたんだし!」
「そうか。そうだよな!そんじゃ、とにかく移動しようぜ!」

 すっくと立ち上がって進もうとした大輔を賢が慌てて呼び止める。

「大輔。こっち」

 賢の記憶の場所と反対に進もうとしていた大輔は、結局道案内をする賢を先頭にした一行の最後尾をついて行くことになった。

「お約束ですよね」
「大輔だから」

 ここで、彼を慰めてくれる優しい先輩は…いない。

「それにしても、改めてヒカリちゃん達尊敬しちゃうわ〜」
「何だよ京。突然」
「だぁって、パートナーデジモン達がいてくれたとは言っても、今よりずっと小っちゃい頃にここでずっと戦ってたのよ?ご飯だって自給自足だし、寝袋だって無いし…昼夜問わず追われてたわけじゃない?しかも移動は全て足!」
「…そうですね。バスも電車も無いわけですから…」
「でしょ?そーいうこと、さっきの話でな〜んとなく考えちゃって…あたし達恵まれてるわよねぇって」
「そうか、そうだよな…。オレ等は戦い方も、デジモンとの接し方なんかも、分かんないことは皆先輩達が教えてくれるし…でも、先輩達はそれ全部手探りで覚えていったんだよな…」

 少し、しんみりした空気が流れる。
 本当の所、彼等がどんな風にここで過ごして来たのかを自分達は知らない。

 どんなデジモンがいて、どういう特色に分かれていて、どんな戦い方が効果的だとか、どこどこの丘からは周囲一帯が一望出来るとか、どんな実が食べられて、どういうきのこを食べるとまずい等、彼等が必要とするだろう知識等は教えてくれるが、いわゆる『苦労話』というものはあまりしてくれたことは無かった。

 『大変だったんじゃないですか?』と聞けば、『大変だったよ』と笑う。

 肯定はしても、詳しく語ろうとしてくれたことは無い。
 それはきっと、『大変』という言葉如きに収まり切るものでは無いのだろうと思う。

 ここへ来て、この世界を少しずつ知る度に、その『大変』という言葉の重みが理解出来るようになった。
 彼等の戦いを想像することは出来る…だが、それは所詮想像に過ぎなくて、自分の想像よりももっと過酷だっただろうことも分かる。

 どの町の向こうにどんなエリアがあるのかを知っているのは、自分達の足でそこに行ったことがあるからだ。
 行く先々のエリアで見知ったデジモンに会うのは、彼等がその土地のデジモン達と協力して戦って来たからだ。

 『0』から始めた冒険の、友であり、協力者であり、生き証人であるデジモン達が、今戦う自分達の手助けをしてくれるのは…彼等が自分達の戦いから逃げなかったことの何よりの証。

 それでも全てを語らないのは…彼等が自分達を守ってくれているからだ。

 余計なことを話さず、話を誇張することも無く、無駄にこの世界に対する偏見を持ったりしないように、怖がらせたりしないように、体だけでは無く心までも守ってくれようとしている。

 その心が、嬉しくて悲しい…。

 まだまだ一人で立つにはヒヨッコの自分達。
 いつか、頼りにされて…支えてあげられる日が来るのだろうか。

「ストップ!」
「どうした、賢?」

 突然立ち止まった賢に驚きの目を向けると、彼は真剣な瞳で人差し指を口の前に立て、声を立てないよう指示をした。

「…話声がする。…先客がいるみたいだ」

 ぼそりと告げられた言葉に緊張が走る。
 ここはデジタルワールドなのだから、そこにある洞窟にデジモンがいても当然の成り行きだ…その可能性を失念していたことが悔しい。
 耳を澄ますと、確かに何かの話し声のようなものがする。話し声ということは、少なくとも相手…二体はそこにいるということだ。

「…話し声がするからって、人間だと思えないとこが辛いわよね。デジモンってしゃべるんだもん」
「そうですね。でもこの場合僕等の仲間である可能性は低いんじゃないですか?太一さん達がこちらに来ているという話は聞いてませんし…」
「そうだね。ここは気づかれない内に立ち去った方がよさそうだ。…大輔?」

 こそこそと声を押さえながらの会議の結果、その場を離れようとした賢がかじりつくように洞窟の入り口を離れようとしない大輔を不審に思って声をかけた。
 彼はものすごく複雑な顔をして振り返り、洞窟の中を指す。

「……よく分かんねーけど、太一さんの声に聞こえねえ?」
「え!?」
「ウソっ、太一さん!?」
「こんな所にですか!?」

 立ち去りかけていた三人が、ざっと大輔に倣って壁に張り付く。
 洞窟は結構深いらしく、奥の方は暗くて光すら射していない…だが、確かに聞こえる声に耳を澄ます。

「………ん…あ…」
「…や……ん…」

 全員揃って首を傾げる。
 場所が遠いこともあるだろうが、声は聞こえても内容がさっぱり分からない…しかし、そう言われれば聞き覚えのある彼の声に似ている…気がする。

「…………なっ………はぁ………」

 話し声だと思ったのだが…時折届く声は、一人分しか無いような感じだ。

「…でも、太一さんじゃねえ?この声…」
「…似てるとは思いますけれど…何か違和感が…」
「うん。聞き取り辛いってのもあるけど…大体、太一さんだったらこんな洞窟の奥で何やってるんだ?」
「まあ、迷ってても仕方ないし、オレちょっと行って確かめてくるわ」

