初めは、頼り無い奴だと思っていた。
一番年上のくせに、決断力は無い。
優柔不断。
そしてすぐにパニくる…。
おかげでオレは、ヤマトと激突しながらも、意見を出さざるを得なかった。
すぐに突っかかってくるヤマトにうんざりしながら、それでも結論を出してくれるんじゃないかと彼を見れば、困ったように目を背けてしまう…。
オレはため息を一つついて諦めた。
仕方無い。悪役はオレがやろう…。
どういうわけか、よく分からないことで皆が動揺してしまう時でも、自分は驚きはしても『何をするべきか』という答えが頭の中にぽんっと浮かんでくる。
正しいかどうかは置いておいて、それでも進むべき方向というものはある。それは、オレにとっては考えるまでも無い当然の結論…でも、それが他人にとっては中々出せない答えだというのも知っていた。
だから説明もしなければ、反感を買うだろうこともよく分かっていた。
だが、オレはあえてそれをしないことにした。
予想通り、ヤマトはますます反抗的になった。
予想と違っていたのは、空や光子郎が不安そうにしながらもあまり反論したりしなかったことや、ミミちゃんやタケルが黙って従ってくれたり、彼が自分の意見をじっくりと考えていたりしたことだ。
おいおい、そんなに信用してもいいのかよ…。
人知れず苦笑を浮かべたことは少なくない。
自分では、結局皆が行き着くだろう答えでも、あっさり口にするのは誰かが反論してくるのを前提として言っていることが多い。
何も言わなければそのまま一歩も進めない時でも、その先さえ示せれば皆で答えに行き着く過程を考えることが出来る。
そこで自分の言葉が間違っていれば、誰かが教えてくれるだろうし、もっといい答えが見つかれば、その方がいい。
だから、自分は自分の考えを言っているだけなのに、皆があっさりと従ってくれる…。
これは、ある意味恐怖だった。
皆の命を、全部背負わされたようで、ひどく落ち着け無くて…知らず知らずの内に焦りに支配されていた。
今思えば、何て自分らしくも無い失敗。
傷つけたのは、大切なパートナーの心と体。
それが何よりも悲しくて、悔しかった。
腫れ物を扱うような仲間達。
それは彼も同じだったけれど、それでも、さり気無さを装って、いつの間にか側にいてくれた。
それに気づいた日の夜…コロモンに戻ってしまったパートナーを抱きしめて、少しだけ泣いた。
それを見たコロモンがひどくうろたえていたけれど、何故か嬉しそうに擦り寄って来た。
その温かさが胸に染みて、また少しだけ泣き…自分が泣いたのがものすごく久しぶりだったこと思い出して、笑った。
何時頃からだったろう。
反らされていた目線が、真っ直ぐに見つめられるようになったのは。
その瞳が、優しく緩むようになったのは…。
大丈夫だと言われているようで、ひどく安心出来たのを覚えている。
『無責任で言っているんじゃない』とはっきり言った彼の言葉が、何よりも嬉しかった。
初めは頼り無い奴だと思っていた。
だけど今は…彼がいてくれたから、全てを受け入れ、信じて待てたことを知っている。
「…丈ぉ〜、オレ邪魔じゃない?」
テスト前だということは知っていたけれど、どうしても会いたくて連絡も無しに訪ねて来た自分。
追い返されても顔だけは見れるだろうと思っていたのに、彼は驚きはしたものの快く部屋に上げてくれた。
以来数時間…相変わらず机に向かっている彼に、その足元に座り込んでサッカー雑誌を読んでいる自分…話かければ返してくれるし、ぞんざいな生返事もしない。
それでも帰れと言われ無いのをいいことに居座り続けているが、自分が勉強の邪魔になっていることだけは確かのはずだ。
「え?何で?」
机に向かい続けていた顔が、不思議そうな表情を乗せて太一を見る。
「何でって…そりゃ、さ…」
「太一は別に、邪魔なんかしてないじゃない」
含み笑いを浮かべて、太一の少し癖の強い前髪をさらりと撫でる。
「太一こそ、退屈なんじゃない?」
「んなの、全然無い!…オレは、丈の側なら…退屈なんて……しない」
言いながら、声がどんどんと小さくなる。
途中から恥かしくなったのだが、変な誤解をされるのが嫌で、言葉を切ることが出来なかった。
「うん、僕も同じ。太一がここにいてくれるだけで嬉しい。だから、全然邪魔じゃないよ」
優しい優しい丈の言葉。
彼の言葉はどこまでも真っ直ぐで、嘘が無いから安心する。
彼の側にいる時が、何所にいるよりも一番楽。
「…そっか」
「そーだよ」
軽やかな返事。
嬉しさに頬が緩むのが分かるが、どうせ彼からは見えないので直さない。
その時、後ろから手櫛を絡めた丈が、触れるだけのキスを太一の髪に贈る。
「!…丈!」
「こんなことも出来るしね♪」
真っ赤になって抗議すれば、楽しそうな笑い声が返って来る。
彼の頬も、気持ち赤らんで見えるのはきっと気のせいじゃ無い。
彼の瞳に自分が映っていると思うのは、決して自惚れなんかじゃ無い。
「…足りねぇ。もっとしろ!」
耳まで赤くなったまま、膝立ちになって丈にもたれ掛かる。
くっついているから、彼がどんな顔をしているかなんて分からない…でも、絶対に怒ったりはしないはずだ。
「…ホント、敵わないな…太一には…」
苦笑交じりの声に顔を上げれば、彼の大好きな優しい瞳にぶつかった。
あの瞳が『大丈夫』だと言ってくれている…太一は丈の肩に手をかけ、もっと見たくてその瞳を覗き込む。
そして、彼に触れたあたたかな空気を感じて微笑んだ。
初めは頼り無い奴だと思っていた。
今では、どんな時でも真っ先に浮かぶのは、彼の顔になっている。
おわり
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