最大の敵だと思っていたヴァンデモンを何とか倒し、八人になった『選ばれし子供達』は、真の敵…ダークマスターズと戦うためにデジタルワールドに戻って来た。 彼等と、彼等の愛する者達の住む世界を護るために…。
「あ〜疲れた〜…」 真実疲れ切った声音と共に、子供達は次々とその場に座り込む。 「ここまで来れば、とりあえずは大丈夫かな?」 度重なる襲撃を迎え撃ち、何とか逃げ延びて人目に付かなさそうなこの洞窟を偶然見つけれたのは運が良かった。 「タケル…大丈夫か?」 そういえば、今日は昼前に襲撃されてからずっと防戦一方で、朝食べてから何も口にしていなかったことを思い出した。 「あ、ボクごはん探して来るよ〜」 軽く腰を上げたアグモンに、太一が心配そうに声をかけたが、そのパートナーそっくりの笑顔でやんわりと制されてしまった。 「…分かった。それじゃ、悪いけど頼むな」 「あ、私も行く!」 さっさと飛び出して行ってしまったアグモンとテイルモンの後を、急いでガブモンを追う。 「ヒカリ、どうした?」 ふと、太一の声に最近仲間になったばかりの少女に視線が集まる。 だが、当の本人はすっかりこの逃亡生活にも慣れ、太一の側を離れないのは心細いからでは無いということに、気づいている者は少ない。 「お兄ちゃん…ヒカリお風呂入りたい…」 自分の服を摘みながら、悲しそうにヒカリが太一の服を引っ張った。 「そうだな〜、今日は随分走り回ったからなぁ〜…あ、光子郎」 自分の世界に入りかけていた光子郎に、太一の声が一拍置いてから一応届いた。 「何でしょう、太一さん?」 言われて思い出す。 「あ…はい。ありましたね、そういえば…」 何となく言いたいことが分かって太一を見ると、彼は晴れ晴れとした顔で妹の頭にぽんっと手を乗せた。 「ヒカリ、兄ちゃんと川で水浴びするか?」 全員の度肝を抜いたこの科白に、ヒカリは嬉しそうに頷いている。
ちょっと待て!
疾風のようなチームワークで、男組が太一を引き寄せて小声で詰め寄った。 「何考えてんだよ、太一!?」 わけの分からない太一は、素っ頓狂な声を上げる。 「はぁ?じゃねーよ!ヒカリちゃんは女の子なんだぞ!?」 うんうん、と左右で頷き合う丈と光子郎を従えてヤマトが力説する…それに太一は呆れたような、不思議そうな顔で見つめ返してこう言った。 「当たり前じゃん…『妹』なんだから…」 それとも、お前等には『男』に見えるのか?とでも言いたげな太一。 「ねぇ、ヒカリちゃん!ここはやっぱり私達と一緒に行かない?」 にこやかな笑顔を貼り付けたお姉さん達に、ヒカリは一瞬きょとんとしたが、これまた兄とそっくりな表情を浮かべてこう言った。 「空さん…髪の毛洗ってくれる?」 「………かみ…の、毛……?」
「………洗えない…」
たっぷり空いた間の後に、ぽつりと空が呟いた。 「ヒカリ〜、行くぞ〜」 固まっている仲間達を尻目に、八神兄妹は仲良く手を繋いで洞窟を出て行った。
「……何で、止めないんだよ…」 この場にいる者は、皆一人っ子か末っ子ばかり…例外はヤマトだが、彼も両親の離婚から四年がたち、弟と一緒に風呂に入っていたのは遥かな昔の記憶になっている。 「だからって、いくら兄妹でも!」 言い争いを始めたヤマトと空を止める気力も無く、丈と光子郎とミミの三人は、三者三様の溜め息を零した。 「…太一って、やっぱ何か、よく分かんないけど、すごいよね…」 「太一さん…家でもヒカリさんとお風呂に入ったりしてるんですよね…やっぱり…」 「いいなぁ〜ヒカリちゃん〜っ!私も太一さんみたいなお兄さん欲しい〜っっv」 ミミの言葉は、ただでさえ脱力している二人に追い討ちをかけるには充分で…二人は声も無く地面と仲良しにならざるを得なかった。 洞窟の外からは、水浴びする八神兄妹の楽しげな笑い声がする。 そんな彼らを不思議そうに見つめ、自分のパートナーを抱きかかえながらタケルは…おなかすいたなぁ〜と、アグモン達の帰りを待っていた。
時は移って三年後。 新たな敵と共に新しい『選ばれし子供』達も選出され、戦いは小康状態のまま一見穏やかに過ぎていた。 委員会で遅れているらしい大輔・京・伊織を待って、光子郎は自分が組んだ新しいプログラムを入力していた。 「ああ〜、ありましたねぇ、そんなことも…でも、いきなりどうしたんです?タケル君」 タケルの話に相槌を打ちながら、懐かしそうに光子郎が笑った。 「いきなりって訳じゃ無いんですけど、思い出しちゃって…。あの時のお兄ちゃんと同じ年になったせいか、お兄ちゃん達がうろたえた理由も、今なら分かりますしね」 ちらり、と窓際に視線を向けて、一層声を低くして頭を寄せた。 「…今でも、太一さんとヒカリちゃんって…一緒にお風呂に入っているんでしょうか…?」 P―――――――――――! 思いっきり関係ないキーを押してしまい、パソコンが非難の悲鳴を上げる。 「何だ!?大丈夫か、光子郎!?」 窓際で座っていた太一が驚いて声を上げたが、それ以上に裏返っている光子郎の方が吃驚していた。 「……何だって突然、そんなこと言い出したんですか?」 溜め息混じりの光子郎の科白に、タケルは乾いた笑いを漏らす。 「突然っていうか、あれを見て…」 タケルの視線を追ってそちらに目を向ける。 意識して見ていなかっただけに、思わず目が点。 彼女のバランスを支えるように、腰にはさり気無く腕が回され、調度目線が同じになった二人が何かの拍子に笑い合ったりすると…前髪が触れる所まで接近する。 「…………」 困惑したようなタケルの声。 ふと、彼等を見つめていた視線に気づいたのか、それとも只の偶然か…八神兄妹が示し合わせたように振り返った。 探るでも無く、いぶかしむでも無い二つの視線が、動揺指数85%の視線と交差する。 八神兄妹は何を言うでも無く、にっこりと微笑んで視線を外した。 「……光子郎さん…」 まぁ、いいか…と思う。 謎が謎を呼ぶ、神秘と混沌の世界『デジタルワールド』、そこは大いに光子郎の知識欲を掻き立て、かつ、満足させてくれる。 信頼しているし、誰よりも頼りにしている。 望む所だ…と、光子郎は思う。 それは、どんな形であれ自分が一生彼等と関わっていたいと望んでいることなのだから。
彼の下に人が集い、彼がいたから乗り越えられた、数々の試練。 彼等がいてこその、自分達の存在。
それが、あるべき姿。
おわり |
漫画ネタ第二弾(笑)
これは結構気に入っている部類に入っていたので、
漫画にするつもりだったのですが、登場人物があまりに
多いので、小説化(笑)
そして小説用にちょっとアレンジ…て、そんなの分かるのは
自分だけっすね…(苦笑)