「ヤ〜マ〜トv」
「………へ?」
呼ばれると同時に後ろから抱きつかれ、ヤマトは呆気に取られて振り向きかけた。
首を動かしかけてギョッとする。
自分の顔の直ぐ横に、覗き込むように太一の顔があった。
「たっ…太一!?」
「なぁ〜んだよぉ、お前に抱きつくのはオレしかいないだろぉ?」
ぷうっ…と頬を膨らませ、可愛らしく拗ねてみせる愛しい人に、ヤマトは遠のきかける理性を必死に繋ぎ止めた。
「いや、確かにお前だけだが…」
「何?…オレの声が分かんなったのか…?」
途端に悲しげな顔をする太一…。
「それはない!もちろん直ぐわかった!」
「…ヤマト…大好き」
すぐさま否定したヤマトに、するりと擦り寄った太一が、うっとりと呟いた。
「太一…」
「ヤマト…」
雰囲気に流されるように、二人の顔が次第に近付き………。
「………こ、光子郎…さん…???」
モニターに意識の全てを取られていた光子郎は、突然かけられた声に格別驚きを表すことも無く、ゆっくりと振り返った。
そこには、大輔の背を押し出すような格好で、京・賢・伊織が揃っていた。
「…おや、君達。今日はダークタワーを倒しに行ったんじゃなかったんですか?」
「あ…いえ、その通り道でこの要塞を見つけて…」
「ははは、要塞だなんて人聞きの悪い。ここは研究所ですよ、研究所」
「け…研究所??」
爽やかに言い放った光子郎に、子供達は顔を引きつらせて目を合わせる。
「本当ですよ。ホラ」
「あ…!」
画面が切り替えられ、要塞の入り口が映し出されたのに大輔が声を上げる。
「…『あ』?」
「い、いえ…ナンデモナイデス」
「そのようですね。…はい、ここです」
今逆らうのはまずい…デジタルワールドに来て身の危険を察知する機能が飛躍的にアップした面々は、揃って同じ結論に達していた。
先程の続きは気になるが、逆らったら最後…今この場の床に暗黒の海へと続く穴が開いたとして不思議は無い。
「ほらここに、ちゃんと書いてあるでしょう?」
「え?え?どこに?」
「伊織、分かる?」
「さ、さぁ…」
「…あ、ホントだ…」
呆然と賢が呟いた。
「え!?書いてあるのか!?」
「どこ!?賢君!?」
「一乗寺さん!?」
「ほら、あそこ…『泉 デジモン研究所』って…」
「えええぇっ!?」
「…デジタル文字だけど…」
「………」
「賢……お前、デジタル文字…読めるのか…?」
「え?そりゃ、まあ…」
日本語・英語・スペイン語…この少年はあと何ヶ国語をマスターしているのだろうか。自分はもう天才少年じゃないと本人は言うが、覚えた言葉を使いこなせているだけでも、充分『天才少年』と言っていいんじゃないか?
