一緒に歩こう?
手をつなぎ、笑い、怒り、時には泣いて…二人で一緒にどこまでも。 行けたら…いいね。 彼の気配を感じ、一も二も無く駆け出して来た自分が抱きつく間も無く発せられた言葉に、いぶかしむよりも先にぽかんとした。 「どぉしたの?太一ぃ〜?」 彼を見上げ、立ち尽くすしか出来なかったアグモンに太一ががばりと抱きついた。 「聞いてくれよ、アグモン〜!」 たたらを踏んで何とか踏み止まり、出会った頃より二周りも大きくなったパートナーを抱き止める。 「何?何かあったの〜?」 アグモンの心配気な言葉に、抱きついて来た時と同じようにばっと体を離すと、勢いのままに怒声を上げた。 「ヤマトの奴!よりにもよって、オレの頭に手ぇ置きながら『太一は全然背伸びないな〜』とか言いやがるんだぜ!?」 太一のあまりの剣幕と勢いに、アグモンは彼の言葉をもう一度頭の中でリピートしなければ、とてもではないがついていけない。 「え、え〜と、太一は小さいの?」 据わってしまったパートナーの目に気づくこと無く、アグモンは三本しか無い自分の指を曲げたり伸ばしたりしながら考えているが、今一分かってはいないようだ…。 「とにかく、中学上がってから無意味にひょろひょろ伸びやがったんだ!てめーはにょろにょろか、雨上がりの竹の子かってんだ!!」 怒りに拳を震わす太一を、アグモンは困惑した瞳で見つめる。 「……太一ぃ…」 ちなみに、アグモンは『竹の子』も知らない。 「あ〜、あれだ。え〜と…『ムーミン谷』って所があってな?」 全然違う…。 「で、そのムーミン谷に生えてる、植物だか生き物だか分かんねー白いひょろひょろした奴だ」 説明している太一もよく分かっていないものを、説明を受けているアグモンは余計分からない。 「とにかく!無駄にでかくなったってこと!」 言い切った太一に、よく分からないながらもアグモンがにこりと微笑む。 「…何か、アグモンといるとどーでもよくなって来たな…」 丘の上にごろんと転がると、その隣に当然のようにアグモンが座り込む。 「ああ、つまんないことだよな…ヤマトの言い様に腹立っちゃってさ…ごめんな、アグモン。お前にあたっちゃったな」 本当に嬉しそうに微笑むパートナー…彼に触れたくなり、上半身を起こして肩を抱くようにもたれかかる。 「ありがとな…アグモン」 この温もりに護られて、眠った夜がある。 どんな虚勢も必要の無い、大切なパートナー。 「そーいえば太一…どーやって来たの?」 太一の本心からだろう言葉に、アグモンは一度大きく目を見開いたが、それが直ぐに嬉しそうな色に染まる。 「…珍しいね、太一がそんなこと言うの」 ごろごろと擦り寄ってくるパートナーを、優しく抱きとめながら心の鎖が解けて行くのを感じる。 ここはまるで安息の地だ。 ふと、顔を見合わせて…柔らかな笑いが空気に溶けていった。 しばらく二人きりでデジタルワールドを散歩し、小腹が空いたので近くに見つけた木の実を採っている時のことだった。 「?…まぁ、小さいよりは大きい方がいいわな」 溜め息を零すアグモンに、太一は器用にするすると木を降りると採って来た果実を手渡す。 「どうした?」 かしゅり…とかじった果実の甘味が、口中に広がる…。 アグモンの瞳に浮かんだ、寂しげな色故に…。 「そう…か…」 全く気づかなかったと言えば嘘になる。 笑いながら、まるで冗談のように語るパートナーの健気さに、胸が詰まる。 「うん…小さいのも、悪くないよな…」 言い射した太一を、アグモンが首を振ってやんわりと止める。 「大きくなって…いいよ?…ぼくが、ついて行くから」 真実の好意。 「でも、なるべくゆっくり大きくなってね?」 照れくさそうに微笑む仕草…それすらも愛しい。 「うん…約束するよ」 抱きしめる腕に力を込めれば、同じだけの強さを返してくれる。 自分を好きだと言ってくれるパートナーのために。 大好きな彼の温もりを感じながら、心の中で何よりも深い誓いを立てた。 現実世界に帰ってすぐに、息を切らしたヤマトに見つかった。 「よぉ、ヤマト」 落ち着き払った太一とは反対に、半ばパニック状態のヤマト。 「無駄にでかくなったもんだなぁ…ヤマト」 太一が行方を晦ます前の続きかと構えたヤマトだったが、当の太一は挑発するでも無く、どちらかと言えば憐れみを込めた瞳を向けられ、次の言葉を失った。 「…太一?」 のらりくらりとかわしたまま、さっさと立ち去ろうとする太一を、ヤマトは強引に肩を掴んで引き止めた。 「太一!」 切れる寸前のヤマトは、思いの他真剣な太一の表情に押し黙る。 「じゃぁな〜」 ひらひらと手を振って退場して行く太一を呆然と見つめながら、ぽつりと呟く。 「…ムーミンママが裸エプロンだと…なんでガブモンがかわいそうなんだ…??」 きっと、自分が発している言葉の意味も理解してはいないだろう。 過去を振り返り、未来に臆し、その場にしゃがみこんでしまいたくなる時もあるだろう…でも、二人一緒ならば震える体でも前に進むことが出来るだろう。
例えどんなに遠くに来たとしても…心の距離は、変わらないから。 |
おわり |
アグモンの健気さを前面にプッシュしてみました(笑)
この話、全て書き終えて、さーて、Upするかと思った
瞬間…全て消えました…何で!??(号泣)
再Upのため、何となく初めに書いたものと違って居
心地悪いです(苦笑)