 大輔が軽く立ち上がると、その彼の服の裾を京ががしっと握って引き止めた。

「京?」
「………ちょい、待ち」
「は?」

 驚いて振り返れば、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

「み…京?どしたんだお前??」
「これってさ…その、えっと…あれの声じゃない…?」
「あれ???」
「だ、だから…」

 はてなマークを飛ばしまくる大輔に、説明するのを困って賢達に目を向けると、こちらは彼女の言いたいことが何となく分かったようだった。

 少し上擦った声。
 時折しか聞こえない、高低のある響き。

「いや、でも……」
「まさか…こんな所で、ですか…?」
「だ、だって、だって。でもじゃない?」
「それはまあ…ですけど…ねえ?」

 頬を染めながら、肝心な所は言わずに、それでも通じる会話…分からないのは大輔だけ。

「何言ってんだよ、お前らっ」
「わっこら!しぃーっ!中に聞こえたらどうするんだっ!?」
「だって何言ってんだか、分っかんねーんだもん!」

 憤慨する大輔を押さえつけ、三人は困ったように顔を合わせる。

「ああもう、大輔。つまりだね………」

 賢が仕方なくぼそぼそと彼に耳打ちすると、大輔は見る間に真っ赤に茹で上がった。

「え…?マジ??」
「いや、それはどーか…でも…ねえ?」
「ああ〜…まあ…」

 歯切れが悪いのは仕方が無いだろう…確かめたわけでは無いのだから。


「て、大体、相手は誰だよ!?」
「そんなの知らないよ!」

 聞こえるのは一人分…そして、それを太一だと言ったのは他でも無い大輔自身。

「よし。大輔、ちょっとあんた見て来てよ」
「は!?何でオレがっ!?」
「あんた今行こうとしてたじゃない!」
「おめーが止めたんじゃねーか!」

 押し付けあっている態度は威勢が良いが、両者顔が真っ赤のため、迫力を欠いて可愛いものだ。
 そんな平行線の彼等の間に、賢が苦笑しながら入り込んだ。

「大輔、女の子に行かせるのは酷だよ。君が行っておいでよ、ね?」
「だから何でオレなんだよ!?賢が行って来ればいいじゃねーかっ!」

 割り込んで来た彼に噛み付けば、その勢いに顎を引くような仕種をするが、にこにこ笑顔は変わらない。

「僕のクリーンなイメージでそんなこと出来るわけないだろう?隠しカメラを設置してモニターから覗き見るのとはわけが違うんだから」
「元デジモンカイザーがクリーンとか言うなぁっ!」
「まあまあ、それにスケープゴートは一人と相場が決まってるんだ。勇気を持って行って来い大輔。太一さんの勇気のデジメンタルの継承者として!」
「それが優しさの紋章を持つ者のセリフかいっ!?」

 彼の科白に押されるように…というか、実際京と伊織の手に押されながら洞窟の入り口まで押し出された時、可愛らしい声が彼等を呼んだ。

「…何してるの?皆」
「えっ!?」

 驚いて振り向くと、そこにはきょとんとしたヒカリとタケル、そして彼等のパートナーデジモン達が同じような表情をして立っていた。

「ヒ、ヒカリちゃん…」
「タケル君…あはは…」

 彼等から見れば、自分達はとても奇妙な姿をしていただろうし、よくよく考えてみなくてもそうだろう図を想像し、違う意味で顔が赤くなる。

「ホントにどうしたの?」
「え?え〜と、ここに太一先輩が…もがっ!?」
「バカ大輔!あはは、何でも無いの!何でも無いのよヒカリちゃん!」

 言いかけた大輔の口を塞ぎ、京が誤魔化し笑いを浮かべる。

「お兄ちゃん?」
「太一さんなら…ほら」
「えっ!?」

 不思議そうに首を傾げたヒカリとタケルが後方を指差すと、自分達と彼のパートナーデジモンを従えながらこちらに向かって来る太一の姿が見えた。

「太…太一、さん!?」
「あれ???」

「よお!お前らも今日こっちに来てたんだな」
「いや、えっと…太一さんこそ…」

 朗らかな笑顔を浮かべながらやってくる彼に呆然と聞けば、彼では無くヒカリが嬉しそうに笑った。

「自然ゲートの方から来たんだって。テイルモン達を迎えに行く途中で会って、こっちに皆がいるからって連れて来ちゃったv」
「そ…そうなんですか。…アグモンは、ずっと太一さんと一緒にいたんですか?」
「うん。太一が来れば分かるもん♪」
「なぁ〜♪」
「へぇ〜……」