そーいえば、ダークタワーにもデジタル文字が刻んであったと光子郎が言っていた。
「と、ところで泉先輩?この要塞…じゃなかった、えっと、研究所は何なんですか?」
まだモニターと睨めっこしている伊織を置いて、いち早く立ち直った京が聞いた。
「もちろん、僕がこの世界で得た情報等を解析したりするためにね。自宅の機材では、少々手狭になってしまいまして」
二台のパソコンに、その他様々な周辺機器…あの他に一体何が必要とされるのか…。
「でも、デジタルワールドにこういうのを作って…大丈夫なんですか?」
「その辺は抜かりありません。ちゃんとゲンナイさんに許可を取ってありますから」
「きょ…許可!?」
「ええ♪」
出るのか…許可…。
「それより、一乗寺君。気になるならいじってもいいですよ?」
「いいんですか?じゃぁ…」
実は、先程からうずうずしていた賢は、光子郎の申し出に嬉しそうに近くの壁に向かった。
他の三名の目にはただの壁にしか見えなかったが、彼がキーボードを叩くような要領で壁に手を合わすと、その場所がうっすらと光る…部屋全体がコンピューターになっているのだ。
どこかで見たような光景だ…。
「賢君、何か分かる?」
京が興味深げに近寄ると、賢は真剣な眼差しでデータを検索していた。
「賢君…?」
「これ……」
その様子に、伊織と大輔も様子を伺いに彼等に近寄った。
「……デジモンカイザーの要塞より…高度だ……」
「………え?」
引きつった笑顔で仲間達を振り返った賢の言葉に、一瞬時が止まる。
「あの……要塞……より、も……?」
「比較にならない…この膨大な情報、処理速度…何よりここのエネルギー源って一体…?」
「うそ………」
「そんな大げさなものじゃないですよ。先日ADSLに加入しましてね」
「…………」
「…とまぁ、それは冗談ですが」
真剣に驚いている(いぶかしんでいる)彼等に、光子郎の冗談は非常に寒かった。
「…カイザーがしていたみたいに、何かのデジメンタルとかを使っているんですか?」
「まさか!…ん〜、君達は知らないかも知れませんが、ファイル島という島に、『何も作っていない工場地帯』がありましてね?」
「何も?」
「ええ。一つの製品の部品製造から組み立て、解体までを一つの過程とする工場で、結局は何も作ってはいないんですが、その無意味な作業を延々と続けるためのエネルギーデータが『巨大お化け電池』に組み込まれてまして、昔そのデータを解析したことがあるんです」
「へぇ〜v流石泉先輩♪」
「そんなに難しいことじゃありません。京君、基本だけなら在学中に教えてありますから、それを応用するだけで君にも出来ますよ」
「本当ですか!?」
「ええ」
「…つまり、その『巨大お化け電池』のデータが組み込まれていると?」
「その通りです、一乗寺君。半分以上コピーしたんで、楽でしたよ?」
感心したように頷く賢と京。
反対に大輔と伊織は難しい顔を並べていた。
「…伊織、今の話分かったか?」
「まぁ、大体は…」
「オレ半分も分かんなかった…」
「後で一乗寺さん達に聞きましょう?分かりやすく説明してくれますよ」
「うん……」
しょぼんとしてしまった大輔の背中を、慰めるようにぽんっと叩いた。
「光子郎さ――ん!こっちのデータ整理終わったよ〜?…て、あれ?皆?」
「タケル!?」
突然壁の一角が開き、その向こうから姿が見えないと思っていたもう一人の仲間が現れた。
「何でタケルがここにいるんだ!?」
「え?だって僕、ここのIDカード持ってるもん」
「えぇ〜!?タケルだけずりぃ〜!」
「…仕方無いんです。太一さん達にも内緒にしてあったんですが…タケル君には賭けで負けてしまって…」
「ね〜v」
「……賭け?」
「ああ、そーいえば、君達どうやって入って来たんです?」
不穏な雰囲気を漂わせかけた言葉に、光子郎がすかさず話題を変えた。
「え?普通に…入り口らしきものが開いてたんで…なあ?」
「はい。特に変わったこともなく、真っ直ぐこの部屋へ…」
「鍵掛かってませんでした?おかしいな…」
「あ!すみません、光子郎さん!僕が入った時にセキュリティー解除したままだったのかも」
