誰もが心に傷を負い、周り全てが信じられなくなる時があるというのは…存外特別なことでは無いのかもしれない。 下を向き、膝を抱え、声を殺して泣く子供がいる。 誰が正しいとか、優れているとかいうことでは無い。 ただ、その後差し出された温かな手を、信じられるか否か…その手を取れるかどうかに、分かれ道がある。 孤独の中、人を信じられる勇気を持つ…その心の名前を『純粋』という。
初めの『選ばれし子供』の数は八人。 いるだけで安心する…そんな存在。 そんな彼等に、『仲間』として扱ってもらえることがどんなに嬉しかったことか。
『勇気』と『友情』の紋章のデジメンタルを継承したが、まだ何所か頼り無い所のある少年…大輔は、ウキウキとしながらパソコン教室の窓から外を眺めていた。 「太一先輩、早く来ないかな〜♪」 鼻歌交じりに呟かれた言葉がはっきりと聞こえた三人は、思わず目を合わせてこっそりと笑い合う。 今日は普段忙しくて中々会えない中学生組、太一・ヤマト・空、そして光子郎が手伝いに来てくれることになっていた。 「あ、太一先輩!」 大輔の声に、ヒカリとタケルが席を立ち窓際に駆け寄る。 「太一センパ―――イっ!」 窓から大きく手を振ると、下校中やクラブ中だったろう生徒達に囲まれた太一がにこやかに手を振った。 太一の側にはヤマトと空がおり、そこから二歩ほど下がった所に光子郎と京の姿があった。 「何だ、大輔君知らなかったの?京さん待ち切れないから迎えに行くって出てったじゃない」 きょとんとした風に言いのけるタケルも、実は大輔が気づいていなかったことなど先刻承知。 「くそ――っ、オレも行けば良かった!」 本気で悔しがっている大輔の姿を微笑ましく見て、ヒカリはついっと兄の姿を追う。 一足所か、随分先に小学校を卒業してしまった兄…もう二度と同じ学び舎で過ごすことは無いと思っていた彼と、ほんの一時とはいえ、共に過ごすことが出来る。そのために彼が扉を開ける瞬間が、ヒカリはとても好きだった。 文字通り、天使のような笑顔を浮かべていた二人が、ぴくりと反応する。 一人の可愛らしい少女が、友人に付き添われながらおずおずと進み、控えめに太一を呼び止めた。 「…………」 その様子に、大輔は何だぁ?と能天気に声を上げたが、その横の二人の周囲は一気に気温が下がっている。賢い伊織は二歩分ほど距離を取った。
太一を呼び止めたものの、少女は赤くなって俯いたままだった。 「何?」 溺愛する妹のため、年下には必要以上に優しくしてしまう太一は、柔らかい笑みを浮かべて少女を見つめた。 ふと、太一は少女が握り締めている可愛らしい封筒に目を止める。 ははぁ〜ん… 何となく事情を察して、怖がらせないよう絶妙のタイミングで少女に近づいて囁いた。 「…それ、ヤマトにか?」 弾かれたように顔を上げた少女に、更に優しく微笑む。 「気持ちは分かるけど、そーいうのはちゃんと本人に直接渡さないとダメだぞ。今呼んでやるからさ」 赤いのか青いのか分からない顔色になってしまった少女の焦りを、照れていると解釈した太一がヤマトを呼びつける。 「何?」 同じ科白なのに、どうしてこんなに受ける印象が違うのだろう。 「あの…バンド活動頑張って下さい…応援してます」 突然の激励に、バンドを始めてから俄か嘘フェミになった彼は、思い出したように少し引きつった営業用スマイルを浮かべる。 「どうだった?」 既に玄関に上がりかけていた仲間達に小走りに近付いたヤマトは小首を傾げる。 「…バンドがんばれってさ…小学生が、ライブに来てるのかな?」 ヤマトの呆れた声に、太一はぽりぽりと後ろ頭を掻く。 「太一さんって優しいんですねv」 結果がどうという所は綺麗に無視し、『女の子の気持ちを汲んで』という所のみを上げて京が言った言葉に、光子郎がにっこりと意味ありげに微笑んだ。 「ほら、ヒカリちゃん達が待ってるわ。行きましょ太一、ヤマト!」 込み上げる笑いを必死で押し隠し、空が促して一行は校舎に入って行った。
「上手いこと交わしたみたいだねv」 一部始終を上から眺めていた四人は、内二人の意味ありげな言葉に首を傾げる。 「え?何が?何の話?」 先程までの重苦しいオーラを払拭して、一転して晴れやかな笑顔を向けるヒカリとタケル。 「…お二人とも、あの会話が聞こえたんですか…?」 パソコン教室の窓から太一達の場所まで、悠に五十Mはあっただろう…張り上げれば声も届くだろうが、その意志も無く三階の教室にいて聞けるだろうか…。 この先は未知の領域…。 彼が知識の蓋を閉じだ時、にこやかな声と共に扉が開いた。 「待たせたな!行こうぜ!」 「太一先輩!」 嬉しそうな出迎えの声に、芝居がかったようにポーズを決めてみたりする。 彼といる時は、誰もが優しい顔をした。 人と人の心に敏感で、誰よりも純粋な心を持つ人。
デジタルワールドへの扉を開き、デジヴァイスを掲げた時、妹がそっと兄に囁いた。 「お兄ちゃん、さっきの女の子どう思った?」 既に忘れかけていた少女の話題に、一瞬きょとんとした太一だったが、すぐにふわりと笑って優しく妹の頭を撫で上げた。 「相変わらず、ヤマトはモテるよな♪」 その言葉が聞こえた空・光子郎・タケルの三人はこっそりと忍び笑いを漏らした。
どんな宝にも勝る、『純粋』という名の心。
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漫画で描こうと思っていたネタだったのですが、小ネタのため、
描く機会が無さそうなので小説としてUpしてみました(笑)
ア○メ○ィアに載っていた『選ばれし子供』の条件を見て思い
ついたものです。
太一さんを賛美したかっただけ…というのもあります…(笑)