 にっこり笑い合った彼等に相槌を打ち、くるりと京を振り返る。

「………京?どーいうことだよ…あ?」
「え?え?あたし何かした?」
「とぼけんなっ!お前があんなこと言うからっっ」
「何よ、あんただってそう思ったでしょ〜っ!?」

 突然喧嘩を始めた二人にヒカリ達は不思議そうな顔をするが、伊織と賢は一瞬洞窟を振り返って苦笑した。

「つまり、あの声はデジモンか何かの声だったってことでしょうか?」
「たぶん、そういうことなんだろうね」

 頷きかけて、同時に嫌な可能性を思い浮かべた。

「賢ちゃん、どうしたの?」
「伊織〜?妙な顔しとるがや」
「ワ、ワームモン!」
「アルマジモン!さあ、帰りましょう!僕達君等を迎えに来たんですから!ねえ、一乗寺さん!」
「そうだね、その通りだよ伊織君!さ、ワームモン、家に帰っておやつにしよう!」
「わーい、おやつ〜♪」

 賢は素早くワームモンを抱えあげ、伊織はそのまますたすたと歩き出して皆を促す。

「さあさあ、皆さん、パートナーにも会えたことですし、さっさと帰りましょう!」
「そうそう、野生デジモンとかに遭遇して戦いにならない内に!」
「え?何っ!?」
「どうしたの?二人とも??」

 突然の彼等の行動に戸惑いつつも、後を追ってその場を離れる。
 強引だとも思うが、賢達は洞窟の中にいるだろうデジモンを思うと気が気じゃ無い…これだけ騒いでいても姿を見せないのだから、大人しい種なのかもしれないが、まかり間違ってという可能性だってあるのだ。
 平和になった今、余分な戦いは避けた方がいい。

 その最後尾をついて行きながら呟いた太一の言葉に、ヒカリとタケルはそっと笑みを噛み殺す。

「野生じゃねーデジモンがいるのか?」

 しかし、彼等の気持ちも分かるので敢えて反対はしない。
 そんな彼の服をアグモンがこっそりと引っ張った。

「…ねえ太一。ヤマトはいいの?」

 誰にも聞こえていないと知っていても、太一は悪戯っぽく微笑んだだけで答えを濁した。
 そこに、太一のD−ターミナルが着信の合図を鳴らした。
 それを見て、太一は少し困った顔をしたが、口元は仕方無いとでも言うように笑っている。

「なあに?お兄ちゃん」
「ヤマトから。『どこにいる?』ってさ」
「あはは♪今現実世界探してても太一さんいませんものね。太一さん、お兄ちゃんが拗ねる前に返事したげて下さいね♪」
「仕方ねぇ、してやるか」

 太一の言葉にその場にいる全員が明るい笑い声を上げた。
 色々と気疲れしたけれど、それはそれで面白い一日だったかもしれないと…。

 ただ一人、アグモンだけが何か言いたそうに太一を見上げたが、太一の目配せに笑って頷いたのだった。

 

 

 その頃、大輔達が先ほどまでいた洞窟から、ひょっこりと顔を出したデジモンがいた。

「あれ〜?こっちから皆の声が聞こえた気がしたんだけどなぁ」

 不思議そうに首を傾げたのはヤマトのパートナー、ガブモン。そしてその後を追って姿を現したのはヤマト本人だった。

「もう行っちゃったんだよ。焦らなくたってまた直ぐ会えるさ」
「うん、それはいいんだけど…ヤマト、何してるの?」

 振り返ると、彼は調度D−ターミナルの蓋を閉める所だった。

「太一にメール。アグモンと先に帰ったからな」
「ああ、そっか。内緒話は終わったの?」
「いいや、実は途中。悪いな、ガブモン達に席外させてたのに」
「ううん、いいよ。外でアグモンと遊んでたから♪」

 にっこり笑ったパートナーに、微笑んで首筋を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。
 ガブモンはこの仕種が結構好きらしい。
 そうしている内に返事が返って来た。

「太一何だって?」
「ん?『了解』ってさ」
「また向こうで会うんだね?」
「そ。オレん家でな」

 もう一度、今度はガブモンの背を撫でて立ち上がる。
 帰り道がある自然ゲートに向かいながら、手を振るガブモンに応えてこっそりと笑う。

「今日はちょっと…ヤバかったな」

 大輔達は知らない。
 元々エリア毎に区切って活動していたこともあって、デジタルワールドにはエリアとエリアを繋ぐワープゾーンや、エリア内の近距離ワープのポイントがあることを。
 そして、それは大体洞窟の奥から繋がっているということを…。

 

 

 

 そして、太一の元に届いたヤマトの本当のメッセージが…『続きは後で』だったことを。

 



 おわり


 珍しくヤマトがへたれじゃないヤマ×太を書いたと
 思います(笑)
 前半太一さん達全然出て来てませんが…つまり…
 だったことお分かりになりました?(苦笑)
 う〜ん、この辺マンガだったらこう描くのになぁ〜とか
 思ったりして、文章って難しいですね…精進致します!
 ←こればっか(笑)