「タケルくん…気をつけて下さいね。何も知らないデジモンが入り込んで、妙なトラップでも起動させたら事ですから」
「はい、すみません」
「…トラップ?」
「…セキュリティー??」
聞こえた声に、はっとした師弟(?)は、にこやかな笑顔を振りまいた。
その下で、光子郎は素早くセキュリティーを作動させ、入り口を閉じてロックする。
「気にしないで下さい。それより、興味があるなら皆さんそこらを触ってもいいですよ?ちょっとしたことじゃ壊れたりしませんから…ああ、大輔君は動かないで下さいね?」
「ええ!?何でですか!?光子郎さんっ!!」
「君は太一さんのデジメンタルを継承してますからね。念のため」
「何ですか、それはぁっ!?」
「太一さんはメカ系に弱い訳じゃ無いんですが…フリーズさせるのも得意なんです」
「そ、そんなぁ〜」
仲間達にくすくすと笑われながらも、大輔は律儀にその場に座り込んだ。
自分もメカ系が決して得意とは言えないことを自覚しているからだ。それでも好奇心は押さえられないらしく、キョロキョロと周りを見回している。
「…少しかわいそうですが、今はちょっと大切なプログラムを実行中なんで」
「え?何か言いました?」
「いいえ、何も」
振り返った賢に、彼の操るパネルに目を引かれて近寄る。
流石にパネル操作が滑らかだ…。
「何かいい情報がありますか?」
「ええ、興味深いものばかりですよ…僕は、本当にまだ、こちらのことを全然知っていなかったんだなと…」
「これからですよ。知らないことは順に知っていけばいいんです」
「…はい」
ふと、賢の手が止まる。
「…光子郎さんは…これだけの情報を集めて何か目的があるんですか?」
「目的…ですか?」
「はい。幅広い分野の情報が集められているようですけど、実際は無秩序に収められている訳ではなく…何か、整然とした意志を感じます」
「意志…ですか。そうですね…目的というよりは、望みですが」
暇そうにしていた大輔の話し相手を務めていたタケルが、半分耳を傾けていた光子郎と賢の方にちらりと顔を向ける。
「そうは言っても……ささやかなものですよ、僕の望みなんて…」
少し寂しそうな、どこか諦めたような…だが、ほんの小さな希望に縋るような、淡い微笑み。
言葉でも無く、仕草でも無く、彼が大人びて見えるのはこんな表情をする時だ。…そして、そんな時思っているのは、ただ一人の笑顔…。
「…そういえば、光子郎さん。例のどうなってますか?」
「ああ、上手くひっかかってくれたようですが…今はちょっとまずいでしょう…」
「え?え?何ですか?何の話?」
嬉々として首を突っ込んでくる大輔に苦笑がもれる。
「…彼等にはちょっと、まだ刺激が強いんじゃないですか?」
「ん〜、そうかなぁ…でもボク気になるしv」
「二人だけで話してる〜私も入れて下さいよぉ〜!」
「京君…どーしましょうか」
「別にいいんじゃないですか♪」
「だぁかぁらぁ〜!何の話なんですかぁ?」
光子郎とタケルの顔をね痺れを切らして交互に見つめる京は、文鳥のようで少し可愛い。
その可愛さに免じて…。
「…京君、さっきの続き…見たいですか?」
「さっきの…て何ですかぁ?」
「君達が来た時に、モニターに映っていたものです」
ぎょっと息を呑んだ者が二人。
目を輝かせたのが一人。
複雑そうに顔を歪めたのが一人。
その様子を楽しそうに眺めているのが一人。
彼等の反応は、いっそ清々しい程に顕著だった。
「見たい見たい見たいっ見たいです先輩っっっ!!!」
「え゛ぇ゛〜〜〜っ!?」
「………」
「それじゃぁ、黙秘は賛成とみなし、多数決でモニターオープン♪」
やったぁと歓声を上げたのは京一人。賢と伊織は何とも言えず複雑そうだった。
ぶすくれている大輔はもちろん黙止され、モニター画面いっぱいに映像が広がった。
「………あれ?」
「おや…」
「なんでぇ〜??」
ぽかん…とそれを見つめる面々…繰り広げられている情景は、彼等が予想していたものと随分と違っていた。
『何で逃げるんだよ、ヤマト〜っ!』
『お前こそ追いかけてくるなぁ!』
『何だよ、オレ悪いことした?』
『違う!きっと悪いもんでも食ったんだ!じゃなかったら、悪いデジモンに操られてるんだぁっ!』
『何だよそれっ!』
『その証拠に、太一はそんなに積極的でも優しくもなぁ――いっ!』
『はぁ!?』
『こんな状況のお前に手を出したら、後でどんなしっぺ返しがくるか分からんだろーがぁ―――っ!!』
場所はたぶん、デジタルワールドのどこかの場所。
そこで逃げるヤマトと追う太一…ついぞ見たことの無い姿…逆ならば少なくないが。
「おやおや…」
「あちゃぁ〜、お兄ちゃんてば不幸が身に染み付いちゃってたんだなぁ〜…」
「何々?どーゆーこと?」
「オレも聞かせてもらいたいな…この事態の訳を…」
京に続くように、この場にいるはずの無い声が割り込んだ。
「…………た、たたたたった、太一…さん!?」
「よぉ、光子郎。いつの間にこんなでけぇ要塞作ったんだよ。新築か?」
やっぱり要塞に見えるか…だが、問題はそんなことでは無い。
「え?え?太一先輩!?何でここに!?これライブじゃ無いんすか!??」
「いーや、ライブだよ。なぁ、光子郎?」
にっこりと笑った彼の笑顔は…今までに見たどの微笑よりも剣呑だった。
何があっても動揺しなかった光子郎が、身も世も無くうろたえる姿は…それなりに面白い。
「たっ太一さん!どーやってここにっ!?」
「それは私で―すv」
太一の後ろから、ひょいっとヒカリが現れて手を振った。
「ヒっヒカリさんっ!」
「やだなぁ、光子郎さんたらvデジタルワールドで私が入れない所が、あるわけ無いじゃないですかv」
「……そうでしたね…」
がっくりと膝をつく光子郎に、ヒカリが可愛らしくコロコロと笑う。
何か今、すごく気になることを言ったような…。
「タケル君もずるいわ。私に内緒で」
「言ったら止められると思ったからねぇ〜、ああ〜失敗した!」
「ふふv事と次第によってはネv」
突然の展開に呆然とする子供達…モニターでは、未だにヤマトと太一の仁義無き鬼ごっこが続いている。
これがライブだとすれば、あそことここの二箇所に太一が存在することになるのだが…。
「…光子郎」
「はい、何でしょう」
折り目正しい返事をしながら、光子郎とタケルがさっと太一の前で正座した。
まさに説教スタイルだ。
その殊勝な態度に、太一もそっと溜め息をついて、幾分柔らかくなった声音で話し掛けた。
「あれだろ?逆ピラミッド要塞にいた、ナノモンが作ったプログラム…いつの間にコピーしてたんだ?」
「嫌だなぁ太一さん…、あの時はそんな暇無かったじゃないですか。コピーなんてしてませんよ。僕が一からプログラムを組んだんです」
「お前が?」
いつの間にか、怒られている光子郎達側では無く、太一達側に立ち位置を移動していた子供達が、「ナノモンって何?」とこそこそと相談しているのを、ヒカリが「聞いた話だけど…」とやはりこっそりと教えてあげる。
関係無いが、ヒカリはどちらかと言えばナノモンのことよりも、彼に会った少し後のことの方が詳しい。
「ええ。見くびらないで下さい…壊れたナノモンに出来て、僕に出来ないはず無いじゃないですか」
「うわぁ〜v光子郎さん頼もしい〜♪」
タケルがチパチパと横で拍手する。
…どこか虚しい…。
「…見くびっちゃいねーけど…お前もそーとー壊れてっぞ……まぁ、それは前から知ってたからいい。光子郎!」
「はい」
「あれ…気色ワリィから、さっさと消せ」
「そんな、勿体無い…」
「何か言ったか?」
「いえ、ちょっと本音がぽろりと…」
「………」
「消します!今すぐ!」
立ち上がって真っ直ぐモニターに向かう。
その下のボタンを押せば、簡単にデリート出来る…だが、ほんの一瞬躊躇いが胸をよぎる。
あれが彼の姿をしているから…理由はただそれだけ。
「…光子郎さん」
同じように複雑な視線をよこすタケルに、小さな苦笑を返し…ゆっくりとボタンを押した。
後ろから小学生組の驚いた声が聞こえたが、その瞬間は、モニターを見ることが出来なかった。
「光子郎!」
「はい!」
太一の鋭い声に、急いで彼を振り向く。
「オレは誰だ?」
「…八神…太一さん、です」
「じゃぁ、あれは何だった?」
「太一さんの姿をした…データの塊です…」
「オレの代わりになるものか?」
「まさか!そんなことはありえません!」
慌てた光子郎の返答に、太一はにっこりと微笑んだ。
「なら、そんな顔すんな」
この世でただ一人の彼。
誰も彼の代わりになんて、なるはずが無い。
馬鹿なことをしたなぁ…と、心から反省する。
騙されかけていたヤマトが、何かを感じて逃げ出したわけだ。
好きになったのはその外見だけでは無い…真に愛しいのは心の方。
あのレプリカには、そっくりな外見とちょっとおかしな行動パターンは入力してあったが、その中味に心が入っていなかった…だから、彼では無い。
「ほら、光子郎!」
太一が投げたそれは、綺麗に光子郎の腕の中に飛び込んだ。
「ここにくるまでに、見たこと無いデジモンに会った。どーせそこにアナライザーつけてんだろ?入力しとけ」
「…はい」
手の中に落ちたのは、彼らを繋ぐ『デジヴァイス』。
何も言わなくても分かってくれている。
ここは彼等の冒険の全てを記憶した記念碑。
そして、これからの冒険の道標…どんな小さな情報でも、いつか彼の役に立てるかもしれないという希望の館。
ここにある情報は、いつでも光子郎が持っているパソコンから見ることが出来るようにしてある。
必要無いかもしれない…でも、いつか必要とする時が来るかもしれない。
モニターの中では、茫然自失の体で座り込んでいるヤマトの姿がある。
「…偽者を見抜けたのは及第点だが、やったことについては『お仕置き』が必要だよな」
「あ…もしかして太一さん…。お兄ちゃんがキスしたの…見てました…?」
「おーよ。…しかも肉眼でな」
これは怒りが深い…。
肉眼で捕らえられる位置に太一がいて、気づかないヤマトもヤマトだ…同情の余地は無い。
「お前ら、ヤマトが何か言ってきても、何も真相を教えてやるなよ?オレはしばらくヤマトとは会わん!」
「それは…」
突然消えた太一にパニックしているだろうに、その後姿を見せないというのは、精神的にかなりなものが…。
「い・い・な?」
「はいっ!」
所詮彼に逆らえる者などいないのだ。
この際ヤマトには犠牲になって頂こう。
「よし。じゃぁなって、光子郎…お前の『お仕置き』は、別に用意しとくよ。行くぞヒカリ」
「はぁいv」
「た、太一さん!?」
デジヴァィスを受け取ると、太一はヒカリを引き連れてさっさと出て行ってしまった。
『お仕置き』…内実が明かされないだけに恐ろしい。
「うわっ!?」
「何だっ!?」
突然、質力がダウンし、全てがブラックアウトした。
「………や、やられた……」
「………あ…」
フリーズ…。
誰の仕業かなど、一目瞭然。既に建物の外に出てしまっているだろう八神兄妹が、悪戯っぽく笑っている顔まで想像出来る。だが、この程度で許してもらえるのなら、軽いものなのかもしれない…誰かに比べれば。
PPPPPPPPPPP♪
真っ暗な中で、やけに鮮やかにD‐ターミナルの受信音が響いた。
全員一斉に内容を確認する。
『太一が消えたっ!!』
同時に送られて来た見事に同じ文面に、子供達は顔を合わせて苦笑した。
「…どうしよーか?」
「どーするも何も…」
「太一さんからの言いつけですし?」
「それを破る訳にいかないですし」
「仕方無いわよね?」
「そーですね」
意見の相違も無く、彼等は揃ってD‐ターミナルの蓋をパタンと閉めた。
落ちてしまった電力を立ち上げながら、モニター越しに世界を見つめる。
何も分からず、この世界を彷徨った遠い日々。
理解する度謎は深まり、『情報』という言葉の重みを思い知らされた…幼い日。
役に立ちたかった、頼りにして欲しかった。
それだけで集め続けた、様々な『情報』。
まだ足りない…きっとまだ、この世界には知らないことがたくさん溢れている。
聞かれたことに応えたい。
彼の期待に応えたい。
彼の傍にいられるように…。
それが、ささやかだけれど、今の自分の……願い。
おわり
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